【裁判員制度10年】 一審破棄率の上昇 増加する「罪名落ち」「鑑定留置」 2019/7/2

2019-07-03 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

【裁判員制度10年】死刑判決を高裁が破棄…娘殺害された母の嘆き「一審なんか無くていいんじゃ」

2019/7/2(火) 10:00配信  東海テレビ

  荻野美奈子さん(66)。10年前、娘の友花里さん(当時21)を見知らぬ男に殺害されました。
 荻野さん:「成人式の日にね、写真館に行って撮ってきた写真です。(娘は)ブルーが好きだったんです。 私は『この着物がいいわぁ』って」
  一審の裁判員裁判で男に下された死刑判決は高裁で破棄されました。
 荻野さん:「高裁の裁判官たちのね、いる位置がね、私たちの位置と全然違って相当『上』なんですよね。私たちをすごい見下ろしてるなと(感じた)」
 荻野さんが感じた、司法との距離・・・
  国民が裁判員として、司法に参加する“裁判員制度”開始から今年で10年になります。娘を見知らぬ男に殺害された女性は、裁判員が出した死刑判決が破棄された控訴審の裁判を通じて、制度の理念がなし崩しになっていると感じました。女性が抱いた司法との距離とは。制度10年で見えてきた課題を追いました。

■『一審破棄率の上昇』
  2009年10月、千葉県で当時大学生だった友花里さん(当時21)は、自宅マンションに侵入してきた男に現金を奪われた上、殺害され火をつけられました。
  千葉地裁で行われた裁判員裁判、男に下されたのは死刑判決…友花里さんの母、美奈子さんは、判決が出たときにこう感じたといいます。  「裁判員裁判だから死刑判決が出たのかなと思うんですね。(裁判員が)身内がこうなったらっていうことを思われたんじゃないかなと」   裁判員裁判では、プロの裁判官と共に6人の裁判員が判決を決めます。しかしそれは、一審・地裁での裁判のみ。二審の高裁以降、判断をするのはプロの裁判官のみ。
 そして二審の東京高裁は、一審の死刑判決を破棄し、出した判決は「無期懲役」。その後、確定しました。一審を破棄されたとき、美奈子さんはその説明に違和感を覚えたと話します。
 「(判決で)『今までの”判決の例”ではこういう場合(殺害されたのが1人で計画性がない場合)は無期懲役か有期刑かどちらかで、死刑は出たことない』って言われたんでね。同じ事件は2つとないですからね。それぞれが事情を抱えて、それぞれが違う判決が出て、私はそれでいいと思うんですね」

  裁判員裁判の死刑判決が高裁で覆されたケースは、友花里さんの事件を含めて5件ありますが、死刑に限らずこうした裁判員裁判の判決の「破棄率」は、ここ数年10%を上回る水準で推移しています。
 「『裁判員裁判を導入しよう』ということで、最高裁が言い出したことを最高裁自らが今はどんどんなし崩しにしているという…。最高裁がそんな考えになってきているんだったらね、私はもう一審なんかしなくていいんじゃないのって、いきなり高裁から始めればいいんじゃないのって思いますよね」
  元裁判官で明治大学法務研究科の瀬木比呂志教授は、「裁判員の判断は尊重すべき」と話します。 
   「市民参加の制度を作る以上はやっぱりその判断を尊重するのが原則で、(裁判所が)自分で種をまいておいて、その結果を破るっていうのはどうかっていうことがあるんですね。ごく普通の人が初めて裁判員で量刑(判断)をやって、この人は悪いことをやったんだということになれば、どうしても(量刑は)重くなります。それが重くなったら、今度は重すぎるって破棄するのは(裁判員制度の)趣旨としてちょっとどうかと」  

■増加する「罪名落ち」
 ほかにも、裁判員制度の影響はあります。
  通常、警察が容疑者を逮捕すると、その身柄は検察庁へと送られ、検察が起訴するか判断します。その際、検察が受理した時よりも刑の軽い罪名に変わることを「罪名落ち」といいます。   実はこの「罪名落ち」が裁判員制度導入後、増えているといいます。
 去年2月、名古屋市瑞穂区でいとこの女性(当時57)に乱暴する目的で暴行を加えて死亡させ、現金などを奪ったとして男が逮捕されました。
  容疑は「強盗・強制性交致死」、最高刑は死刑です。
 男も容疑を認めていましたが、名古屋地検はより刑の軽い、傷害致死などの罪に「罪名落ち」して起訴。裁判員裁判で出た判決は、懲役12年でした。
 「罪名落ち」について地検の幹部は「証拠を精査して、どの罪が成立するかを検討した結果だ」と話しますが、一方、事件に携わった愛知県警の捜査員は、「現場の本音としてはガッカリ。裁判での失敗を怖がっているのかもしれないが、もっとチャレンジしてほしいよ」と本音を漏らしました。

   

 青の棒グラフは検察庁が殺人容疑で事件を受理した件数。これに対し、赤の棒グラフは殺人罪で起訴した件数で、裁判員制度導入後は、年々減少傾向になっていることがわかります 。
 刑事訴訟法に詳しい南山大学法学部の岡田悦典教授は、被告の刑の重さを大きく左右する「罪名落ち」への裁判員制度の影響について、こう話します。
 「裁判員制度が導入されたことによって、公判活動だけではなく、検察官の訴追・起訴のあり方についても、ある種一般市民の人からのチェックが入るようになった。(検察が)強引な形でやること(起訴すること)は気にするようになった部分もあるかもしれない」

 ■増加する鑑定留置
 司法の場ではない医療の現場にも、裁判員制度の弊害ともいえる影響が出ています。
 被告らの刑事責任能力を見極めるため、病院などで精神状態を鑑定する「鑑定留置」。
 専門知識がない裁判員が、公判で医師の鑑定結果を聞くことで、被告の責任能力の有無を判断しやすくなるとされていますが、裁判員制度が始まった2009年を境にその件数は伸びています。
 愛知県精神医療センターの粉川進院長は、「裁判員制度が始まることで、鑑定留置の依頼は増えると考えていた」と話します。
 「(裁判員が)疑問なく判断を進めていくには、精神科的な評価が必要な場合も当然あるだろうと」
 入院での「鑑定留置」には、広さ6畳半ほどの、重度の精神疾患がある患者を集中して治療するための病室を使うといいます。しかし、一般病院での「留置」にはリスクもあります。
 去年5月、守山区の東尾張病院から鑑定留置中の男が脱走した事件。愛知県内を逃げ回り、22時間後に逮捕されましたが病院のセキュリティが問題視されました。
 精神医療センターの部屋でも、窓の手前に頑丈な柵を立てるなどの脱走対策はとっていますが、留置中はリスクがつきまといます。
 「率直に言って(鑑定留置は)やりたくはないですね。必ずしも治療目的ではなく、判断・鑑定するためなので、日常の仕事とはやり方も違ったりするし、逃げられないような安全対策も通常の一般的な治療に比べると、より神経質にやらないといけないのは負担ではありますね」
 10年が経ち、様々な課題や弊害が見えてきた裁判員制度。
 節目を迎える今、制度を改めて見直す時期なのかもしれません。
 娘の友花里さんの事件の裁判で、裁判員が出した死刑判決が破棄され、男の無期懲役が確定してから4年。兵庫県の荻野さんは、当時のことを改めてこう話します。
 「高裁の裁判官のいる位置がね、私たちの位置と全然違って相当『上』なんですよね。私たちをすごい見下ろしてるなと(感じた)」
 国民と司法をつなぐ裁判員制度。開始から10年…その距離は、遠いままです。
 「10年たった今やから、裁判員裁判を施行するにあたっての、一番最初の原点に立って、一般市民の感覚を司法が取り入れて裁判しようじゃないかっていうふうに導き出したところに、もう1回立ち返ってほしいなと思います」

   連載「裁判員制度10年」
 この記事は東海テレビとYahoo!ニュースの連携企画による連載記事です。国民が裁判員として司法に参加する「裁判員制度」開始から10年、司法と国民との距離は近づいたのかを振り返ります。   東海テレビ放送
 最終更新:7/2(火) 10:00 東海テレビ

    ◎上記事は[Yahoo!JAPAN ニュース]からの転載・引用です
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裁判員裁判の死刑判決破棄、最高裁で無期懲役確定「千葉大生荻野友花里さん強殺事件」被害者母が講演
<裁判員裁判>初の死刑破棄確定へ 千葉大生・荻野友花里さん強殺 竪山辰美被告 2015/2/4 
最高裁「死刑は生命を奪い去る究極の刑罰 過去の判例踏まえた議論を」=裁判員裁判の死刑判決 認めず 2015/2/3
千葉大 荻野友花里さん殺害事件 竪山辰美被告 1審(裁判員裁判)死刑、2審無期 / 検察・弁護双方が上告 
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判決後に裁判員「市民には重い決断。死刑事件に裁判員制度は適用しないで…」⇒初の死刑執行 2015/12/18 
見逃せない遺族感情の変化「死刑になるな。生きて帰ってこい」…宮崎家族3人殺害事件・奥本章寛死刑囚に
「“確定死刑囚”の告白 ~裁判員、遺族の想いは~」 宮崎 家族3人殺害事件 奥本章寛死刑囚
最高裁、高裁判決(裁判員裁判の死刑判決破棄)を支持 死刑破棄確定3件目 「長野3人強殺・死体遺棄事件」2015/2/9 
最高裁判所長官 竹崎博允氏が主導した司法制度改革の“利権″「裁判員制度が司法をダメにした」
検察が上告断念 「長野3人強殺・死体遺棄事件」池田薫被告(裁判員裁判の死刑判決破棄 3例目)


裁判員裁判の死刑破棄2件 / 裁判員法=「国民の常識を裁判に反映させる」とは書いていない 
裁判員裁判の死刑破棄2件、遺族ら失望 「民意の法廷 なぜ否定」  
 産経ニュース2013.10.22 13:48
 東京高裁で今年6月と10月、裁判員裁判が言い渡した1審の死刑判決を破棄し、無期懲役に減刑する判決が言い渡された。2つの判決を下したのは同じ裁判長で、過去の判例を重視するなどして減刑の判断を下した。「民意を取り入れて変わったはずの司法が、市民も加わった判断をなぜ否定するのか」-。遺族らの失望は深い。
 「なぜ刑を軽くするのか…」。平成21年、千葉県松戸市で竪山辰美被告(52)によって殺害された荻野友花里さん=当時(21)、千葉大4年=の父、卓(たかし)さん(64)と母、美奈子さん(60)は、兵庫県稲美町の自宅で苦悶(くもん)の表情を浮かべた。
 竪山被告は友花里さん宅に侵入し、現金やキャッシュカードを奪った後に殺害、翌日に放火した。
 千葉地裁での裁判員裁判には卓さんや美奈子さんも被害者参加。殺害された被害者が1人の場合、過去には死刑にならないケースも少なくないが、判決は「犯行は冷酷で更生可能性は乏しい」として、検察の求刑通り死刑を言い渡した。
 一方、高裁の審理はわずか1回。村瀬均裁判長は今月8日、死刑破棄の判決を言い渡した。死刑回避の条件となる「被告が更生する可能性」には触れず、殺害された被害者が1人という点を重視した。美奈子さんは「被害者や遺族に、とても『冷たい』裁判だと思いました」。  東京高検は、友花里さんの命日にあたる21日、判決を不服として最高裁に上告した。美奈子さんは「市民が加わった裁判員裁判が出した死刑判決の重みを、最高裁は正しく判断してほしい」と話している。
 「被告は父も含めて3人もの命を奪ったのに、意味がわからない」
 21年11月、南青山のマンションで、金を奪おうとした伊能和夫被告(62)に殺害された五十嵐信次さん=当時(74)=の長男、邦宏さん(47)は悔しそうに話した。
 伊能被告は昭和63年に妻を殺害し、自宅に放火し長女を焼死させたとして殺人罪などに問われ、懲役20年の判決を受けて服役。出所から半年後に、強盗目的で信次さんを殺害した。

 1審東京地裁の裁判員裁判は「冷酷非情な犯行で前科を特に重視すべきだ」として死刑を言い渡した。しかし2審で村瀬裁判長は「前科を重視しすぎだ」として死刑を破棄し、無期懲役を言い渡した。伊能被告も最高裁に上告された。
 犯罪被害者支援弁護士フォーラムの事務局長、高橋正人弁護士は「裁判員裁判が、先例と違う判断をするのは当然。高裁の裁判官が『先例と異なる』として1審判決を破棄するのは、裁判員裁判の制度を否定することになる」としている。

  ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です *リンクは来栖
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〈来栖の独白2013/10/22 Tue. 〉
 多くのリスク、問題を抱えながら拙速に発足した裁判員裁判。市民感覚を判決に反映させるものと考え違いをしている人が多い。とりわけ被害者遺族にあっては、そうだろう。が、裁判員制度のどこにも「市民感覚を反映」といった趣旨は謳われていない。遺族は何としても被告人に死刑判決をと求めるが、如何なものか。経験や資格、学識等が選任の根拠とされず(必ずしもそれらを有していなくとも)無作為に選ばれた者が死刑判決を下すのこそ、危うい限りだ。国は、裁判員裁判をどうしてもやってみたいなら、民事裁判から手がけてみればよかった。いきなり死刑事件というのは、まことに危険だ。
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裁判員法=最高裁や法務省が言う「国民の常識を裁判に反映させる」とは書いていない
 特集ワイド:裁判員裁判の死刑判決 亀井・国民新党代表、田辺・元最高検検事に聞く
 毎日新聞2010年11月17日 東京夕刊
 横浜地裁で16日、国民が参加する裁判員裁判では初めて死刑判決が出された。市民参加によって死刑判決を下すことについて、「死刑廃止を推進する議員連盟」会長、亀井静香・国民新党代表と、元最高検検事の田辺信好弁護士に聞いた。【宍戸護】
◇多数決で決めてはならない
--「死刑廃止を推進する議員連盟」会長・亀井静香氏
 横浜地裁の死刑判決を見ると、やはり死刑制度があるから、こういう判決が出たのだと思う。しかも裁判長が控訴を促したでしょう。自分で死刑を出しておいて、控訴しなさいとはどういうことですか。人間の命を奪うことを何と考えているのか、私はおかしいと思う。死刑判決を出す場合、裁判官と裁判員は全員一致じゃないといけない。それでも、裁判員は自分が出した判決を一生悩み、苦しむことになる。
 裁判員裁判は、プロの裁判官が陥りやすい弊害を、一般人である裁判員の常識や生活感覚で埋め合わせるという意味では悪くない。しかし、証拠判断の訓練を積んでいない裁判員が、プロの裁判官と同じ重みを持って、判決にかかわることには問題があるのではないか。裁判官は証拠が立証されていく時系列の重みなどを判断する経験を積んでいるが、裁判員はその経験がなく、情緒的な判断をしやすいからだ。
 死刑判決が出る可能性がある裁判を裁判員に任せることに、私は無理があると思う。裁判官だから確実な判決を下すと言えるわけではないが、裁判員が被害者の関係者の「罰してほしい」という声の中で、しかも数日程度のわずかな期間で的確な判断ができるのか。袴田事件(元プロボクサー、袴田巌死刑囚が第2次再審請求中)では、1審で死刑判決とした元裁判官が「合議した裁判官の主張で死刑になった。2対1で負けた」と明らかにし、「無罪の心証だった」と公表したでしょう。死刑判決をめぐってはプロの裁判官ですら、一生大きな十字架を背負ってしまう。まして民間人である裁判員がその重みに耐えられるのかと思う。繰り返すが死刑判決の可能性がある裁判を裁判員にやらせるというならば、判決を決める評決は裁判官、裁判員の全員一致にすべきだ。
 そもそも私は死刑制度を廃止すべきだと考える。人の命はそんなに軽いものではない。理論的にどうだこうだというよりも、人間の命は大事にせなあかんと思う。どんな犯罪であれ、国家権力が人を殺す、しかも手足を縛って絞め殺すなんていうのは認められない。人間は、自分の一身を投げ捨ててまで仏のようないいこともすれば、残虐非道なこともやる。人をただ罰する、応報感情を満足させる、というだけではなく、そういう人が現れた場合でも、最低限命は奪わない、そして償いはさせる。危険な人物は除去すればいいという発想だけでやり出したら、国家や社会は非常に暗くなってしまう。
 冤罪(えんざい)で死刑になる可能性もある。郵便不正事件では捜査機関によって証拠が改ざんされ、村木厚子さんが逮捕、拘置された。僕たちは冤罪の可能性が高い司法制度の下で暮らしていることが明らかになった。最高検の検事総長以下、捜査をチェックする機関がいくつもあるのに、裁判所が無罪判決を出すまでチェックできなかった。冤罪は確率的には少ないかもしれないが、当事者にとっては100分の100だ。今こそ、国民が目覚め、死刑制度について真剣に考えないといけません。
◇生涯悩みを抱えるのでは
--元最高検検事・田辺信好氏
 死刑制度は存続させるべきだが、裁判員裁判については反対だ。死刑も裁判員が判断すべきではないと考える。
 被害者やその遺族は、犯人に対し応報できないから国が代わりをする。被害者の命が重いからこそ、加害者も命をもって償うしかない。もちろん冤罪はあってはならない。プロの裁判官、検察官、弁護人とも実力を磨いて冤罪防止に全力を注ぐべきだ。無実のものを死刑で殺してはならないのは当たり前のことだ。
 裁判員裁判は問題が多い。例えば、裁判は、被告が罪を認めている場合、自白を信用できるか、自白に身代わりの可能性がないかの判断が必要だ。否認の場合は、目撃者や指紋、DNA、いろんな証拠を総合して有罪と言えるのかを判断する。一般市民である裁判員には、有罪無罪だけではなく量刑について判断することも難しいと思う。中にはできる人もいるかもしれないが、今の裁判員は能力に関係なく無作為に抽出されている。裁判員が「疑わしきは無罪」に徹すれば、冤罪を防げるといわれるが、米国の陪審制では有罪判決後、無罪と分かったケースが多数ある。
 死刑も同じ理由で裁判員が判断すべきではない。横浜地裁で16日に出された死刑判決は、死刑選択の基準「永山基準」から見ても妥当といえるが、裁判長が「控訴を勧めたい」としたのは解せない。判決に自信がなかったのか、無期懲役の意見を出した裁判員に気を使ったのか。いずれにせよ、裁判員は今後「あれでよかったのか」と幾度も振り返り、守秘義務にも生涯悩まされるだろう。正常な精神を保てない人が出るかもしれない。
 死刑判決をめぐり、裁判官と裁判員の間で、意見が分かれたとも推測されるが裁判官と裁判員の多数決は、憲法76条第3項「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」の「裁判官の独立」を害する疑いがある。例えば、現行では裁判官3人のうち2人は死刑、1人は無期懲役で、裁判員6人のうち4人が無期の判断なら無期になる。つまり裁判官3人だけだと死刑だが、裁判員が加わると無期。裁判官3人で決めた場合と、裁判員が加わった場合では結論が異なるのでは憲法違反の疑いがある。
 裁判員裁判で死刑を求刑されて11月1日に無期懲役の判決を出した「耳かきエステ」の裁判員は、報道によると「永山基準は裁判官による裁判のもの」と述べていた。しかし似た事実、犯情、情状なのに、死刑と無期に分かれるならば、公平な裁判を受ける権利を保障している憲法37条第1項「すべての刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」にも反する。
 裁判員裁判の目的は裁判員法1条で「国民の理解の増進と信頼の向上」と定めている。最高裁や法務省が言う「国民の常識を裁判に反映させる」とは書いていない。国民に裁判への深い関心を持たせた意味は認めるが、逆を言えば、制度の目的はすでに達成されたといえ、この際廃止すべきだ。

 ◎上記事は[毎日新聞]からの転載・引用です *強調(=太字)は来栖 

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