産経ニュース 2015.3.25 06:00更新
【日本の議論】川崎中1殺害事件で再燃「少年法適用年齢引き下げ」 選挙権・民法「18歳以上」との整合性も絡み
凶悪な少年事件が起こるたび、改正の是非が問われる少年法。川崎市中1殺害事件を機に、再びその議論が熱を帯びそうだ。折しも今国会では投票権を18歳以上に引き下げる公職選挙法改正案が提出されており、少年法の適用年齢もこれに合わせるべきとの意見が出ている。昭和23年に誕生し、複数回の改正があった同法だが、適用年齢の引き下げとなれば大きな転換点。議論はどこへ向かうのか。
*少年法のあり方、政治家の中にもさまざまな意見が
多摩川河川敷で上村遼太さん(13)を殺害したとして、神奈川県警が18歳と17歳の少年3人を逮捕した2月27日。自民党の稲田朋美政調会長は事件に関して、「犯罪を予防する観点から、今の少年法のあり方でいいのかはこれから課題になるのではないか」と、記者団に語った。
「少年が加害者である場合は(報道などで)名前も伏せ、通常の刑事裁判とは違う取り扱いを受けるが、(少年犯罪が)非常に凶悪化している」とも指摘した。
また公明党の石井啓一政調会長は、「20歳以上」の選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる公選法改正案が今国会に再提出される見通しであることを踏まえ、将来的に少年法年齢の引き下げも検討される可能性があるとの考えを示唆した。
一方、慎重な見方を示しているのが、上川陽子法相だ。3月3日の記者会見では、「累次、必要な改正が行われてきた。これまでの改正の経緯、少年事件の発生状況を踏まえた上で、慎重な検討が必要と考えている。選挙年齢の引き下げの議論と同一のものとは考えていない」と語った。
ただ法制審議会では、民法の成年年齢も将来的に18歳に引き下げるのが適当との答申が出ている。上川法相は民法の成年年齢については、「選挙権年齢に一致させることができるような経過的な措置の要否や必要な周知期間などについて、検討を鋭意進めたい」と語っている。
*「少年育成は社会責任」との理念が根底に
少年法は、2つの矛盾する理念の間にある。
「犯罪者には、刑罰を加えることで社会秩序の維持を図る」
「少年には、社会全体が健全育成の責任を負い適切に保護する」
このバランスをとるため、同法は「保護優先主義」を基本原則とし、罪を犯した少年にも、刑事責任より保護や教育を優先させている。このことは少年が未成熟で、悪に染まりやすい半面、更生の可能性も高いという考えにも基づいているためだ。
成人との大きな違いは、手続きが家庭裁判所中心となることだ。刑事手続きよりも柔軟で、手続きそのものが健全育成を目指すものになっている。また、通常の裁判では検察側と弁護側が主張を戦わせるのに対して、少年審判に対立関係はない。家庭環境など個々の少年の背景に合った処遇を家裁が決めているのだ。
*凶悪少年事件のたびに法改正、厳罰化の流れへ
現行の少年法は昭和23年、戦後の占領下で制定された。
「当時の少年といえば街にあふれた戦争孤児。国家がこういった保護の手が届かない少年らの親に成り代わる、という思想が根底にある」。元最高検検事で筑波大名誉教授(刑事法)の土本武司氏は解説する。非行も、主に空腹をしのぐための盗みが多い時代だった。
それから約70年。少年法は凶悪事件が起こるたび見直され、現在まで複数の改正を経ている。
第一の大きな契機は平成5年の山形マット死事件。山形家裁の審判で7人中6人が否認し3人が不処分となったにもかかわらず、仙台高裁が不処分の3人のアリバイを事実上否認した。少年審判の事実認定のあり方が問題視された。
さらに9年の神戸連続児童殺傷事件では、残忍な犯行にもかかわらず、当時刑事罰に問われない14歳だった少年は医療少年院に送致するにとどまった。
これらの事件を受け、13年施行の改正法では、重大事件の審判で検察官関与を認め、刑事罰の対象を16歳以上から14歳以上に引き下げた。16歳以上が故意に被害者を死亡させた場合は、事件を検察に逆送する「原則逆送制度」も導入された。19年には、少年院送致の下限が14歳から「おおむね12歳」に引き下げられた。
さらに21年に大阪府富田林市の少年が男子高校生をバットで殴り殺した事件の判決公判では、裁判長が懲役5年以上10年以下の不定期刑を言い渡した上で、「少年法は狭い範囲の不定期刑しか認めておらず、刑期は十分でない」として、無期刑と不定期刑の差がありすぎることを指摘した。さらに、「本件を機に議論が高まり、適切な改正がされるよう望まれる」と異例の言及をした。
これらのことから、昨年4月の改正では、有期刑の上限を15年から20年に、不定期刑も「5~10年」を「10~15年」に引き上げられた。
*果たして、18歳や19歳は「大人」か「子供」か
厳罰化の道をたどってきた少年法。しかし、運用面ではイメージほどの変化はないとの意見もある。
犯罪捜査に詳しい法政大の越智啓太教授(犯罪心理学)によると、原則逆送制度を導入しても、検察が家裁に事件を再送致し、少年院送致や保護観察などの保護処分となるケースが多いという。少年刑務所の入所人数も大きく変わったわけではない。
「刑事処分が妥当と思われる凶悪事件もあるが、少年の場合、本人が凶悪というよりは周囲に流されたり家庭環境に影響されたりしているという状況を無視しきれないのではないか。改正はあったが、少年の将来性を考えるというポリシーは守られている」と説明する。
では適用年齢の変更についてはどう見るべきか。
犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務局長の高橋正人弁護士は、「現行の少年法と市民感覚では乖離(かいり)がある。保護優先の理念も大事だが、それは結果を回復できるときの話。結果が重大で手段も残忍な犯行であれば、厳しく対応しないとかえって更生を妨げる」と断言。「18歳以上なら、普通の生活のあらゆる判断ができ、善悪も判断できる」として、適用年齢の引き下げに前向きだ。
これに対し、元家裁調査官で立命館大大学院の野田正人教授(福祉学)は厳罰化に懐疑的だ。「刑務所に入ればかえって素行が悪くなる例もある。抑止効果も高くない」と指摘する。
ではどうすべきか。野田氏は、犯罪をしても刑事責任を問わずに医療機関で社会復帰を促す「触法精神障害者」の考え方を挙げ、「今は成人でも必要なら刑事罰以外の手段を検討する流れ。少年法の適用年齢の引き下げは、更生の手を差し伸べる対象を狭めることになる」と話す。
18歳や19歳は大人なのか子供なのか。越智教授は「非常に難しい」としたうえで、最終的には国民の感覚や世論に合わせるのが妥当だとの考えを示す。ただ「権利と責任のバランスから、選挙権と少年法の年齢を同じくすべきとの声があるのも確かだろう」(越智教授)としている。
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◇ 川崎中1(上村遼太さん)殺害事件 加害少年の罪の重さ…犯行の残忍さや年齢が18歳以上であることから…
◇ 実名公開なしや処分の軽さに憤り 川崎中1殺人で少年法見直し論が広がる
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◇ 改正少年法成立 「有期刑」上限15年⇒20年 / 「不定期刑」短期5年⇒10年、長期10年⇒15年 2014-04-12
◇ 少年死刑判決 二審の役割果たしたか 「石巻3人殺傷事件」 仙台高裁 控訴棄却
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