オウム・松本被告、死刑が確定
地下鉄・松本両サリン事件や坂本堤弁護士一家殺害など13事件で殺人罪などに問われ、1審で死刑判決を受けたオウム真理教の麻原彰晃こと松本智津夫被告(51)について、最高裁第3小法廷(堀籠幸男裁判長)は15日、控訴趣意書の未提出を理由に控訴を棄却した東京高裁決定を支持、弁護側の特別抗告を棄却する決定をした。
これにより、初公判から10年5か月に及んだ松本裁判は、控訴審で一度も公判が開かれないまま終結し、松本被告の死刑が確定した。
松本被告の裁判は、1996年4月に東京地裁で初公判が開かれ、2004年2月、死刑判決が言い渡された。控訴審では、弁護人が「被告に訴訟能力はない」と主張して控訴趣意書を提出期限(昨年8月末)までに提出しなかったため、東京高裁は訴訟能力を判断するための精神鑑定を行った上で、今年3月、控訴棄却を決定。弁護側の異議申し立ても同高裁が退けたため、弁護側が最高裁に特別抗告していた。
(読売新聞) - 9月15日16時10分更新
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http://www.courts.go.jp/saisinhanrei.html
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でないか,実質において単なる法令違反の主張であり,その余は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
なお,本案記録を含む関係記録(以下「本件記録」という)を精査しても,刑訴法411条を準用すべき事由は見当たらない。
所論にかんがみ職権で判断する。
まず,所論は,申立人の訴訟能力を肯定した原々審及び原審の判断を論難する。
しかし,原々審が選任した鑑定人及び検察官が依頼した医師は,いずれも申立人を直接触診等した際に申立人が意図的とみられる反応等を示したことを確認した上,その鑑定書及び意見書において,医学的見地から,申立人の訴訟能力を肯定しているものであってその記載内容自体及び本件記録から認められる諸事実すなわち申立人の本案事件第1審公判当時の発言内容,判決宣告当日の拘置所に戻ってからの言動,その後の拘置所内での動静,原々審の裁判官が直接申立人に面会した際の申立人の様子,申立人に対する頭部CT検査,MRI検査及び脳波検査において異常が見られないことなどの諸事実に徴すれば,上記鑑定書及び意見書の信用性はこれを肯認するに十分であり,これとその余の諸事実を総合して申立人の訴訟能力を肯定した原々決定を是認した原審の判断は,正当として是認することができる。
次に,所論は,控訴趣意書の提出が平成18年3月28日になったことについては,刑訴規則238条にいう「やむを得ない事情」があると主張する。しかし,控訴趣意書の提出期限は平成17年8月31日であり,同期限が延長された事実はないばかりか,同日の裁判所と弁護人との打合せの席上,弁護人は,控訴趣意書は作成したと明言しながら,原々審の再三にわたる同趣意書の提出勧告に対し,裁判所が行おうとしている精神鑑定の方法に問題があるなどとして同趣意書を提出しなかったものであり同趣意書の提出の遅延について同条にいうやむを得ない事情があるとは到底認められない。弁護人が申立人と意思疎通ができなかったことは,本件においては,同趣意書の提出の遅延を正当化する理由とはなり得ない。
さらに,所論は,弁護人の行為の結果として申立人の裁判を受ける権利を奪うことになるのは不当である旨主張する。しかし,私選弁護人の行為による効果が,被告人の不利益となる場合であっても被告人に及ぶことは法規の定めるところであり,本件において弁護人が控訴趣意書を期限までに提出しなかった効果は,当然に申立人に及ぶものである。また,これを実質的にみても,申立人は,自ら弁護人と意思疎通を図ろうとせず,それがこのような事態に至った大きな原因になったといえるのであり,その責任は弁護人のみならず申立人にもあるというべきである。その他,本件記録を調査しても,原々決定を維持した原判断を揺るがし得るような事情を見いだすことはできない。
よって,刑訴法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 堀籠幸男 裁判官上田豊三 裁判官藤田宙靖 裁判官那須弘平)
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