負担先送りが招いた混迷  改革も財政規律も後退した「骨太方針」

2009-06-24 | 政治
骨太の方針―負担先送りが招いた混迷
朝日新聞2009/06/24 社説
 財政健全化をめぐる格闘の歴史に刻まれる「骨太の時代」は終わった。そう見てよいのではないか。
 政府は経済財政運営の方向を示す「骨太の方針09」を決めた。小泉政権から引き継いできた歳出改革の象徴のひとつだった「社会保障費の抑制」は、与党の猛反発で空文化した。
 医療や介護など福祉のほころびを直すには、社会保障費の抑制をこれ以上続けることはできず、迫り来る総選挙はとても戦えないという状況認識の反映といえるだろう。
 「骨太の時代」は小泉内閣発足の01年に始まる。それまで財政規律は、政・官・業の「鉄の三角形」による歳出圧力を大蔵省(現財務省)が抑え込む形で維持されていた。だが、90年代後半の景気対策で財政赤字が急膨張。これを制御する新機軸が経済財政諮問会議での骨太の方針だった。
 官邸主導による予算編成と、歳出抑制を主な手段として財政再建を推進する舞台装置。その上で、納税者の「無駄遣い」批判を背に、公共事業費の削減などによる歳出構造の改革を進めた。市場原理の重視や「小さな政府」の理念を武器に、道路公団や郵政事業の民営化も推進した。
 しかし財政運営はやがて壁にぶつかる。小泉内閣は「骨太06」で5年間の歳出削減・抑制目標を掲げ、後継政権を縛ろうとした。節約に成果を上げた半面、福祉の抑制という「痛み」に耐えるよう国民に求め続けることになった。メリハリの乏しい歳出削減頼みで、負担増は先送りを決め込んだ手法の限界が示されたといっていい。
 安倍、福田両政権は早晩、歳出構造をもっと大胆に見直すか、負担増への道を示す形で骨太の枠組みを革新する必要があったが、果たせなかった。ようやく麻生政権が福祉のほころびを認め、社会保障を強化するために景気回復後に消費税率を引き上げるという方針を掲げはしたが、総選挙を前にした「骨太」に「消費税」の文字はない。
 世界経済危機という要因もあるにせよ、官邸の求心力、政権が何を目指すのかという方向づけの弱さが無残なまでに示された形だ。
 来る総選挙で民主党が勝てば骨太の枠組みは廃されよう。だが、「消費増税を4年間封印し、行政の無駄を省くなどして20兆円をひねり出す」という民主党の方針は「在任中は消費税を上げない」とした小泉路線を思い出させる。民主党が何を目指すのかも、決して明確とはいえない。
 小泉改革の次に政治が目指すべき方向性を示すことができるか。これは日本政治全体の大テーマだ。
 混迷や空白が続けば、財政の将来に不安を募らせた投資家が国債を売る。長期金利が上昇し、「市場の規律」が政治を縛る時代が到来しかねない。
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日経新聞 社説1 改革も財政規律も後退した「骨太方針」(6/24)
 中長期の視点で日本経済の体質強化を考えるからこそ「骨太」なのに、これでは名前負けではないか。麻生政権で初めて決めた「経済財政改革の基本方針(骨太方針)2009」は、衆院選を前に与党内で強まる改革路線への反発を映し、歳出抑制を後退させた。経済成長を促す改革のメニューも不十分だ。
 骨太方針は小泉政権から経済政策や予算編成の指針となった。当初は政治家や省庁の既得権益を超え、首相主導で構造改革に取り組む突破口だった。郵政民営化や、06年度に決めた歳出改革方針がその例だ。
 麻生版の「骨太」は官から民への流れで政府をスリムにする路線と一線を画し、「安心」に軸足を移した。経済の危機に加えて「社会の危機」を指摘し、年金や医療など社会保障の強化や低所得者支援の給付付き税額控除の導入にも触れた。
 景気の立て直しは最優先の課題であり、なお一時的な刺激策が必要かもしれない。雇用や社会の不安への対処も大事だ。それでも深刻な財政悪化を考えれば、歳出の無駄を根本から洗い出し、出費を抑える努力が不可欠だ。骨太方針はこの点をもっと明確にすべきだった。
 骨太方針は日本医師会などの意を受けた自民党の族議員の反発で、10年度予算編成での歳出抑制路線を修正した。与謝野馨財務相は年1兆円以上にのぼる社会保障費の自然増を2200億円圧縮する歳出抑制策を10年度は撤回すると表明し、党内の了承にこぎ着けた。
 予算の総額確保を優先すれば、医療分野などの制度効率化は二の次になる。重複検査の是正や後発医薬品の使用拡大など、質を下げずに医療費の膨張を抑制する余地はある。
 骨太方針は原案の「改革努力を継続する概算要求基準」を修正し、「昨年度とは異なる」要求基準を設けると記した。公共事業費や他経費の削減に抵抗が強まる可能性があるが、抑制基調を堅持すべきだ。
 税収減や大型景気対策の結果、11年度に国・地方の基礎的財政収支を黒字にする従来の財政目標は10年近い先延ばしを迫られた。ここで歳出のタガが外れれば、財政の持続性に不安が募りかねない。
 日本経済の地力を高める方策は踏み込み不足が目立つ。規制改革は現行の3カ年計画の追認にとどまり、成長戦略も太陽光発電や介護強化、ソフトや観光といった分野を羅列したにすぎない。危機が一服しても厳しい国際競争は続く。「開かれた経済」を基本に日本全体の成長力を強化する戦略こそが、いま大切だ。

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