弁護人「小学校3~4年生のころから、あなたを誰かが追いかけたり銃で撃ってくるという夢をみたことがありますか?」
金川被告「結構見ていました」
弁護人「事件後も夢は見ている?」
金川被告「はい、見ています」
弁護人「事件と同じようなことをやっている夢は見ていますか?」
金川被告「何度も見ています」
弁護人「夢の中身について、鑑定医に説明したことはありますか?」
金川被告「あります」
弁護人「どんな夢ですか?」
金川被告「警察官を撃ち殺す夢とか」
弁護人「見知らぬ中学生に声をかけられて一緒に大量殺人したという夢は?」
金川被告「あります」
《弁護人は、その夢の内容を金川被告に詳しく語らせた。夢の中で、金川被告は見知らぬ中学生2人に「殺人をやりたい」と声をかけられ、2人の母校で1クラスの生徒を包丁で「皆殺し」にしたのだという》
弁護人「その中学生はどうなるの?」
金川被告「2人が自首して…あ、いや、多分おれが殺しました」
弁護人「あなたはどうなるの?」
金川被告「クラスに忘れ物があって取りに行くと、そこで警察に捕まりました」
弁護人「警察官はどんな様子でしたか?」
金川被告「ビビってる様子だったので『捕まってやるよ』と包丁を差し出しました。年寄り連中はビビっちゃってて、若めの警察官が受け取ろうとしました。その後、捕まったか、もしくはヤっちゃったのか、覚えていません」
弁護人「交番に警察官はいましたか?」
金川被告「いませんでした」
弁護人「そのとき、誰か女性が来ませんでしたか?」
金川被告「60歳くらいの人がたまたま通りかかりました。『警察官はいないよ』と教えてくれました」
弁護人「そのとき、女性を襲わなかったよね」
金川被告「もう自首していたので」
弁護人「でも、あなたとしては襲撃した相手が死なないかもしれないとは思っていたんでしょ」
金川被告「多分死なない人間はいるだろうとは思っていました」
弁護人「なのに、襲うことはしなかったんですね」
金川被告「もう自首していたので」
《金川被告が犯行当時、心神喪失か心神耗弱だった可能性を主張している弁護側。被告のちぐはぐな行動を強調しているのかもしれない。続いて拘置所での金川被告の不可解な行動にも触れる》
弁護人「ボールペンを隠し持って房の外に出て懲罰を受けたことがありましたか?」
金川被告「はい」
弁護人「何回?」
金川被告「やったのは3回です。見つかったのは最後の1回です」
弁護人「持ち帰れた2回について聞きます。どういう意味だったのですか?」
金川被告「警告ですね」
弁護人「でもボールペンでは人を殺せないでしょう」
金川被告「視力を奪えば、戦闘能力を大幅に奪えます」《金川被告は、ゲームのような言い回しをした》
弁護人「持って行ったのはどこ?」
金川被告「鑑定の部屋に行きました」
弁護人「どこに隠し持っていたの?」
金川被告「脇の下に隠していました」
弁護人「部屋には誰がいるの?」
金川被告「鑑定医と2人しかいないです」
弁護人「何もしなかったのはどうして。やれなかったの?」
金川被告「いやあ、簡単にやれますね」《弁護人の“挑発”に切り返す金川被告。弁護人が理由をただすと-》
金川被告「まだ裁判中なので。まだ結果が出ていないので。今のところやる必要はないですね」
弁護人「あなたは今、そんなことを言っているけれど、そのうち罪悪感に気づいて苦しむのではないかと思うのですが」
金川被告「それはないですね」
弁護人「早く死にたいの?」
金川被告「できれば」
《ここで、別の弁護人に質問者が変わる》
弁護人「刑務所でハンガーストライキをやらなかった?」
金川被告「やりました」
《弁護人の突然の質問にとまどったようだが、少し笑いながら答える》
弁護人「早く死にたいから?」
金川被告「意地悪ですね。ボールペン騒ぎで懲罰食らったから」
弁護人「世の中を悟った人は他に何人もいると思う?」
金川被告「自分は悟った1人です」
弁護人「あなたの周りにはいた?」
金川被告「いないですね」
弁護人「優越感にひたっていたのでは」
金川被告「別にひたってはいないですね」
弁護人「悟りの中身というのは?」
金川被告「本質ですね」
弁護人「殺人との関係は?」
金川被告「別に何もない」
弁護人「何もないのか。善悪はないというが、好き嫌いは? 誰を殺すという選択肢はあったの」 金川被告「別に」
弁護人「妹とか京都の人とか、言っていたけれど」
金川被告「妹は単にむかついていたので」
弁護人「悟りというわりには俗っぽいのでは」
金川被告「別に俗ではない。おれの機嫌を損ねればそういう目にあう」
弁護人「検察側の冒頭陳述に、ゲームに出てくる主人公と比べて『自分には才能がなく幻滅した』とあるが、正しい?」
金川被告「幻滅はしていない。そもそも、その言葉は俺の言葉ではない」
弁護人「『つまらない毎日と決別するため自殺を考えた』とあるが、これは正しい?」
金川被告「はい」
弁護人「興味があることは?」
金川被告「冒険です」
弁護人「それ以外は?」
金川被告「ないですね」
弁護人「魔法を使いたい?」
金川被告「魔法は使いたいですね。冒険に行きたい」
弁護人「冒険にいったら、その話を人に発表したい? 自分だけが満足する?」
金川被告「自分で満足です」
弁護人「冒険できれば生きていきたいの?」
金川被告「はい」
弁護人「そう思い始めたのはいつごろ?」
金川被告「高校卒業のころです」
弁護人「死のうと思って決断したのは?」
金川被告「同じころです」
弁護人「でもすぐに決断していないのはどうして?」
金川被告「せっかく勉強から解放されたので。ゲームは楽しいですが、自分の人生に影響を与えるものではないです」
弁護人「検察側の冒頭陳述に、平成20年1月ごろに自殺を考えてとありますが、正しい?」
金川被告「時期的には正しいけど(冒頭陳述で指摘された父親の)定年退職とは関係ないです」
弁護人「『この世に興味が亡くなった』というのもこのころで正しい?」
金川被告「ずっと前からです」
弁護人「ずっとだらだらと生きていたのに、死のうと決断したのはなぜ?」
金川被告「嫌気がさして。面白いゲームがそれまではあったので。1~3月は面白いゲームがなかったので、今なら死ねるなと思いました」
弁護人「『他人の命を勝手に利用したんだな』とは思いませんか」
金川被告「勝手といえば勝手ですね」
弁護人「躊躇(ちゅうちょ)はないの?」
金川被告「ないですね」
弁護人「自分がそうされたら運命だと思うの?」
金川被告「そうですね」
弁護人「死刑って君にとって何?」
金川被告「都合のいい制度です」
弁護人「ご褒美かな?」
金川被告「ご褒美とは思っていません」
弁護人「じゃあ、何?」
金川被告「いや、ご褒美ではないってことだけで…」
弁護人「死刑にならなかったら?」
金川被告「2、3人殺します」
弁護人「もしファンタジーのようなことができれば?」
金川被告「魔法が…」
弁護人「魔法が使えたなら、こんなことはしなかった?」
金川被告「はい」
《弁護人はここで質問を終え、鈴嶋晋一裁判長が休廷を告げた》
《約20分間の休廷を挟み、被告人質問は検察側に移った》
検察官「(犯行に使った)サバイバルナイフの切れ味を、自分の部屋で確かめたのは本当ですか」
金川被告「はい」
検察官「犯行の前に変装や逃走資金の準備をしていたんですか」
金川被告「はい」
検察官「それは、何人も人を殺すことを実現させるまで潜伏するためだったというのは、本当ですか」
金川被告「はい」
検察官「何人ぐらい殺そうと思っていたんですか」
金川被告「んー、10人ぐらいですかね」
検察官「10人という人数の根拠は?」
金川被告「特にないです」
検察官「当初は妹さんを狙ってうまくいかず、計画を徐々に変更したんでしたね」
金川被告「はい」
検察官「学校を狙おうとしたが、人が多くて諦めた?」
金川被告「はい」
検察官「そして三浦さん(8人殺傷事件の4日前に殺害された芳一さん)に狙いを付けたんですね。なぜ、三浦さんにしたのですか」
金川被告「たまたまです」
検察官「たまたまというのはどういうことですか」
金川被告「適当にフラフラ歩いていたら家が見えて、そこに入ったからです」
検察官「『自転車の空気入れを貸してください』と言って油断させたのですね」
金川被告「はい」
検察官「その言い訳を思いついたきっかけは何ですか」
金川被告「その場で適当に思いつきました」
《投げやりな態度で状況を説明する金川被告。検察官も落ち着いた様子で質問を続ける》
検察官「空気入れを物置にしまいに行った三浦さんを、背後から襲ったんでしたね」
金川被告「はい」
検察官「刺したのは1回ですか」
金川被告「はい」
検察官「とどめは刺さなかったんですか」
金川被告「最初の一撃でとどめを刺したので…」
検察官「なぜ、そう判断できるのですか」
金川被告「(刺した)首は急所だからです」
検察官「確認はしましたか」
金川被告「してないですね」
検察官「自転車を置いて逃げたようですが、なぜ逃げるのに自転車を置いていったのですか」
金川被告「そうとう慌てていたからです」
検察官「どうして慌てていたんですか」
金川被告「(三浦さんの)家族に見られてるかも、と思ったからです」
検察官「見られれば捕まるからですか」
金川被告「はい」
《検察官の質問は、金川被告が三浦さんを殺害し、潜伏したあとにJR荒川沖駅周辺で8人を殺傷した場面へと移る》
検察官「秋葉原に潜伏していたようですが、犯行の機会を探していたからですか」
金川被告「はい」
検察官「荒川沖駅で事件を起こしましたが、きっかけは何だったのですか」
金川被告「前の日に泊まったホテルで、うっかり本名の1文字目の『金』と書いてしまったため、早く決着をつけなくちゃいけないと思ったからです」
検察官「(三浦さんを殺害した件で)指名手配を受けていたことは知っていたのですか」
金川被告「はい」
検察官「荒川沖駅を選んだ理由は何ですか」
金川被告「よく知っている駅だったのと、茨城県警に捕まってあげようと思ったからです」
検察官「駅の構内をよく知っているからですか」
金川被告「はい」
検察官「人も多いからですか」
金川被告「はい」
検察官「荒川沖駅では何人ぐらいを殺そうと思ったんですか」
金川被告「両側にいる通行人を切っていって、7、8人殺せればいいと思いました」
検察官「殺すのは切ってですか、それとも刺してですか」
金川被告「刺してです」
検察官「最初に切りつけた数人は、殺すことはできませんでしたね。なぜだと思いますか」
金川被告「走りながらだったので、思うように首に刃物が当たらなかったからだと思います」
《金川被告はこの時、手当たり次第に通行人を切りつけながら走ったとされるが、とっさに避けたため軽傷で済んだ人もいた》
検察官「なぜ、1人ずつ確実に殺していかなかったんですか」
金川被告「その場から逃げたかったからです。通行人がクモの子を散らすように逃げたら困るし、勇敢な駅員さんがいても困ります。のんびりやっていたら、警察官も来てしまうかもしれないし…」 検察官「最後に、山上(高広)さんにかなり勢いよくナイフを刺し、殺害しましたね」
金川被告「…記憶にないんです」
検察官「なぜですか」
金川被告「その前の7人の記憶と重なっているようです」
検察官「そのときの気持ちは、どうでしたか」
金川被告「『うまく刺せん、切れん』と思っていました」
検察官「犯行が中途半端なのは、罪悪感からなのではないですか」
金川被告「そうではないです」
検察官「そのあと交番に自分で行ったようですが、その間は誰か狙わなかったんですか」
金川被告「3回ぐらいチャンスはありましたが、理想通りでなかったので」
検察官「理想とは?」
金川被告「逃げられたりして周囲に知られることなく、一撃で殺せそうということです」
検察官「その後、交番に行ったら警察官がいなかったんですよね。インターホン越しに何と言いましたか」
金川被告「『おれが犯人だ、早く来ないと犠牲者が増える』と言いました」
検察官「名前や具体的な事件の内容は、話さなかったんですか」
金川被告「はい」
検察官「警察が来るまで、どのぐらいかかりましたか」
金川被告「5~10分ぐらいです」
検察官「その間、何をしていましたか」
金川被告「バイクに八つ当たりしていました」
検察官「どうやって?」
金川被告「ナイフでタイヤをパンクさせました」
検察官「なぜですか」
金川被告「直前の行為がうまくいかず、思い通りに行かないことに腹が立ったからです」
検察官「警察官が来てからはどうしましたか」
金川被告「べつに…、ナイフを落として素直に捕まりました」
検察官「自分の体を傷つけるのは嫌だけど、他人ならいいの?」
金川被告「そういうことです」
検察官「幻覚や幻聴があったことは?」
金川被告「ないです」
検察官「勾留(こうりゅう)中は何を考えているのですか」
金川被告「殺しのこととか考えています」
検察官「差し入れで雑誌をもらったということですけど何をもらいました?」
金川被告「科学雑誌の『ニュートン』とか、(世界の謎などを紹介する)『ムー』とかです」
検察官「ゲームの攻略本もですよね」
金川被告「(格闘ゲームの)デッドオアアライブの攻略本です」
検察官「なぜ頼んだのですか」
金川被告「忘れたからです」
検察官「忘れたとは」
金川被告「ゲームのデータとかですね」
検察官「禅の本は読みましたか」
金川被告「はい」
検察官「何か心が変わりましたか」
金川被告「いいえ」
《ここで検察官は金川被告の手記を提示する。金川被告は犯行を正当化する内容の手記を一部マスコミに送っていた》
検察官「これはあなたの書いた手記です。これはあなたの本心ですか」
金川被告「かなり適当ですが本心です」
検察官「死刑になりたいということが一番の目的のあなたには、手記など書くことは余計なことではないのですか?」
金川被告「暇つぶしですね」
《ここで再度、質問は弁護人に変わる。金川被告は正面を向いたままだ》
弁護人「手記に『法律では(自分を)裁けない』とあったがどういう意味でしょう?」
金川被告「ライオンが人殺しをしたとして、人間の法律をライオンに当てはめられるかと。ライオンが裁かれているとは思わないと思います」
《先ほども口にした「ライオンの比喩(ひゆ)」だ。気に入った表現なのだろう》
弁護人「裁判を受けてみてどう思われますか。裁かれているのではなく、死刑に向かって進んでいるという感じ?」
金川被告「はい」
弁護人「これまでの質問で本心は語れていますか?」
金川被告「聞かれたことには本当のことを答えています」
弁護人「これまで『制服の警察官がいたら(犯行を)止めていた』ということを話しているけど、それはどうして?」
金川被告「警察官がいたら(犯行を)止められるからです」
弁護人「いたら(犯行を)やめていたの?」
金川被告「別の駅に行ってやったと思います」
《ここで弁護人は1件目の犯行後、秋葉原のホテルに宿泊したことを指摘する》
弁護人「何泊の予定でチェックインしましたか」
金川被告「3泊です」
弁護人「3泊アキバ(東京・秋葉原)に泊まりたかったの?」
金川被告「いいえ、殺してアキバに戻ってくるつもりでした」
弁護人「被害者の方などの証言によると、犯行時に『ブツブツ話していた』ということですが覚えていますか?」
金川被告「言っていないと思う。走っていたので呼吸が荒くなっていたかもしれませんが。何か声を聞いたのだとすれば、刺された人の声ではないか」
《ここで弁護人は一息ついた》
弁護人「裁判はどう思いますか?」
金川被告「意味がない」
弁護人「どういうことですか?」
金川被告「自首して、罪を認めているのでさっさと殺せばいい」
《弁護人はあきれたような表情を見せた》
弁護人「あなたはなぜ弁護人がついていると思いますか?」
《金川被告は少し考える。質問の真意を測りかねているようだ》
弁護人「毎日、拘置所でご飯がなぜ出ているのか考えたことがありますか?」
金川被告「分かりません」
弁護人「死刑になりたいという人に対して、税金を使って食べさせているという国のシステムをどう思いますか?」
金川被告「無駄です」
《弁護人が交代して質問を続ける》
弁護人「あなたの犯行はゲームとは関係ないのですか?」
金川被告「ありません。ゲームは趣味です」
弁護人「これまでイライラしてゲームにやつ当たりしたことはありますか?」
金川被告「…小5のときにゲームボーイに八つ当たりしたことはあります」
弁護人「それ以降はありませんか?」
金川被告「ありません。壊したらゲームができなくなるからです」
《仏頂面だった金川被告が少し笑ったように見えた》
弁護人「『お前らの正義は死んだ』などとマスコミに話しているようですが、どういうことですか?」
金川被告「あなたたちの作っている正義と、自分の正義とは違うということです」
弁護人「それは『死んだ』ということなの?」
金川被告「私から言わせればそうです」
《「終わります」。弁護側は小さく宣言した。心なしか表情はさえない。引き続いて女性裁判官の質問が始まった》
裁判官「上の妹さんはどう思いますか?」
金川被告「むかつきます」
裁判官「お母さんは?」
金川被告「好きでも嫌いでもありません」
《裁判官は、金川被告の身勝手な「哲学」形成に影響を与えた哲学書について触れた》
女性裁判官「記憶に残っている部分はありますか?」
金川被告「『死刑になるつもりなら、何をしてもいい』ってところです」 ⇒ 土浦8人殺傷事件〈金川真大被告〉 被告人質問3 (第3回公判)
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◆ 土浦8人殺傷事件 被告人質問1 (第3回公判)
◆ 土浦8人殺傷事件 被告人質問2 (第3回公判)
◆ 土浦8人殺傷事件 被告人質問3 (第3回公判)
◆ 土浦8人殺傷事件公判 金川被告の父親に対する証人尋問 1
◆ 土浦8人殺傷事件公判 金川被告の父親に対する証人尋問 2
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◆ 土浦8人殺傷事件 金川真大被告の判決公判 死刑言い渡し 2009-12-18
◆ 土浦9人殺傷事件判決文要旨 金川被告「完全勝利といったところ・・・」 2009-12-19
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◆ 谷垣法相の命令により 死刑執行 小林薫(奈良女児誘拐殺害)・金川真大(荒川沖駅)・加納恵喜の3死刑囚 2013-02-21
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