新S 新聞案内人.森信茂樹 中央大学法科大学院教授
2009年10月02日
新政権の予算を評価するポイント
新政権の予算作りが連日急ピッチで進んでいる。来年度予算編成にあたり、各省大臣は、「要求官庁ではなく、査定官庁のつもりでやれ!」(藤井財務大臣)という発言など、霞ヶ関革命と呼ぶにふさわしい出来事の連続だ。試行錯誤が続くものと思われるが、日本が変わっていくという実感を国民に与えていることは間違いない。
○国家戦略室は機能するか?
そこで、今回は、検討が始まった来年度予算の評価のポイントを考えてみた。
最大のポイントは、英国モデルを導入したという国家戦略室が、公約通り予算の骨格を、それも複数年度にわたって、経済との整合性を取りながら(経済見通しを作りながら)、トップダウン方式で作成する事ができるかどうかである。財務省とすれば、戦略室で大枠をはめられれば、みずからの査定権限を奪われたような気になるかもしれない。しかし、財務省現役官僚の高田英樹氏の『英国財務省について』(2006年6月)によると、「英国財務省主計局は、公共サービス局(Public Services Directorate)と呼ばれ、予算のコントロールだけでなく、公共サービス全体の効率性、的確性を使命としている。」、その結果、「個々の歳出項目については各省に分権されている度合いが大きく、財務省は個別の経費を詳しく査定しない。むしろ、全体として各省が予算の枠をしっかりと守れるか、また各省の政策目標を達成できるか、というマクロ的な統制に軸足を置いている。」とされている。
もはや財務官僚が、各省予算をきめ細かく査定するという時代は終わったのだろう。財務官僚の今後生きる道としては、「予算が政策の趣旨に沿って有効に使われているかどうか政策評価(事後評価)をすること」である。英国以外の先進諸国でも、財務省・主計局の仕事の重点は、政策の事後評価、それを来年度の予算にどうつなげるかという点にシフトしている。わが国でそれを財務省が行うについての新たな法律改正が必要なら、ただちに検討に入るべきだろう。
○7.1兆円の財源は国債発行なしで可能か?
2番目に、財源問題であるが、これはどういう基準で評価するのか、いろいろな議論の立て方がある。
選挙期間中は、「赤字国債を今以上出さない」という抽象的な表現で語られてきた。それは、平成21年度当初予算の国債発行額である33兆円なのか、補正後の44兆円なのか、はっきりしなかった。しかし、政権奪取後の現在は、マニフェストに公約した新規施策である、子供手当の創設、ガソリン税等の暫定税率の廃止、公立学校の実質無償化、高速道路の無料化などを実行するのに必要な7.1兆円の財源を国債発行なしにできるかどうか、がポイントとなっている。
このように、来年度予算を評価すべき基準が、微妙にすり替わっていることをどう考えるか。消費税率を4年間引き上げないことが、徹底的な歳出削減を行うことの強い意思表示とみれば、平成21年度当初予算の国債発行額を超えないことがメルクマールとみるべきであろう。ただし、その後の景気後退で、税収が数兆円規模で落ちているという。その分の追加発行はやむをえないかもしれない。いずれにしても、「7.1兆円の財源は確保されたが、社会保障の自然増1兆円や地方への補助金は十分な削減できず、結果として国債発行が増えた」という(最もありえる)場合の評価は難しい。
○暫定税率廃止をどう評価するか?
個別の政策について最大の問題は、揮発油税の暫定税率廃止をどう評価するのか、という点である。道路建設に使われるというこれまでの支出の在り方を変えるという趣旨のようだが、それは一般財源化することで一応の決着が付いているはずだ。読売新聞9月28日付社説のいうように、「財源にも環境にもよくない」政策といえる。
私は、暫定税率分を社会保障地方特別税として地方に渡し、ほぼ同額の地方法人特別税(分類上は国税であるが、実質的には地方税)を国が引き取る財源交換をしてはどうかと考えている。ガソリン価格を安くすることは、高速道路無料化と相まって環境問題に大きな負荷を与え、民主党の国際公約に反するものである。国民の評価も高くはない。消費税率1%分の税収を失うような政策は、改めた方がいい。
2009年10月02日
新政権の予算を評価するポイント
新政権の予算作りが連日急ピッチで進んでいる。来年度予算編成にあたり、各省大臣は、「要求官庁ではなく、査定官庁のつもりでやれ!」(藤井財務大臣)という発言など、霞ヶ関革命と呼ぶにふさわしい出来事の連続だ。試行錯誤が続くものと思われるが、日本が変わっていくという実感を国民に与えていることは間違いない。
○国家戦略室は機能するか?
そこで、今回は、検討が始まった来年度予算の評価のポイントを考えてみた。
最大のポイントは、英国モデルを導入したという国家戦略室が、公約通り予算の骨格を、それも複数年度にわたって、経済との整合性を取りながら(経済見通しを作りながら)、トップダウン方式で作成する事ができるかどうかである。財務省とすれば、戦略室で大枠をはめられれば、みずからの査定権限を奪われたような気になるかもしれない。しかし、財務省現役官僚の高田英樹氏の『英国財務省について』(2006年6月)によると、「英国財務省主計局は、公共サービス局(Public Services Directorate)と呼ばれ、予算のコントロールだけでなく、公共サービス全体の効率性、的確性を使命としている。」、その結果、「個々の歳出項目については各省に分権されている度合いが大きく、財務省は個別の経費を詳しく査定しない。むしろ、全体として各省が予算の枠をしっかりと守れるか、また各省の政策目標を達成できるか、というマクロ的な統制に軸足を置いている。」とされている。
もはや財務官僚が、各省予算をきめ細かく査定するという時代は終わったのだろう。財務官僚の今後生きる道としては、「予算が政策の趣旨に沿って有効に使われているかどうか政策評価(事後評価)をすること」である。英国以外の先進諸国でも、財務省・主計局の仕事の重点は、政策の事後評価、それを来年度の予算にどうつなげるかという点にシフトしている。わが国でそれを財務省が行うについての新たな法律改正が必要なら、ただちに検討に入るべきだろう。
○7.1兆円の財源は国債発行なしで可能か?
2番目に、財源問題であるが、これはどういう基準で評価するのか、いろいろな議論の立て方がある。
選挙期間中は、「赤字国債を今以上出さない」という抽象的な表現で語られてきた。それは、平成21年度当初予算の国債発行額である33兆円なのか、補正後の44兆円なのか、はっきりしなかった。しかし、政権奪取後の現在は、マニフェストに公約した新規施策である、子供手当の創設、ガソリン税等の暫定税率の廃止、公立学校の実質無償化、高速道路の無料化などを実行するのに必要な7.1兆円の財源を国債発行なしにできるかどうか、がポイントとなっている。
このように、来年度予算を評価すべき基準が、微妙にすり替わっていることをどう考えるか。消費税率を4年間引き上げないことが、徹底的な歳出削減を行うことの強い意思表示とみれば、平成21年度当初予算の国債発行額を超えないことがメルクマールとみるべきであろう。ただし、その後の景気後退で、税収が数兆円規模で落ちているという。その分の追加発行はやむをえないかもしれない。いずれにしても、「7.1兆円の財源は確保されたが、社会保障の自然増1兆円や地方への補助金は十分な削減できず、結果として国債発行が増えた」という(最もありえる)場合の評価は難しい。
○暫定税率廃止をどう評価するか?
個別の政策について最大の問題は、揮発油税の暫定税率廃止をどう評価するのか、という点である。道路建設に使われるというこれまでの支出の在り方を変えるという趣旨のようだが、それは一般財源化することで一応の決着が付いているはずだ。読売新聞9月28日付社説のいうように、「財源にも環境にもよくない」政策といえる。
私は、暫定税率分を社会保障地方特別税として地方に渡し、ほぼ同額の地方法人特別税(分類上は国税であるが、実質的には地方税)を国が引き取る財源交換をしてはどうかと考えている。ガソリン価格を安くすることは、高速道路無料化と相まって環境問題に大きな負荷を与え、民主党の国際公約に反するものである。国民の評価も高くはない。消費税率1%分の税収を失うような政策は、改めた方がいい。