井上被告の謝罪、被害者ら「心に響かない」
(2009年12月11日 読売新聞)
「側近中の側近」に言い渡されたのは、やはり死刑だった。教祖の指示に次々と従って凶行に手を染めながら、公判で謝罪を繰り返した井上被告だったが、被害者からは「心に響かない」と厳しい声が聞かれた。
井上被告は高校2年で教団に入信し、卒業後まもなく出家した。麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚(54)から「修行の天才」と持ち上げられ、信者獲得や布施集めを精力的に行った。地下鉄サリン事件のほか、落田耕太郎さんリンチ殺人、仮谷清志さん監禁致死、VX襲撃3事件、新宿駅青酸ガス、東京都知事あて小包爆弾事件などにかかわった。
逮捕後は一転して、教祖との決別や被害者への謝罪を強調。松本死刑囚の公判にも証人出廷し、かつてグルとあがめた男に対し、「多くの人のために何ができるか考えてほしい」と声を張り上げた。
しかし、仮谷清志さんの長男、実さん(49)は「彼は『償う』と再三言っているが、それが私たちの心には響いてこない」と話す。5年前から年1回のペースで手紙が届くが、便せんに3枚程度で文字も少ないという。最高裁で判決を傍聴した実さんは「彼は被害者がどれほど苦しんでいるか、まだ知らない」と険しい表情で語った。
井上被告は、1審判決で「無期懲役」を告げられると、法廷で声を上げて泣いたが、「死刑」を告げられた2審では無言だった。交流を続けてきたVX襲撃事件の被害者で、オウム真理教家族の会会長の永岡弘行さん(71)が接見した時は、「償うことの出来ない大罪を犯した。弁解するつもりはない」と潔い姿を見せていたという。
しかし、最高裁での弁論期日が指定され、判決の日が見えてきた7月下旬に届いた手紙には生への執着がのぞいていた。「今もまだ夢の中で教団から逃げようとして追いかけられ、ひどく苦しめられる悪夢にさいなまれている」と胸中を明かし、「精神的に動揺している」と記した。
地下鉄サリン事件で夫を失った高橋シズヱさん(62)は「彼は教団でも裁判でも、どうすればうまく生きていけるか、考えて振る舞っていた。死刑が確定して初めて、自分が何をしてきたかに気づくのだろう」と話した。
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◇ 元オウム真理教幹部井上嘉浩被告の上告棄却 2009.12.10.
【社会部発】オウム裁判終局 「真相」なお疑問
産経ニュース2009.12.10 21:19
約190人が裁かれたオウム法廷は、4被告を残すだけとなった。中でも麻原彰晃死刑囚の側近だった井上被告の判決確定は、オウム裁判全体が終局にあることを象徴する。
井上被告を含む一連のオウム判決は、事件が教祖だった麻原死刑囚の指示・首謀で起こされたことを事実認定することで、刑事上の責任を総括していった。
しかし、法廷を取材した経験を持つ者として一連の裁判が、前代未聞の大量殺人がなぜ起きたかの真相に肉薄したかについては、若干の疑問が残っている。何人もの被告の1審を傍聴した宗教学者が「凶行は教祖と弟子の欲望、感情がドロドロに重なりあったところに生まれたという一面もあるはず。刑事手続きには表れない生々しいオウムの部分を知りたい」と話していた。
そんな中にあって、井上被告の法廷での様子や、接見した人から伝わる拘置所での様子は、教団のドロドロぶりや、1人の若者の心の葛藤(かつとう)、心の弱さが色濃く出たという点で異彩を放っていた。
「オウムの申し子」「修行の天才」と評価され、1千人を入信させたという逸話もある被告。1、2審では、教祖夫妻の痴話げんかなどを饒舌に暴露しながらも、遺族から「格好いいことばかり言って」と批判されると激しく狼狽。「申し訳ない」と何度も涙を流した。1審で「無期」宣告された時には、死の緊張感から解き放たれたためか、激しく泣いた。
弁護人は最近の様子を、「16歳で入信、子供のままだった被告が、ようやく少し大人になってきたように感じる」と語る。他の教団元幹部らの死刑確定を聞くと、絶句し、言葉が出ない状態という。
井上被告が法廷や接見者らにさらした生々しい姿。酌み取れる部分があれば、カルトによる悲劇を繰り返さないための教訓にしなくてはいけない。
ただ、オウム裁判全体を見たときに、麻原死刑囚が何も事実を語ることなく裁判を終えてしまったことが返す返すも残念だ。(赤堀正卓、酒井潤)
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井上嘉浩被告の死刑確定へ オウム事件で9人目
2009年12月10日 16時36分
1995年の地下鉄サリン事件など10事件で殺人罪などに問われた元オウム真理教幹部井上嘉浩被告(39)の上告審判決で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は10日、被告の上告を棄却した。一審の無期懲役判決を破棄し、死刑とした二審東京高裁判決が確定する。
一連のオウム事件での死刑確定は、松本智津夫死刑囚(54)=教祖名麻原彰晃=らに続き9人目。うち一審が無期懲役だったのは井上被告だけだった。元幹部新実智光被告(45)ら4人は上告中。
井上被告は京都市出身。16歳で教団の前身「オウム神仙の会」に入り、教団では「諜報省大臣」を務めた。弁護側は「二審は地下鉄サリン事件での役割を過大視し死刑の結論を導いた。被告の反省も深まっている」として、死刑回避を求めていた。
判決によると、井上被告は松本死刑囚らと共謀し95年3月20日、営団地下鉄(現東京メトロ)でサリンを散布し、乗客や職員12人を殺害するなどしたほか、94年の元信者ら2件の殺人事件に関与。95年には目黒公証役場事務長を拉致し監禁、死亡させた。(共同)
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