北方領土「面積等分」の解決策 プーチン氏の“伝家の宝刀” 大前研一

2013-03-03 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

北方領土「面積等分」の解決策 プーチン氏の“伝家の宝刀”
zakzak2013.03.03 連載:大前研一のニュース時評
 安倍晋三首相の特使としてロシアを訪問した森喜朗元首相は2月21日、プーチン大統領とモスクワのクレムリンで会談した。プーチン氏は昨年3月、「北方領土問題は引き分けによる最終決着」と語ったことについて、「双方が受け入れ可能な解決策のこと」と説明した。また、「日露間に平和条約がないのは異常な事態」と指摘し、平和条約締結の前提となる領土問題の解決に意欲を示した。
 今回、2人はけっこう突っ込んだ話し合いをしたようだ。領土問題を隅っこで闘っていないで真ん中に戻そう、という話し合いだったようだ。
 私はプーチン氏の言う「双方受け入れ可能な解決策」とは、「面積等分」のことだと思う。これは2006年の麻生太郎外相(当時)の私案で、北方四島全体の面積を2等分する境界線を日露両国の国境とするものだ。
 私自身は、日本の外務省の「四島一括返還をしない限り、平和条約は結ばない」という考え方は違うと思う。もともと日本は歯舞、色丹の2島返還でソ連と妥結しようとしていた。それが1956年8月、ロンドンで当時の米国のダレス国務長官が重光葵外相に対し、「沖縄を返還する代わりに、ソ連にも四島一括返還を要求しろ」と恫喝し、それ以降、日本は「四島一括返還以外はあり得ない」と主張し出したのだ。つまり米ソ冷戦時代のアメリカの指示で言い始めたに過ぎない。
 しかし、もう沖縄は返してもらったのだから、今は何を言っても自由だと思う。だいたい、ソ連のスターリンが固執した北海道分割案に対して、「それはカンベンして。代わりに北方四島を持っていけ」とソ連に言ったのは米国のルーズベルトとトルーマンだ。
 そういうふうに日本が操られていた歴史の事実を、きちんと国民に説明するべきだ。私は「日本人はみんな勘違いしているから、この問題については仕切り直したほうがいい」と森氏にも言ったし、民主党政権時代、前原誠司政調会長(当時)がラブロフ外相と交渉する際にもその証拠資料を渡した。
 冒頭に述べた「真ん中に戻す」というのは、ロンドンのダレス・重光会談の前に戻して考えるということ。ロシアは中国ともめていた大ウスリー島も、ノルウェーともめていた北極海も、面積等分で決着している。面積等分はプーチン大統領の領土紛争に関する「伝家の宝刀」といってもいい解決策なのだ。
 プーチン氏と森氏の会談では、ロシアの天然ガス開発なども議題になったが、電力輸入に向けた動きもある。
 ソフトバンクと三井物産、そしてロシアの政府系電力大手インテルRAOの3社は、ロシアで発電した電力を日本に輸入する構想を明らかにした。3社は日露間の送電網の構築に向けて事業化調査を実施し、16年以降の輸入を目指す方針だ。
 これは極東ロシアで水力発電をしてサハリン経由で輸入するものだが、私はこれとは別に、サハリンで出たガスで発電し、その電力を直接高圧直流送電網で“輸入”するという案を主張している。この案のメリットは、すぐにできること。水力発電所を造るとなると大ごとになるが、ガスなら簡単だ。
 いずれにしろウラジオストクからのガスのパイプラインやサハリンからの電力輸入に向けた動きは、日露の平和条約締結に向けた交渉も加速することになる。領土問題をめぐって周辺国との手詰まり感のある日本にとっては久々の薄明かりとなる予感がする。
 ■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。
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尖閣「日米対中国」と考える愚かさ/領土問題は強いものが勝つ。国際政治の現実/田中良紹「国会探検」 2012-09-25 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
 「日米対中国」と考える愚かさ 田中良紹の「国会探検」
 2012年9月24日 The JOURNAL
 尖閣諸島の国有化を巡り、日中が衝突すればアメリカは日本の側につくと考える日本人が多いようだ。アメリカがその地域を「日米安保の適用範囲」と発言しているからである。しかしだからと言ってアメリカが日本の側につくとは限らない。アメリカは自らの国益を考えて利益のある方につく。それが国際政治の現実である。
 まず現在の日本の領土がどのように確定されたかを考える。確定させたのは1951年に締結されたサンフランシスコ講和条約である。第二次世界大戦で連合軍に無条件降伏した日本は領土についてすべての権利を放棄し処分権を連合国に委ねた。
 そこで日本が支配していた朝鮮半島をはじめ日清、日露、第一次大戦で領有した台湾、澎湖諸島、南樺太、千島列島、南洋諸島、南沙諸島のすべての権利を日本は放棄させられた。また北緯30度以南の南西諸島や小笠原諸島はアメリカの信託統治領となった。その南西諸島の中に尖閣諸島はある。
 一方、サンフランシスコ講和条約と同時に日米は安保条約を締結し、米軍が日本国内の基地に駐留する事になった。領土問題とは言えないが日本国家の主権が及ばない米軍基地が首都近郊を含め日本の至る所に作られた。
 現在日本が抱える領土問題の相手国は、北方領土がロシア、尖閣諸島が中国、竹島が韓国といずれも第二次大戦の戦勝国か戦勝国の側である。そして今回の竹島への韓国大統領上陸と尖閣諸島への香港活動家の上陸は、日本が敗戦国である事を思い出させる8月に決行された。
 中国の習近平国家副主席がアメリカのパネッタ国防長官との共同記者会見で、日本の尖閣諸島国有化を「第二次世界大戦以降の戦後秩序に対する挑戦」と発言したのは、まさに日本は敗戦国、中国とアメリカが戦勝国である事を指摘し、領土問題で米中は同じ側に立つことを強調したのである。
 これに対してパネッタ長官が「日米安保の適用範囲」と言うのは、サンフランシスコ講和条約から1972年までその地域をアメリカが統治し、その後日本に返還したのだから当然である。しかしそれはこの問題でアメリカが日本の側に立つことを意味しない。
 なぜならアジア地域でのアメリカの基本戦略は日本に近隣諸国と手を組ませないようにする事だからである。日本がアメリカだけを頼るようにしないとアメリカの国益にならない。そうした事例を列挙する。
 アメリカはまず北方領土問題で日ソ間に平和条約を結ばせないようにした。そもそも北方領土問題を作ったのはアメリカである。真珠湾攻撃の翌年からアメリカはソ連に対日参戦を要求し、その見返りとして日露戦争で日本に奪われた南樺太と千島列島を返還する密約をした。
 サンフランシスコ講和条約で領土が確定された時点での日本政府の認識は千島列島に国後、択捉島を含めており、日本領と考えていたのは歯舞、色丹の2島だった。従って2島返還で日ソ両国は妥協する可能性があった。
 ところが米ソ冷戦下にあるアメリカのダレス国務長官はこれを認めず、4島返還を要求しなければアメリカは沖縄を永久に返さないと日本に通告した。これに日本は屈し4島返還を要求するようになり日ソは妥協する事が出来なくなった。
 小泉政権の日朝国交正常化に横やりを入れたのもアメリカである。日本は200億ドルともいわれる援助の見返りに北朝鮮と国交を結ぼうとしたが、アメリカのブッシュ大統領はこれを認めなかった。国交正常化の可能性ありと見て金正日総書記がいったんは認めた拉致問題もそれから進展が難しくなった。
 韓国の李明博大統領がしきりに持ち出す従軍慰安婦問題にもアメリカの影がある。2007年にアメリカ下院はこの問題で日本政府に謝罪を要求する決議を行った。中東のメディアは「アメリカは日本と中国、韓国の間にわざとトラブルを起こさせようとしている」と解説した。
 日本がアメリカの戦略に反した唯一の例が日中国交正常化である。中ソの領土紛争を見て分断を図れると考えたアメリカは、中国と手を組めば泥沼のベトナム戦争からも撤退できると考え電撃的なニクソン訪中を実現させた。しかし台湾との関係をどうするかで国交正常化に手間取る隙に、先に中国との国交正常化を成し遂げたのが日本の田中角栄総理である。中国と極秘交渉を行ってきたキッシンジャー国務長官は激怒したと言われる。それがロッキード事件の田中逮捕につながったとの解説もある。
 アメリカは中国に対し日米安保は日本を自立させない「ビンのふた」であると説明し、中国はそれを共通認識として米中関係はスタートした。従って尖閣周辺の海域で米中が軍事的に睨み合う形になったとしても、それは日本のためにではなく、米中双方の利益のために何が最適かを導き出すための行動となる。
 ところでパネッタ長官の訪中は米中の軍事交流を深めるのが目的である。その一方でアメリカは日本に対し中国の軍事力の脅威を宣伝し、オスプレイの配備など日本領土の基地機能強化を進めている。中国の脅威を言いながらアメリカは中国との軍事交流を深めているのである。小泉政権時代の外務大臣が米中軍事交流に抗議するとアメリカから「そういう事はもう一度戦争に勝ってから言え」と言われたという。
 領土問題は力の強いものが勝つ。それが国際政治の現実である。話し合いで解決するにしても力の強い方に有利になる。力とは軍事力だけを意味しない。むしろ経済力、外交力、そして国民の意思の力が重要である。ところが「日米安保の適用範囲」という言葉にしがみつく日本人は何の保証もないアメリカの軍事力にしがみついているのである。それは日本が経済力、外交力、国民力に自信がないことを露呈しているに過ぎない。
(田中良紹)
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