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唐に李勃(りぼつ)という人がいました。この人は大変な勉強家で、仏典はもちろん万巻の書を読破したことで知られ、人々から「李万巻」と称されていました。
あるとき李勃は、帰宗山に智常和尚を訪ねて問いました。
「仏典の『維摩経』に“世界の中心とされる須弥山という大きな山が、小さな芥子(けし)粒のなかに入る”と書かれています。いったいどういうことでしょうか」
「あなたは、人から李万巻といわれているが、あなたの小さな頭のなかに、どうして万巻の書を入れたのか」
李勃は、和尚のこの答えを聞いて悟ったということです。
もちろん、即説咒曰は、修辞的には、いよいよこの上ない真実の知恵に目覚める呪文が説かれるわけですから、ことさら強調して「さあ説かれるからしっかり聞きなさい」という覚醒の意味もこめられています。