死刑囚 監視は必要か カメラ付き部屋に16年超 国を提訴
特報 2024.01.25 Thu. 中日新聞(夕刊)
広島拘置所に収容されている確定死刑囚が、16年以上カメラ付きの部屋で監視されているはプライバシー権の侵害に当たるなどとして、国に2112万円の損害賠償を求める訴訟を広島地裁に起こした。同様の訴訟は、東京や大阪でも起こされている。実態はどうなっているのか。(森本智之)
訴状などによると、広島で提訴したのは強盗殺人事件で2007年に死刑が確定した西山省三死刑囚。確定直後に理由の説明もないままカメラ付きの部屋に移され、着替えや排せつもこの部屋で行うため、常時監視の状態にあるという。この間、一度懲罰を受けたことはあるが、自殺や逃亡などをしようとしたことはなく、「カメラ室に収容する正当な理由がない」と訴えている。
第1回口頭弁論が今年1月10日に開かれ、国側は請求棄却を求めた。
広島拘置所は取材に対し、カメラ室に収容するケースについて「一般論」と断った上で、「内規により、自殺や自傷行為の恐れがあるなど普段より厳密に視察する必要があると判断した場合に収容する。死刑囚イコールカメラ室ではない」と回答。西山死刑囚については「係争中のためコメントできない」とした。
死刑囚のカメラ監視については、東京地裁でも22年に裁判が起きている。原告代理人の大野鉄平弁護士によると、東京拘置所に収容中の男性死刑囚(後の原告)から、「カメラ付きの部屋に収容されている」と手紙が届いたのがきっかけだった。
男性を含め同拘置所に収容中の死刑囚5人にヒアリングすると、カメラ室に移る際、いずれも「死刑囚だから仕方ない」などと拘置所側に告げられたという。男性はヒアリングの直前に部屋を移ることができたが、カメラ室に14年収容された。他の4人は約3~15年、カメラ室に収容されていた。
大野氏は大阪地裁でも同様の訴訟の代理人を務めている。「訴訟で国側は、死刑囚だからという理由でカメラ室に入れているわけではないと説明している。自殺や自傷の可能性があると判断したというが、なぜ自殺の危険があると判断したのか、納得できる説明はない」
死刑囚へのヒアリング結果なども踏まえ、「実態は死刑囚というだけで漫然とカメラ室に入れているのではないか」と大野氏。一方、拘置所によって運用が異なる可能性があるといい、不明な点は多い。
国連の自由権規約委員会は22年、死刑囚に対する24時間のビデオ監視は必要な期間に厳密に限定するよう日本政府に求めている。
一般社団法人「刑事司法未来」代表理事で龍谷大名誉教授(刑事政策)の石塚伸一氏は「刑事施設にとって、拘禁の確保が第一の目的。死刑囚の自殺は『究極の逃走』と呼ばれ問題になる。そのリスクを避けるため、死刑囚をカメラ室に入れている面はあるのではないか」と述べる。
「死刑囚は『心情の安定』を理由に、独居で収容されるなど、さまざまな権利が侵害されてきた。だが、それではいけないというのが現在の刑事政策の流れだ」と指摘。その上でカメラ監視について「自殺の恐れがあるなど、具体的な理由がある場合に、期間を区切って行うべきだ。確定死刑囚でも個人として生活する権利はある」と話している。
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用、及び書き写し
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〈来栖の独白〉
この種の評論で必ず、感じること。それは、評論家が被収容者に直接会っておらず、肯定的にしか見ていないということだ。恐らく、死刑囚の「絶望」など、思いもよらないだろう。