【金曜討論】死刑制度 亀井静香氏、鳩山邦夫氏

2009-10-17 | 死刑/重刑/生命犯

産経ニュース2009.10.16 07:48
 亀井静香氏 死刑制度の廃止を訴えていた弁護士で民主党の千葉景子参院議員が、法相に就任したことで死刑制度の存廃論議が再燃しそうだ。「冤罪(えんざい)の可能性を考えると廃止すべきだ」と訴える亀井静香郵政改革・金融相に対し、鳩山邦夫元法相は「犯罪被害者の遺族の感情を考えると死刑制度は絶対必要」と異を唱えている。両氏の見解を聞いた。

≪亀井静香氏≫
 ■冤罪考えて廃止すべきだ
 ●自己防衛の死刑は矛盾
 --超党派で作る「死刑廃止を推進する議員連盟」会長を務められるなど、一貫して死刑廃止を主張されています
 「たとえ犯罪者であろうと、国家が人を殺すことを是認していいのか。一方で戦争はしてはいけないといいながら、一方で(社会の)自己防衛のために犯罪者を殺していいというのは自己矛盾だ。また冤罪の可能性も無視できない。日本警察、検察の捜査能力は高いが、人間のすることである以上、冤罪は起こりうる」
 --現状の犯罪捜査、司法制度にはどんな問題が
 「裁判所が認めなければ釈放されない勾留(こうりゅう)自体が拷問になっている。また(警察官僚だった)自分の経験からも、日本の裁判所は、犯罪者の自白や証人の証言を証拠として重視する傾向がある。拘禁ノイローゼで事実をゆがめて自白することもあるし、第三者の証言がいつも必ず真実とはかぎらない。これは捜査の可視化を進めれば解決する問題ではない」
 --死刑存続論の意見として、犯罪抑止力の低下を指摘する声もあるが
 「根拠となる統計的な数字はなく、死刑は犯罪の抑止力になりえない。本人の責任もあるにせよ、犯罪者の傾向として、育った環境や生活環境が強く影響している。刑罰に犯罪抑止力を期待するよりも、社会生活を豊かにすることや、人間教育に力を注ぐべきだ」
 --犯罪被害者の遺族感情を重視すべきだとの意見も根強いが
 「死刑制度があるから、被害者側はその中で最も重い死刑を求める。日本には確かに『あだ討ち』の歴史もあるが、一方で罪を許し、改心を願う人の温かさもあるのではないか」
 ●終身刑の新設は望む
 --仮釈放のない終身刑(重無期)の新設を訴えていらっしゃる
 「行き着く先は死刑廃止だが、死刑と無期懲役の間を埋める終身刑は必要だ。死刑存続の世論は確かに根強いが、裁判員制度の運用が始まり、自分が実際に人命を奪う死刑を選択することに躊躇(ちゅうちょ)を覚える裁判員は多いと思う」
 --終身刑には、コスト増や収容施設の制限などの点で実現への疑義もあります
 「人の命をカネやコストでとらえるのはナンセンス。一人の人間を救えるのであれば、国が相応の責任を引き受けるのは当然だ」
 --千葉法相の就任で、終身刑導入や死刑廃止への動きは進むか
 「(千葉法相とは)具体的な話をしていないが、政権交代で、法整備は進みやすくなった側面はあるだろう。党を超えて、死刑廃止に共感してくれる議員は多く存在していると感じている。死刑廃止議連としても、体制を立て直し、活動を活発化させたい」(三品貴志)

≪鳩山邦夫氏≫
 ■遺族感情思うと絶対必要
 ○滞れば国民信頼失墜
 --元法相として、千葉法相の就任をどう見ますか
 「法治国家において刑事罰を具体的にどう科すか、死刑をいかに執行するかは極めて国内的な問題であり、諸外国と歩調を合わせる必要はない。日本の風土、伝統、文明の中で形成されてきたのが今の死刑制度であり、法務大臣が執行を滞らせれば、それだけで現政権は国民の信頼を失うでしょう」
 --国際的に死刑廃止の国が増え、国連が日本に死刑制度の廃止を勧告していることについては
 「仮に日本国民の8割が死刑を執行するな、死刑制度をなくせというのであれば私は死刑執行はしない、死刑制度はなくすべきだと法相時代に言ってきた。しかし、現実は8割の国民が死刑制度が必要であるという。法相として国民世論を重視すべきだと考えます」
 --法相時代、「どの法相が死刑を執行した、あるいはしなかったと論じられる現行制度はおかしい」と主張されていたが
 「刑法で死刑判決確定後、半年以内に法相は執行命令を出すという規定がある以上、それを滞らせること自体が法律違反であると思います」
 --法相時代に「現行法を見直すための勉強会を法務省内で設置したい」と主張もされたが、具体的にどんな案だったのですか
 「例えば死刑判決確定から半年以内に法相が執行命令を下すという現行法を2年以内に延ばしてはどうかという案。その代わり法相は2年以内に絶対に執行命令を出さなければならないとすれば、負担は今よりも軽くなるはずです」
 ○法相は耐えるべきだ
 --やはり現行法のままでは法相の負担は大きいと思いますか
 「確かに負担は大きい。が、法相である限り耐えなくてはならないと考えます。私は法相就任中、13人の死刑囚の死刑執行命令を下したが、いずれも大臣室に一人でこもり膨大な資料を読み慎重に判断を下していた。執行前日には必ず自分の先祖の墓を参った。初の死刑執行以後、現在まで毎朝、自宅でお経を唱えている。それだけ法相の責任は重いと感じている」
 --死刑以外の罰が望ましいという声もありますが
 「現在は万全の捜査、裁判が行われていると信じています。終身刑はあっていいが、死刑と無期懲役の間に差がありすぎるのが問題。仮釈放されればそれは無期懲役ではない。死刑の代替の罰として終身刑は代わり得ないと思う」
 --法相時代に行った13人の死刑執行(死刑執行再開以降の法相では最多)に批判も受けましたが
 「当時、朝日新聞に私は『死に神』と書かれたが、これは遺族を冒涜(ぼうとく)する軽率な批判だ。犯罪被害者の遺族にとって死刑は正義実現のための法律だと思います」(戸津井康之)
                   ◇
【プロフィル】亀井静香
 かめい・しずか 郵政改革・金融担当相。衆院議員。昭和11(1936)年、広島県生まれ。東大経済学部卒。化学会社、警察庁を経て、54年に衆院選に初当選。現在11期目。平成13年から「死刑廃止を推進する議員連盟」会長。17年、自民党を離党し、国民新党結党。現在、党代表。
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【プロフィル】鳩山邦夫
 はとやま・くにお 衆院議員。昭和23(1948)年、東京都生まれ。東大法学部卒。田中角栄・元首相の秘書などを経て、51年、衆院選に初当選し、現在11期目。平成19年8月から翌年8月まで法相。昨年9月から今年6月まで麻生内閣で総務相、内閣府特命担当大臣(地方分権改革)を務めた。


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