熟女二人の “サムライ・ジャパン観”
6月2日の「コスタリカ」と6日の「ザンビア」との「強化試合」――。ともに早い段階で「先制点」を許すという弱点を露呈した。ことに後者の相手国「ザンビア」は、前者「コスタリカ戦」での “サムライ・ジャパンの立ち上がりの遅さ” を巧みに突いた、スピーディで大胆なパス回しだった。
それだけに、普段はサッカーなどあまり観ることも気にすることもない筆者も、少なからぬ不安と懸念を抱いた。とりわけ、「3-2」と本田のゴールでリードした後のザンビアの「同点ゴール」は、『サムライ・ジャパン』の “ひ弱さ” を象徴するようなものだ。この “ひ弱さ” が抜けない限り、『サムライ・ジャパン』が真に “世界のサムライ” となることなど “夢のまた夢” という気がする。
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今思えば、この “ひ弱さ” を “実感” せざるをえない “出来事” が、ついひと月ほど前に起きていた。正確に言えば、大久保嘉人の “サプライズ選出” があった日の翌日だった。“出来事” というより、二人の女性の “言葉” なのだが、彼女たちはいずれも特に “サッカー好き” でもなければ、“サッカーの知識” に明るいということもない。ともに、「オフサイド」も「ボランチ」も「裏スペース」のことなど、ほとんど理解できないご仁だ。
まず友人の奥さんである「A夫人」は語る――。
『サムライ・ジャパン、サムライ・ジャパンと言って、「男子サッカー」は事あるごとにテレビで持て囃されますね。……ヘアスタイルにファッション、所属クラブでの活躍や海外での生活の様子、それに少年時代のエピソードなど……。それに比べて、「女子サッカー」は話題にもならず……と言うより無視されています。「ニュース」になっても、ほんとに申し訳程度。でもその「ニュース」は、いつも刺激的な内容であり、偉いの一語に尽きるでしょう。この間も「アジアカップ」で「優勝」しましたね。これって、とても価値ある大きな「ニュース」でしょ?』
そう言いながら筆者とA氏を見つめる夫人の視線に、筆者はたじたじとなった。『何か言いたいことがあるなら、どうぞおっしゃって……』との表情に見えたからだ。間違っても、『男子は、そのアジアカップに4回優勝しています』など死んでも口にすることはできなかった。A氏は、まるで母親に説教された子供のように黙って頷いている。やむなく、筆者は次のように話をまとめた。
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『おっしゃる通りです。男子はJリーグも20年以上の歴史があり、海外のクラブに所属する選手も多いことから、向こうのクラブやスポンサー企業に対する配慮として、どうしてもマスコミの露出も多くなると思います。サッカーといっても、「ビジネス」ですからね……。』
この言葉にA夫人の友人・B夫人が、筆者とA夫人を交互に見やりながら口を開いた。とても穏やかで、にこやかな表情の言葉だった。
『女子が前回の「ワールド・カップ」で優勝したことは、かろうじて知っています。「優勝」したからいいようなものの、もし「準優勝」止まりだったらどうでしょうか? まともな「ニュース」とはならなかったでしょう。男子に比べてスター的な選手もいないし、何よりも「採りあげられること」もなかったようですから。それでも “あれだけ” の成績を出したのです……』
確かに、鋭い指摘だ。“あれだけ” という言葉に力がこもっている。B夫人の言葉のあとには、『それに比べて……』という言葉が続くような気がした。
《………過去4回出場した男子つまり『サムライ・ジャパン』――。やっと2回、何とか「ベスト16」になったというのに……。『なでしこ・ジャパン』は、すでに「たった4か国」しか存在しない「ワールドカップ優勝国」に名を連ねている。それに加え、「女子のFIFAランキング」は堂々の世界「第3位」。男子の「46位」とは雲泥の差だ。
ほとんど「無名に近いメンバー」によって、すでに「FIFA・ワールドカップ」で優勝を果たした『なでしこ・ジャパン』――。一方、「海外クラブ」の「所属選手」が、23人中12人と言う『サムライ・ジャパン』。それでも今回は “予選通過も厳しい” とも……。》
以上のことが、瞬時に筆者の脳裏を駆け巡った。筆者はA・B両夫人の顔をさりげなく見やった。二人のその表情に、予測もつかない今後の展開をふと想った。全身にどっと疲れが出てきた。と同時に “重い” と思っていた “気持ち” が、いっそう重くなり始めたように感じられた。
危うし! サムライ・ジャパン! いやその前に……危うし! 花雅美 秀理! (続く)