4ではなく、5です。(4は、四方の賢者のよもやま話。御絵描き刑事VANに書いたものを再録する予定です)
書き出しは、今のところこうなってます。
北の主の手の中で、白い大きな星は次第にその密度を増して縮み、明るさを減じ、やがて、全てを引き込む闇となる。宙の終末点。
あるいは、
主の手の中で、巨大な恒星はその激しい命を爆発によって終わらせ、それは新星を育む温床となる。星の子宮。
しかし、主には一片の感情も無く。自ら治める北の世の全てに心までも下賜しつくして、もはや手元には無いかのように。
「後はまかせた」
必要最小の言葉を残して、宙から館へ帰る。
白い新殻衛兵らは一礼して主を送り、
黒い累機衆たちは一礼して主を迎える。
星の一生を無感慨に見守り、にもかかわらず、それを好むと聞く。
北の賢者は変わり者とも、孤高の神とも、呼ばれていた。
「おーい」
北の果ての館へと、きまぐれに訪れてひっかき回していくは、南の賢者ノウリジ。
「酒もって来たぞーう」
紅い酒瓶を持ち上げて、おもうさま左右に振る。
「いらん帰れ」
「単刀直入に酷ッ!」
玄関にすら入れることなく、門の際で腕組みしたインテリジェは不機嫌につぶやいて、追い返すつもりだった。
「なんだよー。上がらせてくれよお。館に居るってことは、ヒマなんだろー? 語り明かそうぜ? 俺が一人でしゃべるからさあ」
荒野の地に地団駄踏む紅い賢者に、紫の賢者はすげなく首を振る。長い薄紫の髪が、北風に冷たくなびいた。
「お前にくれてやる暇などない帰れ」
「お前の語尾ってもしかして『帰れ』なのかよ? んならさあ、『いらっしゃぁーイ!』に変更しないか? 客の入りがずいぶん違うぞ?」
「星華(セイカ)。そなたの主を連れて帰れ」
「申し訳ございません。お上がいつも不躾な口を利きまして」
インテリジェは、とうとうノウリジを無視して、彼の背後で楚々と頭を垂れ続ける紅い頭巾を被った紅い巫女に言葉を掛けた。
どうしたことか、彼女はいつも頭巾を深く被っている。若い女の姿であれ、老婆の姿であれ。
今返った声の調子は乙女。ならば、頭巾からこぼれて流れる黒灰色の髪は生来の色である。
「えー? 失礼なのはインテリジェじゃないかよう?」
「お上。ごあいさつを」
静かにひたりと言いつけられて、外見が少年のノウリジは、ぶうと頬を膨らませる。
「うええ、へいへい星華ばあちゃ、おっと。星華、わかったよ」
祖母と呼ばわろうとして口をつぐみ、巫女として名前だけを呼んだ。
「こんにちは北の賢者殿。お日柄もヨロシクご機嫌伺いにキマシタ」
「機嫌は悪い帰れ」
「ほらぁ、な? 何言っても駄目なんだってこいつは。オジャマしまーす」
家主から言葉の石つぶてを投げつけられたにもかかわらず、ノウリジは押し入り強盗のように館内に侵入した。転移の術で。
「……」
インテリジェが、冷たい怒気を放った。
「帰れというに、」
「お上! なんということを!」
星華が慌てて恐縮する。
「申し訳ございません。インテリジェ様、」
さっと深く一礼した。
そこに、小雪まじりの北風が、ごうと吹いた。
南の巫女の紅い頭巾が風に煽られる。
「……!」
長い髪が舞い、頭巾が外れた。
涼やかな切れ長で黒灰色の相貌が現われた。
思わず見入る紫の賢者の、彼らしくも無い感情ある珍しい行動に、はっとした巫女は右手で顔を隠した。両の目を。
「まあ、ご覧にならないでくださいませ。いらぬ災厄を招きますゆえ」
初めて聞く、慌てた声だった。
「あー、インテリジェ、見たらえらいことになるぞう?」
館に入って今や好き放題していると思われたノウリジが、北の賢者と南の巫女との間に姿を現し、インテリジェへぱっぱと右手を振った。背後に巫女をやって。
「何故だ?」
「だって星華は……」
言いかけて、紅い賢者は思案顔になった。
「どうした?」
促す北の賢者の耳に入った、言葉の続きは、
「ここじゃなんだから、館の中でまあ酒でも飲みながら」
書き出しは、今のところこうなってます。
北の主の手の中で、白い大きな星は次第にその密度を増して縮み、明るさを減じ、やがて、全てを引き込む闇となる。宙の終末点。
あるいは、
主の手の中で、巨大な恒星はその激しい命を爆発によって終わらせ、それは新星を育む温床となる。星の子宮。
しかし、主には一片の感情も無く。自ら治める北の世の全てに心までも下賜しつくして、もはや手元には無いかのように。
「後はまかせた」
必要最小の言葉を残して、宙から館へ帰る。
白い新殻衛兵らは一礼して主を送り、
黒い累機衆たちは一礼して主を迎える。
星の一生を無感慨に見守り、にもかかわらず、それを好むと聞く。
北の賢者は変わり者とも、孤高の神とも、呼ばれていた。
「おーい」
北の果ての館へと、きまぐれに訪れてひっかき回していくは、南の賢者ノウリジ。
「酒もって来たぞーう」
紅い酒瓶を持ち上げて、おもうさま左右に振る。
「いらん帰れ」
「単刀直入に酷ッ!」
玄関にすら入れることなく、門の際で腕組みしたインテリジェは不機嫌につぶやいて、追い返すつもりだった。
「なんだよー。上がらせてくれよお。館に居るってことは、ヒマなんだろー? 語り明かそうぜ? 俺が一人でしゃべるからさあ」
荒野の地に地団駄踏む紅い賢者に、紫の賢者はすげなく首を振る。長い薄紫の髪が、北風に冷たくなびいた。
「お前にくれてやる暇などない帰れ」
「お前の語尾ってもしかして『帰れ』なのかよ? んならさあ、『いらっしゃぁーイ!』に変更しないか? 客の入りがずいぶん違うぞ?」
「星華(セイカ)。そなたの主を連れて帰れ」
「申し訳ございません。お上がいつも不躾な口を利きまして」
インテリジェは、とうとうノウリジを無視して、彼の背後で楚々と頭を垂れ続ける紅い頭巾を被った紅い巫女に言葉を掛けた。
どうしたことか、彼女はいつも頭巾を深く被っている。若い女の姿であれ、老婆の姿であれ。
今返った声の調子は乙女。ならば、頭巾からこぼれて流れる黒灰色の髪は生来の色である。
「えー? 失礼なのはインテリジェじゃないかよう?」
「お上。ごあいさつを」
静かにひたりと言いつけられて、外見が少年のノウリジは、ぶうと頬を膨らませる。
「うええ、へいへい星華ばあちゃ、おっと。星華、わかったよ」
祖母と呼ばわろうとして口をつぐみ、巫女として名前だけを呼んだ。
「こんにちは北の賢者殿。お日柄もヨロシクご機嫌伺いにキマシタ」
「機嫌は悪い帰れ」
「ほらぁ、な? 何言っても駄目なんだってこいつは。オジャマしまーす」
家主から言葉の石つぶてを投げつけられたにもかかわらず、ノウリジは押し入り強盗のように館内に侵入した。転移の術で。
「……」
インテリジェが、冷たい怒気を放った。
「帰れというに、」
「お上! なんということを!」
星華が慌てて恐縮する。
「申し訳ございません。インテリジェ様、」
さっと深く一礼した。
そこに、小雪まじりの北風が、ごうと吹いた。
南の巫女の紅い頭巾が風に煽られる。
「……!」
長い髪が舞い、頭巾が外れた。
涼やかな切れ長で黒灰色の相貌が現われた。
思わず見入る紫の賢者の、彼らしくも無い感情ある珍しい行動に、はっとした巫女は右手で顔を隠した。両の目を。
「まあ、ご覧にならないでくださいませ。いらぬ災厄を招きますゆえ」
初めて聞く、慌てた声だった。
「あー、インテリジェ、見たらえらいことになるぞう?」
館に入って今や好き放題していると思われたノウリジが、北の賢者と南の巫女との間に姿を現し、インテリジェへぱっぱと右手を振った。背後に巫女をやって。
「何故だ?」
「だって星華は……」
言いかけて、紅い賢者は思案顔になった。
「どうした?」
促す北の賢者の耳に入った、言葉の続きは、
「ここじゃなんだから、館の中でまあ酒でも飲みながら」