父みずから、私を階下へ連れて行った。
表階段を降りながら、父は言う。抑えた調子で、淡々と。
「桔梗。お前が祈職になったら、肉親も何もかも、関係がなくなる。覚えておきなさい」
縁を切るということだった。
私は、今見た祈職のキクの態度の方にばかり気が向けられていた。「祈職になれば、偉くなる」などという、ひどく安直な考えに、現を抜かしていた。だから、……父の言葉は、わたしの耳を、素通りした。
それは、表階段の踊り場の壁だと思われた。灰色の岩壁だと。
父はその踊り場の壁に正対している。
「開けてくだされ。祈職の長に頼み申したいことがある」
そう叫んだ。
しかし、……返答は、「岩壁」の向こうから響いた女の声は、
「今取り込み中です。後になさってください」
私は心の中で目を丸くした。
入室を断った! お父様が、塔の幹部が頼んでいるのに!
「では後ほどまた」
父も素直に従っている! 従うのだ!
……じゃあ私は偉くなれる!
私は、この岩壁の向こうに行くのが、楽しみになった。
表階段を降りながら、父は言う。抑えた調子で、淡々と。
「桔梗。お前が祈職になったら、肉親も何もかも、関係がなくなる。覚えておきなさい」
縁を切るということだった。
私は、今見た祈職のキクの態度の方にばかり気が向けられていた。「祈職になれば、偉くなる」などという、ひどく安直な考えに、現を抜かしていた。だから、……父の言葉は、わたしの耳を、素通りした。
それは、表階段の踊り場の壁だと思われた。灰色の岩壁だと。
父はその踊り場の壁に正対している。
「開けてくだされ。祈職の長に頼み申したいことがある」
そう叫んだ。
しかし、……返答は、「岩壁」の向こうから響いた女の声は、
「今取り込み中です。後になさってください」
私は心の中で目を丸くした。
入室を断った! お父様が、塔の幹部が頼んでいるのに!
「では後ほどまた」
父も素直に従っている! 従うのだ!
……じゃあ私は偉くなれる!
私は、この岩壁の向こうに行くのが、楽しみになった。