私は、開いた口が塞がらなくなっていた。
「李両、」
乾いた声で呼ぶと、番長はこちらの混乱などとりあわぬ穏やかさで、ぬけぬけとこう言う。
「来たね。紹介しよう、新人の撫子君だ」
さらに、彼女の方を向くと、「彼が君の指導をしてくれるよ?」と、言ってのけるではないか。
「李両。連れて行けるわけがない」
「行けそうだけど。君なら。数えられないほど通った、君なら」
「ああ私はな。目を閉じても行けるだろう。しかし、」
私は、感情を隠すことをせず、眉をしかめた。
「彼女には間違いなく無謀だ。その体付き、……なにもしたことがないだろう?」
たとえば武術は? と、彼女に問うと、予想通りの答えが返る。
「なにも」
私は李両に言ってやる。
「なにを考えている? 李両?」
「……沢山考えているが?」
気分を害した、濁った声が返った。
「頼むよ翔伯。連れて行ってくれ」
「今言ったように、それは無謀な話だ。断らせてもらう」
「あの……どこへ、連れて行くんですか? 私を」
撫子という名の娘が、おずおずと尋ねた。
私ははっきりと指をさした。窓外の月を。
「ここを出て、未来を通り過去を通って、月へ行く。月へ連れて行く話をしているんだ」
「李両、」
乾いた声で呼ぶと、番長はこちらの混乱などとりあわぬ穏やかさで、ぬけぬけとこう言う。
「来たね。紹介しよう、新人の撫子君だ」
さらに、彼女の方を向くと、「彼が君の指導をしてくれるよ?」と、言ってのけるではないか。
「李両。連れて行けるわけがない」
「行けそうだけど。君なら。数えられないほど通った、君なら」
「ああ私はな。目を閉じても行けるだろう。しかし、」
私は、感情を隠すことをせず、眉をしかめた。
「彼女には間違いなく無謀だ。その体付き、……なにもしたことがないだろう?」
たとえば武術は? と、彼女に問うと、予想通りの答えが返る。
「なにも」
私は李両に言ってやる。
「なにを考えている? 李両?」
「……沢山考えているが?」
気分を害した、濁った声が返った。
「頼むよ翔伯。連れて行ってくれ」
「今言ったように、それは無謀な話だ。断らせてもらう」
「あの……どこへ、連れて行くんですか? 私を」
撫子という名の娘が、おずおずと尋ねた。
私ははっきりと指をさした。窓外の月を。
「ここを出て、未来を通り過去を通って、月へ行く。月へ連れて行く話をしているんだ」