朝8時半、バーリ着。
バーリに来た目的であるアルベロベッロの情報を集めるために、バーリ駅前にあるツーリスト・インフォメーションへ向かうが、まだ開いていなかった。
周囲を見渡すとベンチがあったので、座ってパパンにもらったお菓子(ウェハース)と水をとりつつ、9時のOPENを待つ。
まずツーリスト・インフォメーションで聞いたのはバーリYH「La Nuova Arca」について。
YHリストには4番バス利用とあるので確認したら、間違いないとのこと。
ついでにバス停の名前をたずねたら、デスクの女性に逆ギレされる。
「そんなの知らない。だってバス停はいっぱいありすぎる。なんで名前を知ってなくちゃいけないの!」
これだからイタリアは……
本題であるアルベロベッロ行きの列車の時刻を教えてもらい、ツーリスト・インフォメーションを出る。
バーリ駅から大通りまで歩いて、4番バスに乗る。
運転手にここで降りたいと「La Nuova Arca」の名前を示していたら、そばにいた妙にテンションの高いオッサンが話しかけてきた。
ドイツ人だというそのオッサンは、私がgiapponeseだときくと、日本語で挨拶を教えてくれなど、興味津々な様子。
近くの老夫婦なども絡んできて、なごやかに会話していたが、オッサンのテンションがMAXになってしまい、映画シーンの再現を始めたり、ペンライトを取り出して渡そうとしてきたりしたので、笑顔のまま微妙に距離を取る。
すると横の座席に座っていた女性が、「Next Stop」と声をかけてくれた。
バスが停車し、運転手が前扉を開けてくれる。
礼を言って降り、そのまま道にそって歩き出すと、車内から「ジャーマニー!」と呼ばれる。
中年の女性が、反対方向を指で示してくれていた。
手を挙げて応える。
南イタリアはほとんど英語通じないけど、情があるなあ。
おれドイツ人じゃないけど。
バス停から駅方向へ少し戻る。
信号があり、このあたりのはず……と周囲を見渡していたら、通りの向こうでお年寄りが手招きしている。
渡っていくと、指でひょい、と一本の道の奥を指した。
教えられたとおり行ってみると、人工芝で整備されたグラウンドがあった。
どうやらこれは、フットサル・コートのようだ。
4~5面はある。
フットサル・コートを迂回し、さらに奥へ進むと、突き当りに近代的な建物が。
おそらく日本で言う青少年会館のような施設で、宿泊も可能、ということなのだろう。
宿泊施設の入り口がわからず、うろついていたら、職員らしき中年男性が教えてくれた。
予想に反して、着いた11時の時点で、チェック・インが可能だった。
初めてYH会員証を提示。
部屋と施設の鍵を渡される(夜間不在のようだ)。
部屋に行ってみると、ルームクリーニングが終わっていない。
普通はこの時間帯、入室禁止なのだ。
ゆるいなー、と苦笑したが、渡りに舟、と勝手にシャワーを浴びさせてもらう。
シャワー後に着替えているとき、そんなに汗が出ないことに気づく。
冷房の名残があり、壁を見ると、エアコンがあった。
普通YHで冷房が効いているのはロビーのみ。
加えて4人部屋だが、ベッドも2段ベッドではなく、普通のシングルベッドだ。
実は大当たりかもしれない……バーリYH。
外へ出ると12時。
暑さのなか今度は駅へ戻る。
バス停のそばのタバッキで切符を買い、ひたすらバスを待つ。
30分ほど待ち、バーリ駅へ。
……この駅への移動時間がバーリでのネックになってくる予感。
バーリ駅でアルベロベッロ行きの切符を買おうと窓口に行ったら、「下りて先」と言われる。
地下道の先にある10番線は私鉄で、ホームにある窓口で切符を買う必要があった。
改めて地下道を抜けて10番線ホームへ行き、往復の切符を買う。
次の列車は13:45。
小1時間あるので、手持ちの現金が減ってきたし、駅前にある銀行でTCを現金化することに。
しかし、2軒ある銀行の1軒は断られ、1軒は発行元の証明書を求められ、現金化できなかった。
TC、イタリアでは本当に使いものにならない。
昼食をとる時間がなくなり、私鉄のホームに戻り、残っていたソイジョイと売店で買ったゼロコーラで腹ごしらえ。
列車に揺られ、1時間半ほどでアルベロベッロ駅へ。
以前、世界遺産に住む人々を紹介したノンフィクション番組を観て以来、いつか訪れたいと願っていた。
アルベロベッロ駅から長い坂(ヴィットリオ・エマヌエーレ大通り)を上り、トゥルッリのある歴史地区へ。
ここで悪癖が暴発。
案内表示やガイドブックをろくに確認せず、メインストリートの1本隣の坂から歴史地区(リオーネ・モンティ地区)に入ってしまい、なにか違うなあと高台を1時間近く彷徨う。
結局元の場所に戻ったら、そのすぐ近くが思い描いていたアルベロベッロだった。
トゥルッリ、かわいいです……
いつまでも眺めていたいところ。
ただいまはもう完全に観光地となり、土産物屋が並んでいるので、立ち止まっていると店員の視線が気になる。
以前テレビで観たときは、もっと閑静な印象だったのだが。
日本の白川郷と同じような経緯を経ているのかもしれない。
ところでこのアルベロベッロ、妙に日本語の表示が多い。
駅前からしてそうだし……日本人が好んで訪れているのだろうか。
(※ちなみに「トゥルッロ」となっているのは単数形だから。)
極めつけはこのお店。
なんと日本人の「陽子さん」か経営していた。
屋上へ上がらせてくれるというので、見せてもらう。
(日本人向けの商法とわかってはいるが)礼を兼ねて、食料品を実家向けの土産として購入。
試食したトマトペーストやトリュフペースト(ペーストばっかりかい)はとてもおいしかったし。
加えて、緩衝材を使った丁寧な梱包は日本人ならでは。
また、特筆すべきは、この「陽子の店」は私がイタリアで唯一TCで買い物ができた店だったことだろう。
会計しているとき、一組のカップルが店に入ってきた。
なんと、お二人は世界一周旅行をしており、いま半年たち、あと1年かけて旅をするのだという。
(このお二人とは、後ほどバールで顔を合わせたり、駅のホームで会ったりする。)
店を出て、そろそろ頃合いなので、駅方面へ歩く。
17:36の列車でバーリに向かえば、食事をしたあと明るいうちにYHへ着けるだろう。
すると日本人のツアーらしき中年女性のグループが、こちらへ向かってきた。
どうやら撮影スポットがあったようで、彼女たちがいた場所に上ってみると、ここがガイドブックにあった「ポポロ広場の先の教会のテラス」らしい。
最後にトゥルッリ群を一望できたし、よかった。
駅に行くと、時刻表で確認してあった、17:36の列車が待っていなかった。
先ほどのカップルがいらっしゃって、駅員から聞いたところ、7月・8月は運行していないそうだと教えてくれた。
イタリアの夏期スケジュールは曲者だな……
次の列車は18:26。
1時間はあるし、ここはいつもの宿の予約だ。
バーリのあとは、ナポリ経由でローマに戻ろうと考えていた。
ナポリの宿を取ろう。
駅前の公衆電話からガイドブック片手に電話したところ、安いホテルに空きがあった。
予約のため名前を告げようとした瞬間、度数がなくなり電話が切れる……
新しいテレホンカードを買わなくてはならない。
まず目の前にある駅前のバールへ(雑貨屋を兼ねているバールもある)。
扱っていないとのこと。
ここでカップルと再び遭遇(ここで時間を潰すつもりのようだ)。
ここからが大変だった。
界隈全てのタバッキや商店をたらい回しにされる。
「うちにはない。あそこならある」
「うちにあるわけないだろ。あそこへ行けよ」
タバッキ、くじ屋、バール、スーパーマーケット、携帯電話ショップ、本屋、電器屋……
とくに3軒目に寄ったバールは親切にしてくれた。
疲れ果て、諦めようと坂を下っていたら、おかみさんと従業員が店の前で輪になってタバコを吸っていた。
私を見ると「あったか?」、ないと答えたらスタッフで相談。
「あそこのガス・ステーションならあるんじゃないの?」と道を教えてくれる。
私が道を間違えそうになったら、わざわざ従業員の1人が駆け下ってきて、そっちじゃないよ、と教えてくれる。
しかしながら……ガソリンスタンドにもテレホンカードはなく、アルベロベッロには1枚もテレホンカードが売っていないことが証明できただけだった。
申し訳ないが、おかみさんたちに見つからないよう、頭を低くしてそっと駅へ歩く。
それにしても、いま何時なのだろう。
携帯電話の電池は切れっぱなしなのだ。
駅に着くと、時計は18:28。
あのカップルの姿はない。
時刻表を再確認すると18:26……しまった、逃したか。
次は最終列車の20時台だ……肝を冷やしたら、2人が出てきて「来ないからどうしたのかと思いましたよ」と言われる。
列車は10分ほど遅れて到着。
一緒にバーリまで戻ることにし、改めて自己紹介。
お二人はご夫婦(よしたけさんとさちこさん)。
なんと旦那さんはwebデザイナーで、ノートPC経由で仕事を続けながら旅をしているのだという。
たしかに、いまはどこの宿泊施設も、無料の無線LANが設置されてインターネットは使い放題だし、そういう旅もあるんだなあ。
旅の話で盛り上がるうちにいつのまにかバーリ駅着。
夕食をともにすることになり、駅近くのリストランテへ。
(その前にタバッキでテレカを入手したものの、ホテルにつながらず、結局さちこさんの国際通話可能な携帯電話を借り、ナポリYHに電話させてもらった。)
リストランテでは、給仕がかなり上から目線でイタリア式の注文法を伝えてくるが、敢えて無視してサラダ、ピザ、リゾットを1つずつ注文し3人でシェア。
ビールも飲んだが計29ユーロですみ、お得な夕食となった(味は普通)。
お2人は食事後、なんとバス停まで送ってくださった。
街が変わり、初めての夜だったので、とても心強かった。
お2人はこのあと、夜行でカターニアに向かうとのこと。
*
4番バスでバーリYHに着く。
(このバスの運転手はとても親切な人で、降り際に全身を使ってYHの方向を伝えてくれた。)
フットサルコートは夜間も営業しているようで、煌々と照明が人工芝を照らしていた。
何組かがゲームをやっている。
しばらくボールを蹴っていないので、混じりたい気分。
子どもの声援も聞こえるので、子連れの人もいるのかもしれない。
フットサルコートを迂回し、再び奥の施設へ。
YHの鍵を使い中へ入ると、もちろんレセプションは無人だが、人の気配自体がない。
部屋に入ると、やはり4人部屋にも関わらず、誰も来ていない。
夏のせいか、YHのせいか、人気がないのかもしれない。
部屋はきれいなのにもったいない……と思ったら、シャワールームの電気がつかない。
扉を開けっぱなしで浴びたが、1人じゃなきゃどうすりゃよかったんだろう。
シャワーを浴びたせいか喉が乾き、手持ちのミネラルウォーターを飲む。
飲み干したが、なんだかまだ水分補給が足りない感じ。
部屋を出て自販機を探す。
YHなら大抵は置いてあるのだが……見つからない。
誰ともすれ違わないし、話し声も聞こえない。
まさか……宿泊者は私1人?
仕方ないので部屋に帰ってベッドに入る。
そうだ冷房をつけよう……とリモコンやスイッチの類を探すが、見つからない。
え、どういうこと?
別料金なの?
確認しようにもレセプションが無人。
リモコンをなくしてエアコンを買い換えた先輩の話を思い出す。
ともかく寝よう、と照明を消すが、汗が止まらない。
喉の渇きもおさまらない。
起き上がって、開けてある窓の外を眺める。
フットサル場はまだ営業している。
……フットサル場なら、水くらい売っているのでは?
23時を回っていたが、外へ出ることを決心。
Tシャツ、短パン、ビーサンの軽装で表へ。
まずYHの周辺で自販機を探してみる。
誰もいないし、なにもない。
フットサル場の入り口は、バス停から歩いてすぐの辺りにあったはず。
こちらからは入れないので、やはりフットサルコートを迂回していく必要がある。
照明が消えないうちに行こう。
ゲームをしているコートがあるようだ。
まだ子どもの声もするし、比較的安全と判断。
道路では一度車両とすれ違うが、ほかにはなにも起こらず。
(施設は行き止まりにあるので、宿泊客か?)
5分ほど歩いて、入り口にたどり着く。
すると目の前に自販機が……しかしそれはチケットの自販機。
しばし呆然としていたら、横の扉から老人が出てきた。
とっさに伊語で、すみません、水がほしいんですが、と話しかけると、早口でなにか返されるが、扉を指したのでそこに入ってみる。
するとそこは付設のバールだった。
店員らしき若者がレジの紙幣を数えていたので、営業時間外なのかもしれない。
ショーケースにミネラルウォーターがあったので手に取り、隣にビールまで冷えていたのでこれも2本つかむ。
老人を見ると頷いたので、3本購入。
足取りも軽くYHへ戻った。
この暑さにビールはありがたい。
ミラノといい、最近、ビールのためなら夜の外出も厭わなくなっている。
ビールのためなら命がけ。
本当です嘘です本当です。
-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-
おきらくご夫婦のこと
さて、バーリで食事をご一緒したよしたけ&さちこご夫婦。
ゆったりと構えた旦那様と、反射神経のよさそうな奥様がとてもいいコンビで、楽しそうに旅をしているのが印象的でした。
お2人はこのときアジア各国を巡り、トルコ、ギリシアを経てイタリアに入国されたばかり。
カターニアに行かれたあとも、元気に旅を続けていらっしゃいます。
その詳細をBlogで発表なさっていますので、興味を持たれた方はご覧になってみてください。
おきらく夫婦のネットで稼ぎながら世界一周!