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旅日記

石見の伝説と歴史の物語−46(邑智郡の荘園−1)

19. 邑智郡の荘園

 

律令制定の当時、邑智郡は五郷に分けられていた。各郷を現在の旧町村名を当てて区分すると次のようになる。

神稲(くましろ)郷
   田所・出羽・高原・阿須那・口羽
邑美(おふみ)郷
   矢上・中野・井原・川本・祖式・川下・三谷・三原・川越のうちの大貫、渡利、鹿賀
桜井郷
   日和・日貫・長谷・市山・川戸・谷住郷・川越のうち田津・市木・那賀郡の都川及び和田の大部分
都賀郷
   布施・都賀・都賀行・谷
佐波郷 
   沢谷・浜原・粕淵・吾郷・君谷


一方石見において、史料上に荘園らしきものが現れるのは、11世紀中頃の康平6年(1063年)の石見国司庁宣においてである。

康平6年(1063年)に石見国府の在庁官人清原頼行が久利郷司に補任され、邇摩郡佐波郷の一部を開発し、その領有を認められている。
以後清原氏は久利郷をはじめ、天河内、佐摩等の各郷を領有した。清原(久利)氏は鎌倉幕府成立とともに御家人となり、佐摩村、久利郷等の地頭職に補任されている。

 

19.1. 邑智郡の荘園情報

荘園に関する史料が「日本荘園データベース」にまとめられている。

対象とする「荘園」には、庄園・御厨・御園・牧・保・別符などを含み、近世の地域名としての庄も一部に採録してあるが、中世の国衙領である郡・郷は対象としていない。
杣、牧、厨などは荘園の特殊な形態である。杣は材木がとれる山地、牧は馬の牧場、厨(御厨)は権威の高い神社の荘園である。
保とは律令制下の末端行政組織である。

このデータベーによれば 邑智郡内の荘園として、佐和庄、桜井庄、稲光庄、神奈備佐木庄、安須那庄、高見庄、久永庄が記載してあるが、かつてぞんざいしていた荘園等を記載しているのであって、決して同時期に存在していたというものではない。

石見国ー邑智郡で検索した荘園に関する情報(時代やその範囲について不明なものも多いが)はつぎのとおりである。また仁摩郡と那賀郡の荘園も一部記載した。

国衙領は、各国司の直接的な管理、統制下に置かれていたが、国衙領にも領有する主体(領主)がいて、土地と農民にたいする私的支配を行っており、本質的に荘園と異なるところはなかった。

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郡名 荘園名 地域(明治時代の村字) 領家・本家 初見年 出典 地名
邑智 作和庄 浜原本郷・河戸・糟淵・湯抱・久保・亀・滝原・信喜・越原・石原・潮・苦螺・千原・九日市・酒谷・吾郷本郷・高畑・奥山・野江・明塚・梁瀬・高山     荘略覚 荘園志料=和名抄の安濃郡佐波郷と邑知郡佐波郷と合せた荘なりという
邑智 桜井庄 小田本郷・市山・清見・井沢・後山・川戸・長谷・重富・日貫・日和・今田・江尾・田津・住江・谷組・大貫 山門領・常寿院領・皇室領・浄金剛院領 貞応二年 (1223年) 石見益田家文書・華頂要略・竹内文平氏所蔵文書・後宇多院御領目録・吉川家文書・岩橋小弥太蔵手鑑・毛利家文書・華頂要略 江川下流域、江川の形成した氾濫原=貞応2田数注文50町=天福1慈源所領注文、常寿院領
邑智 稲光庄 矢上本郷・井原     荘略覚 稲光本郷、稲光久富、那賀郡旭町本郷辺か
邑智 神奈備佐木庄 三原本郷・田窪・北佐木・南佐木・三俣・馬野原・渡利・川本・川下・因原・鹿賀・湯谷     荘略覚 佐木郷=甘南備寺山の北、木谷川沿岸
邑智 安須奈庄 阿須那   貞治二年 (1363年) 出羽氏文書・東広島市志和町大宮神社所蔵大方広仏華厳経奥書・毛利家文書 阿須奈=出羽川中流部の北岸、与次郎山の西
邑智 市木別符   国衙領 元歴元年 (1184年) 益田家什書・益田家文書 市木川(八戸川)と生家川流域、旭町瑞穂町
邑智 長田別符   国衙領 元歴元年 (1184年) 益田家什書・益田家文書 現在のどの地域に当るか明らかでないが、邑智郡羽須美村長田に比定
邑智 高見庄     貞応二年 (1223年)   高見川・円ノ板川流域、北は火室山・東は田ノ原冠山・西は冠山
邑智 久永保   賀茂別雷社領・賀茂社領 文治二年 (1186年) 吾妻鏡 文治2東鑑は久永保、賀茂注進状は久永庄、頼朝寄進による庄号か
邑智 久永庄   賀茂別雷社領・賀茂社領 文治二年 (1186年) 黒川本賀茂注進雑記・石見益田家文書・鳥居大路家文書・早稲田大学所蔵文書・斉藤文書・打萩英一氏所蔵文書 石見町誌、瑞穂町誌は現在の石見町、瑞穂町の一部にまたがる地域に比定=文治2東鑑は久永保、文書は庄
迩摩 大家庄 大家本郷・新屋・祖式・小松地・大田・横道・福田・井尻・殿・津例・三久須・白杯・福原・荻原・忍原 皇嘉門院領・皇室領・九条家領・摂関家領・成恩院領 安元二年 (1176年) 保坂潤治氏旧蔵手鑑・門葉記・萩藩閥閲録・石見益田家文書・毛利家文書・石見吉川家文書・古澄文・石見荘厳寺文書・西園寺文書・天理大学天理図書館所蔵九条家文書(・益田市所蔵安富家文書・萩博物館保管周布文書 太田市大代町、祖式町、迩摩郡温泉津町、邑智郡川本町三原の辺
迩摩 久利別符   国衙領 久安三年 (1147年) 久利文書・益田家文書 久利郷=銀山川中流域、赤波川・戸蔵川の合流点付近   ・康平6年(1063年)久利郷司職清原頼行
那賀 長田保   国衙領 嘉禎四年 (1238年) 吾妻鏡 久利郷周布川上流、広島県との県境

 

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<続く>

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