19. 邑智郡の荘園
律令制定の当時、邑智郡は五郷に分けられていた。各郷を現在の旧町村名を当てて区分すると次のようになる。
神稲(くましろ)郷
田所・出羽・高原・阿須那・口羽
邑美(おふみ)郷
矢上・中野・井原・川本・祖式・川下・三谷・三原・川越のうちの大貫、渡利、鹿賀
桜井郷
日和・日貫・長谷・市山・川戸・谷住郷・川越のうち田津・市木・那賀郡の都川及び和田の大部分
都賀郷
布施・都賀・都賀行・谷
佐波郷
沢谷・浜原・粕淵・吾郷・君谷
一方石見において、史料上に荘園らしきものが現れるのは、11世紀中頃の康平6年(1063年)の石見国司庁宣においてである。
康平6年(1063年)に石見国府の在庁官人清原頼行が久利郷司に補任され、邇摩郡佐波郷の一部を開発し、その領有を認められている。
以後清原氏は久利郷をはじめ、天河内、佐摩等の各郷を領有した。清原(久利)氏は鎌倉幕府成立とともに御家人となり、佐摩村、久利郷等の地頭職に補任されている。
19.1. 邑智郡の荘園情報
荘園に関する史料が「日本荘園データベース」にまとめられている。
対象とする「荘園」には、庄園・御厨・御園・牧・保・別符などを含み、近世の地域名としての庄も一部に採録してあるが、中世の国衙領である郡・郷は対象としていない。
杣、牧、厨などは荘園の特殊な形態である。杣は材木がとれる山地、牧は馬の牧場、厨(御厨)は権威の高い神社の荘園である。
保とは律令制下の末端行政組織である。
このデータベーによれば 邑智郡内の荘園として、佐和庄、桜井庄、稲光庄、神奈備佐木庄、安須那庄、高見庄、久永庄が記載してあるが、かつてぞんざいしていた荘園等を記載しているのであって、決して同時期に存在していたというものではない。
石見国ー邑智郡で検索した荘園に関する情報(時代やその範囲について不明なものも多いが)はつぎのとおりである。また仁摩郡と那賀郡の荘園も一部記載した。
国衙領は、各国司の直接的な管理、統制下に置かれていたが、国衙領にも領有する主体(領主)がいて、土地と農民にたいする私的支配を行っており、本質的に荘園と異なるところはなかった。
<style type="text/css"></style>郡名 | 荘園名 | 地域(明治時代の村字) | 領家・本家 | 初見年 | 出典 | 地名 |
邑智 | 作和庄 | 浜原本郷・河戸・糟淵・湯抱・久保・亀・滝原・信喜・越原・石原・潮・苦螺・千原・九日市・酒谷・吾郷本郷・高畑・奥山・野江・明塚・梁瀬・高山 | 荘略覚 | 荘園志料=和名抄の安濃郡佐波郷と邑知郡佐波郷と合せた荘なりという | ||
邑智 | 桜井庄 | 小田本郷・市山・清見・井沢・後山・川戸・長谷・重富・日貫・日和・今田・江尾・田津・住江・谷組・大貫 | 山門領・常寿院領・皇室領・浄金剛院領 | 貞応二年 (1223年) | 石見益田家文書・華頂要略・竹内文平氏所蔵文書・後宇多院御領目録・吉川家文書・岩橋小弥太蔵手鑑・毛利家文書・華頂要略 | 江川下流域、江川の形成した氾濫原=貞応2田数注文50町=天福1慈源所領注文、常寿院領 |
邑智 | 稲光庄 | 矢上本郷・井原 | 荘略覚 | 稲光本郷、稲光久富、那賀郡旭町本郷辺か | ||
邑智 | 神奈備佐木庄 | 三原本郷・田窪・北佐木・南佐木・三俣・馬野原・渡利・川本・川下・因原・鹿賀・湯谷 | 荘略覚 | 佐木郷=甘南備寺山の北、木谷川沿岸 | ||
邑智 | 安須奈庄 | 阿須那 | 貞治二年 (1363年) | 出羽氏文書・東広島市志和町大宮神社所蔵大方広仏華厳経奥書・毛利家文書 | 阿須奈=出羽川中流部の北岸、与次郎山の西 | |
邑智 | 市木別符 | 国衙領 | 元歴元年 (1184年) | 益田家什書・益田家文書 | 市木川(八戸川)と生家川流域、旭町瑞穂町 | |
邑智 | 長田別符 | 国衙領 | 元歴元年 (1184年) | 益田家什書・益田家文書 | 現在のどの地域に当るか明らかでないが、邑智郡羽須美村長田に比定 | |
邑智 | 高見庄 | 貞応二年 (1223年) | 高見川・円ノ板川流域、北は火室山・東は田ノ原冠山・西は冠山 | |||
邑智 | 久永保 | 賀茂別雷社領・賀茂社領 | 文治二年 (1186年) | 吾妻鏡 | 文治2東鑑は久永保、賀茂注進状は久永庄、頼朝寄進による庄号か | |
邑智 | 久永庄 | 賀茂別雷社領・賀茂社領 | 文治二年 (1186年) | 黒川本賀茂注進雑記・石見益田家文書・鳥居大路家文書・早稲田大学所蔵文書・斉藤文書・打萩英一氏所蔵文書 | 石見町誌、瑞穂町誌は現在の石見町、瑞穂町の一部にまたがる地域に比定=文治2東鑑は久永保、文書は庄 | |
迩摩 | 大家庄 | 大家本郷・新屋・祖式・小松地・大田・横道・福田・井尻・殿・津例・三久須・白杯・福原・荻原・忍原 | 皇嘉門院領・皇室領・九条家領・摂関家領・成恩院領 | 安元二年 (1176年) | 保坂潤治氏旧蔵手鑑・門葉記・萩藩閥閲録・石見益田家文書・毛利家文書・石見吉川家文書・古澄文・石見荘厳寺文書・西園寺文書・天理大学天理図書館所蔵九条家文書(・益田市所蔵安富家文書・萩博物館保管周布文書 | 太田市大代町、祖式町、迩摩郡温泉津町、邑智郡川本町三原の辺 |
迩摩 | 久利別符 | 国衙領 | 久安三年 (1147年) | 久利文書・益田家文書 | 久利郷=銀山川中流域、赤波川・戸蔵川の合流点付近 ・康平6年(1063年)久利郷司職清原頼行 | |
那賀 | 長田保 | 国衙領 | 嘉禎四年 (1238年) | 吾妻鏡 | 久利郷周布川上流、広島県との県境 |
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<続く>
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