3. 甘南備寺山
3.1. 神奈備山
江津市桜江町坂本にある、甘南備寺山(標高522m)はその昔、「神奈備山(かんなびやま)」と呼ばれていた。
かつて地元の人はこの山を墓地として祭っており、祖先の霊が籠る霊山として古来信仰の対象であった。
熊野本宮から勧請し、「神奈備山権現宮」を山頂に創建したが、創建した年代は不明である。
現在はその宮の形は消え失せているが、その痕跡は残っている。
山頂にそれとわかる岩が二つ並んでおり、一つの岩の上には神の依代と云われる磐座のように岩の祠が安置されている。
出雲地方の「かんなび山」
この「かんなび山」と呼ぶ山は出雲地方にもある。
神名備野(現:松江市の茶臼山)、神名火山(現:松江市の朝日山)、神名樋山(現:出雲市の大船山)、神名火山(簸川郡の仏径山)の4山である。
「かんなび」とは、「神の隠れこもれる」という意味である。「かんなび山」は信仰の対象として古代人に祭られていた山のことを指す。
一般 には「神奈備」と書くが、出雲国風土記には「神名火山」、「神名備野」、「神名樋」と書かれている。
出雲国風土記には「神名火山」は意宇郡、秋鹿郡、楯縫郡、出雲郡の4カ所あったとされ、これらはいずれも「入海(宍道湖)」を取り巻くようにそびえている。
京都田辺市の甘南備山
京都府京田辺市に「神が隠れる場所」との意味を持つ山、甘南備山(標高221m)があり、神の宿る山とされている。
甘南備山について次のような説明がされている。
古来、甘南備山は、「神南備」「神無火」などともいわれ、これには「神が隠れる場所」という意味があるとされる。甘南備山は「神が鎮座する山」、「神の降臨する山」として信仰の対象となっていた。山頂付近には延喜式内社の一つである神南備神社が鎮座しており、また、北麓の大住池平にある月讀神社では、祭礼の都度、元々神南備神社の祭神でもあった月読尊を甘南備山から迎えて、これを行うこととしていたとされる。
何れにせよ「かんなび山」とは神が住む山で信仰の対象の山であったようである。
とすれば、全国的にはまだまだ他に同じ名前があったが、途中で変わっていったということが考えられるが証拠はない。
甘南備神社
余談ではあるが、広島県府中市出口町に甘南備神社がある。
和銅元年(708年)に悪疫が流行した際、当時備後国国司であった佐伯宿祢麻麿(さえきすぐねまろ)が、出雲国美保神社から事代主命の分霊を勧進した。祈祷の結果悪疫退散し、それを喜び大国主神と少彦名神を合祀した。とされているので相当古い神社である。
何か、神社名の謂れがあるのかと思い、訪れたが、其のような記載した石碑や説明板は無かった。
<続く>