==================================
- まいったなー・・
二月と言ったって本当の寒さはまだまだこれからなのに、パンツ一枚で追い出されちゃカゼひいちゃうよ・・-
暗くて寒い家のかげからこんな声がきこえてきます。
「 オニわ~ そと 福は~ぁ うち 」
聞こえてくる声は、二月の三日の夜にあちこちの家で豆まきする声。
家の中にいるオニを追い出し、代わりに福の紙さまを招き入れる節分の豆まき。
オニの嫌いな豆をまき、玄関にはオニの嫌いな干しイワシをぶら下げて、悪いことをするオニを追い出しているのだ。
- アタシャ 豆もイワシも大好物なんだけどね~ ―
こんな声も聞こえてきます。
そうです、オニは豆もイワシも大好きなのです。
あるオニなんか、節分の夜、豆まきの終わった後に、まかれたて落ちた豆をひろいあつめるくらいなのですから。
- 今夜も一緒に遊ぼうと思ったのにぃ~ -
こんな声も聞こえてきます。
オニの姿は子供たちにしか見えないのです。
いつもいそがしがって働いている大人の代わりに子供たちと遊んでくれます。
しかしなぜか、大人になるとオニの姿は見えなくなり、一緒に遊んでくれたオニのことも忘れてしまいます。
そしてオニと遊んでいるということは、昔からオニと子供たちとの秘密の話し、大人には話さないという秘密の約束ができています。
どうしてもオニとは遊んだことを大人に話したいときは、オニと遊んだことは夢の中でのお話という約束ができているのです。
もし約束を破った時は・・
まー こんなことは無いとは思いますが、その時はオニが「バリバリ音を立てて約束破った子を食べちゃうぞ!」とh言っていますが、そんなことはありません。
これはオニのうそ。泣きながら子供の前からどこかへ消えて、その子の前には二度と出てきてはくれません。
オニは心優しいのですが、ただ顔がいかついのが欠点。
オニが怖いもの、悪さをするものという話は、なぜだか子供のころにオニを見たことを覚えていた大人が、いかつい顔のオニは悪さをするものと勘違いして昔話として伝わってしまったのです。
ほんとうのことを言えば、オニは子供たちが大好きでいつもみまもっているのです。
==================================
「ねー ねー なに編んでるの?」
いそがしそうにチクチク二本の針を動かしているお母さんに、えっちゃんが聞きました。
えっちゃんは六歳、幼稚園の年長さんです。
「さー なにかしらね。 えっちゃん、あててごらん」
おかあさんは手を休めずに、えっちゃんに方を向き笑いながら答えました。
おかあさんは編み物が得意です、いまえっちゃんが着てるお気に入りのセーターも、寒い外で遊ぶときにとっても暖かい帽子も手袋も、みーんなみんなおかあさんが編んでくれたのです。
ですから、えっちゃんとお話していても、横向いていても編めるのです。テレビを見ていても本を、読みながらでも編めることをえっちゃんは知っています。
いまも顔はえっちゃんを見ているのですが、二本の針は互いにぶつからずに交差し毛糸玉の入ったバスケットから出てくる毛糸を次々とからめていきます。
バスケットの中には黄色と青色の大きな毛糸玉。
えっちゃんのセーターにしてはちょっと大きそうです。
だとしたらえっちゃんのおとうさんのセーター?でしょうか、そう言えばえっちゃんは前におとうさんが、「えっちゃんのばかりじゃなく、ボクのもたまには編んでくれよ」とお母さんに言っているのを聞いたことがあります。
「エーと えーと おとうさんのセーター?」
「ざんねん、はずれー。 でも、えっちゃんがよく知っている人ですよ」と、おかあさん。
そうですね、おとうさんのセーターにしては色がちょっとばかりはでそうとえっちゃんも思っていました。
おとうさんじゃないとすると幼稚園の園長先生? 幼稚園バスの運転手さん? 体操の
お兄さん先? 交番のお巡りさん? お魚屋の・・ コンビニの・・ 。
えっちゃんは考えれば考えるほどますますわからなくなりました。
「ねー ねー 誰? 誰?」
「できた時におしえてあげる」
そう言って目を細めクスッて笑うと、小指を一本立てえっちゃんの小指にからませてこう言いました。
「えっちゃんとおかあさんだけのないしょのお約束」
幼稚園から帰ってきてから毎日お母さんの編み物の進み具合を見るのがえっちゃんのたのしみになりました。
毎日すこしづつながくなっています。
はじめおかあさんの手のひらぐらいの大きさだったものが、今じゃおとうさんのセーターの丈を優に越えた長さに。
えっちゃんはいよいよ完成したと思い、おかあさんに聞きました。
「誰?」
しかしおかあさんは
「もーすこし待っていて、この青い小さなものが完成するまでね」と言って、完成した大きな編み物えっちゃんに見せずに大きな紙袋に入れてえっちゃんの手の届かない高い棚の上へ置いてしまったのです。
えっちゃんの瞳から大きな涙がボロボロとこぼれおちました。
「うえーん うえーん
おかあさんが約束破ったよー 約束破ったよー 」
その夜はごはんも食べずに自分の部屋に閉じこもり、心配したおとうさんが呼びに行っても出てきません。
「いいんですよ、ごはんを食べたくないんでしょ。」
「あのこだってこの春は入学、ピッカピカの新一年生。入学すれば勉強にしろイジメにしろ、自分の思うようにならないことが山ほどあります。そんな時におかあさんが教えてくれなかったなんて、小さなことにいちいち泣いてごはんも食べないと様だと一年生失格で。お腹がすけば自分から部屋をでてきますよ」
「さー おとうさん、早く食べてくださいな、あの約束の日は明日です。もー時間がないの、ごはん食べた後手伝ってくださいな」
美味しい 美味しいと言いながらおとうさんとおかあさんが夕食を食べている声が聞こえます。
「そんなこと言ったって、約束破ったのはおかあさんじゃないですか・・」
布団を頭からかぶっていても、夕ごはんの美味しい匂いがえっちゃんの鼻をくすぐります。今日のおかずはえっちゃんの大好きなハンバーグ、押さえてもギュルルリュ~とお腹のムシがさわぎます
「なにもこんな日にハンバーグじゃなくてもいいじゃない」
しばらくベットの布団の中で泣いたら、なぜあんなことで大騒ぎして泣いてごはんを食べないって言ったのか、自分のことながらえっちゃんはわからなくなりました。
でも大騒ぎした後なので素直に出て行くのもきまずい。
素直にごめんなさいの言えない自分とすいたお腹の悲しさが、ハンバーグの匂いをかいでよけい悲しくなりました。
ベットの横には新しい机とピッカピカに輝いたランドセルが置いてありました。
==================================
カサカサという音にえっちゃんは目を覚ましました。
どーもえっちゃんはあのまま寝てしまったみたいです。
布団のすき間から部屋の中を見れば、ランドセルの中から一匹、机の引き出しの中から一匹、なんと二匹のオニがはい出してくるとこでした。
顔はいかついのですがちっとも怖くありません。
「にいちゃん、あの子覚えていてくれたね」
「ああ ワシの言ったとおりだろ、あのこはワシらとの約束を忘れちゃいなかったのさ」「それにしても寒いね、にいちゃん」
「ああ まだ二月になったばかり、ほんとうの寒さはまだまだこれから。って言ってもワシも寒い!」
どうも兄弟のオニみたいです。
もじゃもじゃ頭から角が二本、大きな口からはキバ。片手には鉄棒もってパンツ一枚の姿は絵本の通り。
でも寒さでガチガチ震えて両ひざ小僧がぶつかり合う。
「にいちゃん 寒いわけだよ、雪が降っている」
「ああ 雪だな。 パンツ一枚じゃほんとうに寒い。でもそれも今夜限り、あのこが約束覚えていてくれたから」
「うん そうだね、明日の夜は外に出されても寒くない」
「そうさ、投げられてもいたくない」
二匹のオニは歌うようにこんなことを話しています。
えっちゃんは興味がわいてきました。
おかあさんに叱られたことも、ごはんを食べ忘れ表の皮と背中の皮がくっつきそうなことも忘れてオニに聞きました。
「あのこって 誰っ?」
「約束って なに?」
ギョッとしたのはオニたちです。
誰もいないと思って出てきたら、突然声をかけられたのですから。
一匹はランドセルの高さまでとびあがり、もう一匹はさかさまに机から落っこちてしまいました。
「君にはオラたちの姿が見えるのかい?」
「君にはワシらの声が聞こえるのかい?」
そして二匹同時に言いました。
「ふしぎだね~」
「オラたちをみて怖くないのかい?」
「ワシらを見て恐ろしくないのかい?」
「ちっとも」
えっちゃんがそう答えると、二匹がまた
「ふしぎだね~」
「ふしぎだよ~ぉ」
えっちゃんは寒さに震えてる二匹のオニを布団の中に招き入れました。
そして聞きましたオニたちの不思議な話を聞きました。
==================================
「オラたちはオニだ」
「うん そうだ オニだ」
「なぜかしら子どもたちにしか姿が見えないのだ」
「うん たまーにはおとなになってもみえる人がいるけどね」
「オラたちはいつもパンツ一枚」
「うん ワシらはそれしか持ってない」
「だから暑い夏は良いのだけどね」
「冬はとっても寒い。オニでも寒いものは寒い」
「さっきも言ったようにオラたちの姿は子供たちしか見えん。それも小さい時だけ」
「うん ちょうど今の君みたいな歳までだな。なぜだか七歳の誕生日を迎えると見えなくなるのだが、詳しいことはワシらも知らん」
「わたしあなたたちを見るのは初めてよ」
「いやいや、君もおらたちも毎日会って遊んでいたんだよ。ただ記憶がね」
「うん ワシたちと毎日遊んでいた。ただし夢の中でね」
「オラたちが眠った子供の耳元でおまじない言うと、みんなオラたちの夢を見る」
「うん そうするとワシたちはその子の夢の中に入っていけるのさ。出るときは別の呪文を言う。その呪文は強烈で、ワシらも夢の中から外の世界へ帰るのだが、その呪文で夢の中で一緒に遊んだことも忘れしまう」
「そう・・・ 忘れてしまうのさ」
「うん でもね、その呪文も利くのは六歳の歳まで。七歳になってしまうといくら頑張って繰り返えしくりかえし耳元で呪文言ってもワシらの夢はみてくれなのだ」
「夢の中に入ることを、オラたちは“とりつく”という」
「うん 言うんだな」
「ところがある日あの子を見つけた」
「うん 見つけたのだった」
「あれはとても寒い日だった。あのときも寒くて震えていたっけ」
「うん 震えていた。あの日はどこもかしこも節分の豆まき。豆は嫌いじゃないが、
とりつく相手の子がせっかく“鬼は外 福は内”って豆まいているのに、当のオニが“デン”と家の中で座っていちゃ失礼」
「でね、俺たちは寒いのを覚悟で家の外に飛び出し、隣の家の暗がりに隠れた」
「うん 隠れたんだな、パンツ一枚でね」
「いくら年中裸で暮らしているオニでも冬は寒い」
「うん またあの日は特に寒くてガタガタ震えていた」
「と・・ オラたちが隠れていた隣の家の窓が開いた」
「うん 開いたんだな。そして開いた窓にあのこがいた。そして言ったんだ、『オニさん、パンツ一枚で寒くないの?』ってね」
「あまりにも急な言葉で、オラたちが“とりついて”いないのに、あのこにオラたちの姿が見えるのかなんてことも考えずに言ってしまった。
「うん 言ってしまったんだな、ふたりそろって大声で 『「とっても 寒いでーす」ってね」
あはは と笑いながら二匹のオニが言った。
「それが君のおかあさんだったのさ」
えっちゃんはドキドキしながら一緒の布団の中でオニさんの話を聞いた。
だってえっちゃんはオニと話したこともないし、おかあさんの小さいころの話も聞いたことがなかったから。
「ねー ねー おかあさんはオニさんが怖くなかったの?」
「うん 怖くないって言ったな」
「ああ そうだった。私の部屋で暖まってねと言うもんだから、おらは聞いた。『オニは怖くないのか?ってね』
「うん 聞いた。そしたら君のおかあさんは『怖くない』って言った。そしてこんなことも言ったな。『オニさんはいくら顔が怖くても心はやさしいの』と。また、『心やさしい人はいくら怖い顔しても怖くない』ともね」
「ふぅーん おかあさんはオニさんが怖くなかったのか」
感心したようにうなずくえっちゃんにオニが聞いた。
「君は怖くないの?」
「ぜんぜん怖くない。オニさんがやさしいってなんとなくわかるもん」
「ねー ねー それより約束ってなに?」
「約束?」
「そう約束」
「それわね、寒がりオニに毛糸のパンツ庵ねくれるというんだ」
「そっ 毛糸のパンツ」
「ただし約束したのはおかあさんがえっちゃんの同じ年の頃で、まだ編み物ができない頃。それでね、約束したんだ。大きくなるまでにうーんとうーんと編み物ならってさ、私の子供が同じ歳になる節分の日にパンツをプレゼントしますって約束をね」
そしてにこにことまた口をそろえて言った。
「それが明日なんだな」
==================================
「おはよう」
えっちゃんはお母さんと昨日ケンカしたことも忘れて大きな朝の挨拶。
「はい おはようさん。 昨日の夜はごはん食べずに寝ちゃったからお腹すいたでしょ
「はーい」
大きな返事をしてテーブルに着くえっちゃん。
もーすっかり昨日の夜にオニさんたちと話したことを忘れてるみたい。
きっと起きる前にオニさんが呪文かけたのでしょう。
でもえっちゃんはなんか今日一日がとても楽しい一日になるのはわかります。
「ねー ねー おかあさん、今晩は節分だよね、どこの家でも『鬼は外』なんだよね、それじゃあオニさんたち行くトコなくてかわいそうだから、うちだけでも『鬼は内』にしようよ」
「え?」と言って、おとうさんとおかあさんは顔を見合わせた。
「そんなことしたら家は怖いオニだらけなるぞ」とおとうさんが言うと
「だいじょうぶ オニさんてね、きっとやさしいもん」
「そうね、オニさんはパンツ一枚しかはいてないから家を追い出されると寒いでしょうね」
「えっちゃん昨日はごめんね。じつはおかあさんえっちゃんに内緒でオニさんたちに毛糸のパンツを編んでいたの。なにか小さい頃オニさんとそんな約束したような気がしてね、その約束の日が今日の様な気がしてね、おかげでできました」
おかあさんが編んだものを広げると、それはそれは大きな毛糸のパンツが二枚と、小さなパンツが一枚。
「これはえっちゃんの」と、小さな毛糸のパンツをえっちゃんに差し出すと
「オニさんとおそろいよ、オニさんたち喜んでくれるかしら」
「うん 喜ぶと思うよ、おかあさんありがとう、大好き」
そんなおかあさんとえっちゃんが話しているのを聞いていたおとうさん
コホンと一つ咳払いして言いました。
「じつはおとうさんも内緒だったが、小さい頃オニさんたちと約束していたんだよ。
寒がり屋のかわいそうなオニの話を本に書くってね」
外はしんしんと雪が降っていますが
ほんと 今日はとても楽しい節分の日になりそうです。
ほら 夜になると聞こえてくるでしょ、えっちゃんちの豆まきの声がね
福は~ うち
オニも~~ うち
福は~ うち
オニも~~ うち
春はもーすぐです。
- まいったなー・・
二月と言ったって本当の寒さはまだまだこれからなのに、パンツ一枚で追い出されちゃカゼひいちゃうよ・・-
暗くて寒い家のかげからこんな声がきこえてきます。
「 オニわ~ そと 福は~ぁ うち 」
聞こえてくる声は、二月の三日の夜にあちこちの家で豆まきする声。
家の中にいるオニを追い出し、代わりに福の紙さまを招き入れる節分の豆まき。
オニの嫌いな豆をまき、玄関にはオニの嫌いな干しイワシをぶら下げて、悪いことをするオニを追い出しているのだ。
- アタシャ 豆もイワシも大好物なんだけどね~ ―
こんな声も聞こえてきます。
そうです、オニは豆もイワシも大好きなのです。
あるオニなんか、節分の夜、豆まきの終わった後に、まかれたて落ちた豆をひろいあつめるくらいなのですから。
- 今夜も一緒に遊ぼうと思ったのにぃ~ -
こんな声も聞こえてきます。
オニの姿は子供たちにしか見えないのです。
いつもいそがしがって働いている大人の代わりに子供たちと遊んでくれます。
しかしなぜか、大人になるとオニの姿は見えなくなり、一緒に遊んでくれたオニのことも忘れてしまいます。
そしてオニと遊んでいるということは、昔からオニと子供たちとの秘密の話し、大人には話さないという秘密の約束ができています。
どうしてもオニとは遊んだことを大人に話したいときは、オニと遊んだことは夢の中でのお話という約束ができているのです。
もし約束を破った時は・・
まー こんなことは無いとは思いますが、その時はオニが「バリバリ音を立てて約束破った子を食べちゃうぞ!」とh言っていますが、そんなことはありません。
これはオニのうそ。泣きながら子供の前からどこかへ消えて、その子の前には二度と出てきてはくれません。
オニは心優しいのですが、ただ顔がいかついのが欠点。
オニが怖いもの、悪さをするものという話は、なぜだか子供のころにオニを見たことを覚えていた大人が、いかつい顔のオニは悪さをするものと勘違いして昔話として伝わってしまったのです。
ほんとうのことを言えば、オニは子供たちが大好きでいつもみまもっているのです。
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「ねー ねー なに編んでるの?」
いそがしそうにチクチク二本の針を動かしているお母さんに、えっちゃんが聞きました。
えっちゃんは六歳、幼稚園の年長さんです。
「さー なにかしらね。 えっちゃん、あててごらん」
おかあさんは手を休めずに、えっちゃんに方を向き笑いながら答えました。
おかあさんは編み物が得意です、いまえっちゃんが着てるお気に入りのセーターも、寒い外で遊ぶときにとっても暖かい帽子も手袋も、みーんなみんなおかあさんが編んでくれたのです。
ですから、えっちゃんとお話していても、横向いていても編めるのです。テレビを見ていても本を、読みながらでも編めることをえっちゃんは知っています。
いまも顔はえっちゃんを見ているのですが、二本の針は互いにぶつからずに交差し毛糸玉の入ったバスケットから出てくる毛糸を次々とからめていきます。
バスケットの中には黄色と青色の大きな毛糸玉。
えっちゃんのセーターにしてはちょっと大きそうです。
だとしたらえっちゃんのおとうさんのセーター?でしょうか、そう言えばえっちゃんは前におとうさんが、「えっちゃんのばかりじゃなく、ボクのもたまには編んでくれよ」とお母さんに言っているのを聞いたことがあります。
「エーと えーと おとうさんのセーター?」
「ざんねん、はずれー。 でも、えっちゃんがよく知っている人ですよ」と、おかあさん。
そうですね、おとうさんのセーターにしては色がちょっとばかりはでそうとえっちゃんも思っていました。
おとうさんじゃないとすると幼稚園の園長先生? 幼稚園バスの運転手さん? 体操の
お兄さん先? 交番のお巡りさん? お魚屋の・・ コンビニの・・ 。
えっちゃんは考えれば考えるほどますますわからなくなりました。
「ねー ねー 誰? 誰?」
「できた時におしえてあげる」
そう言って目を細めクスッて笑うと、小指を一本立てえっちゃんの小指にからませてこう言いました。
「えっちゃんとおかあさんだけのないしょのお約束」
幼稚園から帰ってきてから毎日お母さんの編み物の進み具合を見るのがえっちゃんのたのしみになりました。
毎日すこしづつながくなっています。
はじめおかあさんの手のひらぐらいの大きさだったものが、今じゃおとうさんのセーターの丈を優に越えた長さに。
えっちゃんはいよいよ完成したと思い、おかあさんに聞きました。
「誰?」
しかしおかあさんは
「もーすこし待っていて、この青い小さなものが完成するまでね」と言って、完成した大きな編み物えっちゃんに見せずに大きな紙袋に入れてえっちゃんの手の届かない高い棚の上へ置いてしまったのです。
えっちゃんの瞳から大きな涙がボロボロとこぼれおちました。
「うえーん うえーん
おかあさんが約束破ったよー 約束破ったよー 」
その夜はごはんも食べずに自分の部屋に閉じこもり、心配したおとうさんが呼びに行っても出てきません。
「いいんですよ、ごはんを食べたくないんでしょ。」
「あのこだってこの春は入学、ピッカピカの新一年生。入学すれば勉強にしろイジメにしろ、自分の思うようにならないことが山ほどあります。そんな時におかあさんが教えてくれなかったなんて、小さなことにいちいち泣いてごはんも食べないと様だと一年生失格で。お腹がすけば自分から部屋をでてきますよ」
「さー おとうさん、早く食べてくださいな、あの約束の日は明日です。もー時間がないの、ごはん食べた後手伝ってくださいな」
美味しい 美味しいと言いながらおとうさんとおかあさんが夕食を食べている声が聞こえます。
「そんなこと言ったって、約束破ったのはおかあさんじゃないですか・・」
布団を頭からかぶっていても、夕ごはんの美味しい匂いがえっちゃんの鼻をくすぐります。今日のおかずはえっちゃんの大好きなハンバーグ、押さえてもギュルルリュ~とお腹のムシがさわぎます
「なにもこんな日にハンバーグじゃなくてもいいじゃない」
しばらくベットの布団の中で泣いたら、なぜあんなことで大騒ぎして泣いてごはんを食べないって言ったのか、自分のことながらえっちゃんはわからなくなりました。
でも大騒ぎした後なので素直に出て行くのもきまずい。
素直にごめんなさいの言えない自分とすいたお腹の悲しさが、ハンバーグの匂いをかいでよけい悲しくなりました。
ベットの横には新しい机とピッカピカに輝いたランドセルが置いてありました。
==================================
カサカサという音にえっちゃんは目を覚ましました。
どーもえっちゃんはあのまま寝てしまったみたいです。
布団のすき間から部屋の中を見れば、ランドセルの中から一匹、机の引き出しの中から一匹、なんと二匹のオニがはい出してくるとこでした。
顔はいかついのですがちっとも怖くありません。
「にいちゃん、あの子覚えていてくれたね」
「ああ ワシの言ったとおりだろ、あのこはワシらとの約束を忘れちゃいなかったのさ」「それにしても寒いね、にいちゃん」
「ああ まだ二月になったばかり、ほんとうの寒さはまだまだこれから。って言ってもワシも寒い!」
どうも兄弟のオニみたいです。
もじゃもじゃ頭から角が二本、大きな口からはキバ。片手には鉄棒もってパンツ一枚の姿は絵本の通り。
でも寒さでガチガチ震えて両ひざ小僧がぶつかり合う。
「にいちゃん 寒いわけだよ、雪が降っている」
「ああ 雪だな。 パンツ一枚じゃほんとうに寒い。でもそれも今夜限り、あのこが約束覚えていてくれたから」
「うん そうだね、明日の夜は外に出されても寒くない」
「そうさ、投げられてもいたくない」
二匹のオニは歌うようにこんなことを話しています。
えっちゃんは興味がわいてきました。
おかあさんに叱られたことも、ごはんを食べ忘れ表の皮と背中の皮がくっつきそうなことも忘れてオニに聞きました。
「あのこって 誰っ?」
「約束って なに?」
ギョッとしたのはオニたちです。
誰もいないと思って出てきたら、突然声をかけられたのですから。
一匹はランドセルの高さまでとびあがり、もう一匹はさかさまに机から落っこちてしまいました。
「君にはオラたちの姿が見えるのかい?」
「君にはワシらの声が聞こえるのかい?」
そして二匹同時に言いました。
「ふしぎだね~」
「オラたちをみて怖くないのかい?」
「ワシらを見て恐ろしくないのかい?」
「ちっとも」
えっちゃんがそう答えると、二匹がまた
「ふしぎだね~」
「ふしぎだよ~ぉ」
えっちゃんは寒さに震えてる二匹のオニを布団の中に招き入れました。
そして聞きましたオニたちの不思議な話を聞きました。
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「オラたちはオニだ」
「うん そうだ オニだ」
「なぜかしら子どもたちにしか姿が見えないのだ」
「うん たまーにはおとなになってもみえる人がいるけどね」
「オラたちはいつもパンツ一枚」
「うん ワシらはそれしか持ってない」
「だから暑い夏は良いのだけどね」
「冬はとっても寒い。オニでも寒いものは寒い」
「さっきも言ったようにオラたちの姿は子供たちしか見えん。それも小さい時だけ」
「うん ちょうど今の君みたいな歳までだな。なぜだか七歳の誕生日を迎えると見えなくなるのだが、詳しいことはワシらも知らん」
「わたしあなたたちを見るのは初めてよ」
「いやいや、君もおらたちも毎日会って遊んでいたんだよ。ただ記憶がね」
「うん ワシたちと毎日遊んでいた。ただし夢の中でね」
「オラたちが眠った子供の耳元でおまじない言うと、みんなオラたちの夢を見る」
「うん そうするとワシたちはその子の夢の中に入っていけるのさ。出るときは別の呪文を言う。その呪文は強烈で、ワシらも夢の中から外の世界へ帰るのだが、その呪文で夢の中で一緒に遊んだことも忘れしまう」
「そう・・・ 忘れてしまうのさ」
「うん でもね、その呪文も利くのは六歳の歳まで。七歳になってしまうといくら頑張って繰り返えしくりかえし耳元で呪文言ってもワシらの夢はみてくれなのだ」
「夢の中に入ることを、オラたちは“とりつく”という」
「うん 言うんだな」
「ところがある日あの子を見つけた」
「うん 見つけたのだった」
「あれはとても寒い日だった。あのときも寒くて震えていたっけ」
「うん 震えていた。あの日はどこもかしこも節分の豆まき。豆は嫌いじゃないが、
とりつく相手の子がせっかく“鬼は外 福は内”って豆まいているのに、当のオニが“デン”と家の中で座っていちゃ失礼」
「でね、俺たちは寒いのを覚悟で家の外に飛び出し、隣の家の暗がりに隠れた」
「うん 隠れたんだな、パンツ一枚でね」
「いくら年中裸で暮らしているオニでも冬は寒い」
「うん またあの日は特に寒くてガタガタ震えていた」
「と・・ オラたちが隠れていた隣の家の窓が開いた」
「うん 開いたんだな。そして開いた窓にあのこがいた。そして言ったんだ、『オニさん、パンツ一枚で寒くないの?』ってね」
「あまりにも急な言葉で、オラたちが“とりついて”いないのに、あのこにオラたちの姿が見えるのかなんてことも考えずに言ってしまった。
「うん 言ってしまったんだな、ふたりそろって大声で 『「とっても 寒いでーす」ってね」
あはは と笑いながら二匹のオニが言った。
「それが君のおかあさんだったのさ」
えっちゃんはドキドキしながら一緒の布団の中でオニさんの話を聞いた。
だってえっちゃんはオニと話したこともないし、おかあさんの小さいころの話も聞いたことがなかったから。
「ねー ねー おかあさんはオニさんが怖くなかったの?」
「うん 怖くないって言ったな」
「ああ そうだった。私の部屋で暖まってねと言うもんだから、おらは聞いた。『オニは怖くないのか?ってね』
「うん 聞いた。そしたら君のおかあさんは『怖くない』って言った。そしてこんなことも言ったな。『オニさんはいくら顔が怖くても心はやさしいの』と。また、『心やさしい人はいくら怖い顔しても怖くない』ともね」
「ふぅーん おかあさんはオニさんが怖くなかったのか」
感心したようにうなずくえっちゃんにオニが聞いた。
「君は怖くないの?」
「ぜんぜん怖くない。オニさんがやさしいってなんとなくわかるもん」
「ねー ねー それより約束ってなに?」
「約束?」
「そう約束」
「それわね、寒がりオニに毛糸のパンツ庵ねくれるというんだ」
「そっ 毛糸のパンツ」
「ただし約束したのはおかあさんがえっちゃんの同じ年の頃で、まだ編み物ができない頃。それでね、約束したんだ。大きくなるまでにうーんとうーんと編み物ならってさ、私の子供が同じ歳になる節分の日にパンツをプレゼントしますって約束をね」
そしてにこにことまた口をそろえて言った。
「それが明日なんだな」
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「おはよう」
えっちゃんはお母さんと昨日ケンカしたことも忘れて大きな朝の挨拶。
「はい おはようさん。 昨日の夜はごはん食べずに寝ちゃったからお腹すいたでしょ
「はーい」
大きな返事をしてテーブルに着くえっちゃん。
もーすっかり昨日の夜にオニさんたちと話したことを忘れてるみたい。
きっと起きる前にオニさんが呪文かけたのでしょう。
でもえっちゃんはなんか今日一日がとても楽しい一日になるのはわかります。
「ねー ねー おかあさん、今晩は節分だよね、どこの家でも『鬼は外』なんだよね、それじゃあオニさんたち行くトコなくてかわいそうだから、うちだけでも『鬼は内』にしようよ」
「え?」と言って、おとうさんとおかあさんは顔を見合わせた。
「そんなことしたら家は怖いオニだらけなるぞ」とおとうさんが言うと
「だいじょうぶ オニさんてね、きっとやさしいもん」
「そうね、オニさんはパンツ一枚しかはいてないから家を追い出されると寒いでしょうね」
「えっちゃん昨日はごめんね。じつはおかあさんえっちゃんに内緒でオニさんたちに毛糸のパンツを編んでいたの。なにか小さい頃オニさんとそんな約束したような気がしてね、その約束の日が今日の様な気がしてね、おかげでできました」
おかあさんが編んだものを広げると、それはそれは大きな毛糸のパンツが二枚と、小さなパンツが一枚。
「これはえっちゃんの」と、小さな毛糸のパンツをえっちゃんに差し出すと
「オニさんとおそろいよ、オニさんたち喜んでくれるかしら」
「うん 喜ぶと思うよ、おかあさんありがとう、大好き」
そんなおかあさんとえっちゃんが話しているのを聞いていたおとうさん
コホンと一つ咳払いして言いました。
「じつはおとうさんも内緒だったが、小さい頃オニさんたちと約束していたんだよ。
寒がり屋のかわいそうなオニの話を本に書くってね」
外はしんしんと雪が降っていますが
ほんと 今日はとても楽しい節分の日になりそうです。
ほら 夜になると聞こえてくるでしょ、えっちゃんちの豆まきの声がね
福は~ うち
オニも~~ うち
福は~ うち
オニも~~ うち
春はもーすぐです。