スクナヒコナと山の池

2010年10月07日 | 創作話
やはりいたんだ! と、ぼくは思った。

爬虫類だってイモリもいれば、恐竜もいた。
魚類だってメダカもいれば大きなジンベイザメもいる。
哺乳類だって、小さなネズミから何十メートルのクジラだっている。
いやそのネズミさえも、トガリネズミもいれば、それより何十倍も大きいカピパラいうちょっと犬ぐらいのサイズのネズミもいる。
サルだって、メガネザルに比べたらゴリラの大きさは雲を突く大きさだろう。
だとしたら、人間だって例外じゃ無いわけだ。雲を突く大男がいたって、手のひらに載るくらいの人間がいても不思議じゃないはずだ。
それが証拠に各地に、いや世界中に大男の話や小人の話があるじゃないか。
『ガリバー旅行記』然り、『指輪物語』のホビット然り、『親指姫』に『ジャックと豆の木』。ここ日本だって『一寸法師』や『うり姫子』、アイヌ伝説の『コロボックル』、大国主命と協力して国造りした『少彦名(スクナヒコナ)神』。大男では山をひとまたぎの『だいだらぼっち』または『デイラン坊』。
こんな話が世界中で昔から伝わっているじゃないか。

えっ! ただの伝説、昔話だって?
まっ 確かに世の中科学が発展し、雲突く大男なんかどんなに隠れてもレーダー映ってしまうしね、ただの神話、伝説・法螺話と言ってしまえばそれまでだがね。いやもしかしたら恐竜と一緒に絶滅したのかも。
でもね、小人は別。
人目に付かないくらい素早い小人なら、現代の都会でも、山や里でも隠れ場所がいっぱい、食糧だって水だって楽に手に入れられる。
だから大男は別として、小人は今もいるはず、いや生き延びているはず。
だってぼくは見たんだ!
じっさいにこの目で小指ほどの大きさの小さい人を見たんだから



ぼくの趣味は釣りである。
まー 釣りと言っても千差万別。
船から釣る海の沖釣り、岩礁・岸壁・砂浜の海の陸釣り、山の清流では渓流釣り、大きな川で釣るのはアユの友釣り、誰でも一度はやったと思う小川や池でのウキ釣り等々、魚の数だけ釣り方がある。
私の釣りはルアー(疑餌)で釣る釣り方。
このルアー釣りにも、ルアーの材質によって硬化プラスチックや金属でできているハードルアーにゴムや軟質プラスチックでできているソフトルアーがあり、形も魚や虫や… 。

あはは 話がだいぶそれちゃいましたね。
すみません、好きな釣りの話しだとついね (笑)
えーと、ちいさな人の目撃話でしたよね。
そー ぼくは見たんですよ。

あの日も釣り竿もって家から車で十五分ぐらいのいつも行く山の池に。
この池は周囲一キロも無いくらいの農業用のため池である。
標高は低いものの、山の形状でいえば八合目あたりと、けっこう高めの位置にある池。
北に山を背負った南斜面の池、その南側に池の堰堤があり、その堰堤下の斜面に棚田がいくつもいくつも重なって下に続いている。ぼくらはここを単に護岸と呼んでいる。
東岸・西岸と呼んでいる池東西方向の岸は、いくばくかの林を境にリンゴ畑が続く。
そして水面より急峻な崖が山の上まで伸びている。通称北斜面または山際である。
古くは江戸時代に作られたと言われているこの池だが、今じゃ護岸の池に面した斜面は漏水と崩壊予防にコンクリートブロックでがっちり固められている。だが残りの斜面は自然のままである。特に北側には大人がふた抱え、三抱えしても手が届かないような大きな岩が、いくつもいくつも山の斜面より水面上や水面下に顔を出す。倒れた大きな木も何本も池の中で折重なって沈んでいる。しかし大きな魚を釣り上げるのには絶好なポイントであるが足場が悪い。
残念なことに西側と東側一部も木が水面に覆いかぶさり、減水期以外はベテラン釣り師でないとちょっと釣りには困難な地形である。
水が流れ込んでいるのは、池北西角に一か所、それとこれより小さい流れ込みが西側に二か所。
流れ出しは、灯篭ある東南角に満水時の調整用の流れ出しと、その横にバルブで開閉が管理できる排水口が一つ。護岸には単に塩ビのパイプを池に突っ込み、サイホンの原理を利用している、通称パイプと呼ばれている排水口と、池の水を底から抜く通称”階段”と呼んでる二か所である。
釣り下手なぼくは必然的に足場の楽な護岸で過ごす時間が多い。
護岸のパイプ付近はぼくのお気に入りのポイントである。
北斜面には先ほど言い忘れたが小さな祠がある。
なにが祭られているかは不明だが、釣り仲間内ではまことしやかに人身御供の娘が祭られているという。
この池を造る際、護岸を何度築いても崩れてしまい人身御供をしたというのだ。関係した村から未婚の若いきれいな娘さんを選び出し、堰堤の底に生きたまま埋められたとか。
この娘には生涯を誓い合った若者おり、悲しいことにその若者が涙ながらに一番最初に娘の上に土をかけたんだって。
堰堤は崩れること無く完成したが、その間若者は水以外一切の食を断ち、完成後小さな祠を建て村から姿を消したとか。
嘘か真か悲しい話である。

その祠に向け、パイプ付近お気に入りポイントから投げるとなぜか釣れるのである。

じつはこの日も護岸のお気に入りポイントで釣っていた。
ぴゅー と振った竿から一直線に祠に向かって伸びるライン(糸)。
と、祠と飛んでいくルワー線上の湖面を、こちらに向かって体をくねくねとくねらして泳いでくるものがいた。
毎度見慣れている蛇の泳ぎ、ヤマカカシカか青大将だろう、もしかしたらマムシかも? 
蛇って、まー あの細い体で水面上を器用に泳ぎます、それも結構早い。
しかし見慣れているといっても蛇である、一瞬ぎょっとした。
いやぎょっとしたのは蛇くんの方かもしれない。
なんと投げたルワーが、その泳いでくる蛇の頭を直撃したのだ。r
下手な釣り師で投げようと思っても思ったところに投げられないぼくが、なんとねらったように蛇の頭に”スコーン”とルアーがヒットしたのだ。
いやー なんとも複雑な気持ち。
蛇は急に頭にぶつかってきたルアーに驚いたのか、来た方向へと進路変え、北斜面の祠の方に戻って行った。
ぼくはここでヒューと息を吐いた。
もし投げたラインに絡まってこっちにでも泳いできたり、針がかかってしまったらと思うと足がガタガタと震えだした。なんせほっておくわけにもいかないが、素手ではずしてやる勇気もない。
あーよかったと思い、釣りを続けようと水面上のラインを見ていたら、なにかがその水面に落ちたラインに沿って泳いでくる。
祠のほうへ逃げていく蛇とは別の小さな波紋。
さっきの蛇にでも追われていた蛙かな? 魚かな?? と思いつつ、その波紋を見ていたら、なんと! 水面上のラインにその波紋から何かがぴょんととび乗ったと思ったら、ラインの上をツツツーとこちらに走ってくるじゃないか!

巻くに巻けないリールを手に、またもや足がガタガタしてきた。

こっ こりゃ 釣り仲間で噂していた人身御供になった娘の怨霊か!
毎度釣りに来ては、護岸上をドタバタ歩いたり、道幅いっぱいに車をとめたり、ごみのポイ捨て、ライン屑、そんな釣り師に堪忍袋の緒が切れて祟りにきたのかも… 
そぉーいや、夏の夜釣りに来る仲間なんか、北斜面方向に火の玉や怪光を何度も見たって言うし、方向も祠から…
すぁっ  祟りじゃ!! こりゃ祟りにきたんじゃ!! 
って、なんでぼくがそんな迷惑釣り師の代表に選ばれて祟りを受けなければならないの?でもこりゃ祟りじゃーっ!

ますます足はガタガタと振れ、全身までもが震え始めた。

そのものは水面上のラインを一気に駆け抜けると、ぼくが握ってたロッドのグリップにぴょんとひと飛びに飛び乗ってきた。
あまりの恐怖に手が凍りついてしまい、ロッドを投げ捨てたくとも投げ捨てられず、ただ目だけは飛び乗ってきたものを凝視。
それは片膝ついたちいさな人の形をしていた。

『やあ 蛇から助けていただいき、ありがとう。』

そのものは言った。いや口がパクパク動いただけかもしれない。
声みたいなものが頭の中で響いたと思ったらそう理解できたのだ。
そんな声みたいな声じゃ無い声が聞こえたと思ったら、そのものはぴょこんと頭を下げたて、近くの草むらにぴょんと跳ねて姿を隠した。

そう… そのものはちいさな人間だったのだ!
大きさ3cmほど、頭、胴体、手と足。顔には目もあり鼻も口も。ちょっと頭でっかちで足がでっかい三等身ながら、確かに人間と同じ姿。
髪を両耳の脇で結わえ、筒袖にぶかぶかのズボン、そう足首のところでぎゅぅと絞った教科書に載っている埴輪の姿。そして腰には赤い刀に、首には首飾り。
そう神話とか絵本に出てくる神様そっくりお姿だったのである。
そのものは怨霊どころか神様、いや神様の格好をした小人だったのだ!


ぼくもファンタジー系の読みもが好きでよく読む。
子供たちが成人し、結婚するような歳になっても、小人とか大男、神様だとか幽霊・宇宙人、いまだに本屋からそんな荒唐無稽の本を漁ってくる。
つい最近も独身時代に購入した、佐藤さとるさんの『コロボックル』集、いぬいとみこさんの『木かげの家の小人たち』や『暗やみ谷の小人たち』、トルーキンの『指輪物語』を読み返していた。
だがね、好きなだけで、そう読みものとして好きなだけで実際に信じてはいない、一応何事も分別着く大人だと自分では思っている。
だから好きでも実際にはいないと…

それが・・ それがいたんじゃ!!
ぼくの目の前に現れ話した!!

でも姿を見たのはこの時だけ。
以後一度も見ていない。
夢幻、疲れからと言われればそうかもしれない。
暑い中での釣り、熱中症一歩前の幻影と否定されても反論はできない。

でもね、ぼくは見た!
確かに小人を見たんだ!!







尚、以上の話は私のほら話しです。
まったくのうそっ話しです。
例え実際にこの様な池、お話がありましても実在の方々とは関係ありません。
また登場人物・登録名・地名につきまして思い当たる節があっても一切関係は御座いません。
もし似たような地名、地域、登場人物等に心当たりある方には、さきにここでお詫び申し上げますのでご了承ください。

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