黒姫物語 (水彩&色鉛筆)

2011年06月24日 | 創作話
信州中野に『黒姫物語』という昔話が伝わっております。
今日はその昔話を私なりにアレンジし、創作話を作ってみました。

むかしむかし、信州中野にあったお城の美しき姫君に大蛇が恋をした。

大蛇は凛々しき若侍に姿を変え、姫の父である殿様に沢山の金銀財宝をみやげに、「姫を嫁に欲しい」と申しこまれた。
しかしこの若侍を訝しがった家臣の機転でにより、城の東にある山、志賀の山に住む大蛇と判明した。
蛇といえども城の東を守る志賀山の主、神と同等である。
むげには断れない。もし断ればこの地に災いが起こるかもしれない。
でも神と言っても蛇は蛇、殿様とて人の親、わが子を蛇に嫁がせる親などいない。
そこで殿様と家臣は婚儀の条件として五つの無理難題を押し付けた。

「一つ目じゃ。この城の南に千曲の川が氾濫して出来た石ころだらけの地がある。その地に二度と決壊しない堤防を築き、石をどかしてを米を植えられる田に変える。他に三問、すべて出来た暁には姫を嫁がせる」
これを聞いた若侍はもとの大蛇に姿変え、その巨大な横腹で氾濫原の石を取り除き、その石を千曲の脇に寄せ堅強な堤防を築いた。
またたく間に氾濫原を広大な水田とし強固な堤防を築いた大蛇は、また若侍の姿に戻り殿様の前に進み出た。
しかし大蛇といえど生身の身体、押し分けた石ころは皮を裂き、築いた石は身を裂き、若侍の姿は傷だらけであった。

一問目、二問目の難題を難無く達成した大蛇の力に驚き、また忌々しく思って見ていた殿様は
「では三問目。ヌシの住む東の山は古来より火の山。故、古来より地より噴き出す気が草木を枯らす。流れ出でる川の水は赤く染まり魚を育てぬ。折角切り開いた新田ながら、この水では稲葉育たぬ。水無き田は死の田と同じ』
これを聞いた大蛇は早速大岩をくわえ己住む東の山の地中深くと潜った。地中の灼熱に赤く熔け流れし岩の道を、銜えてきた大石にて閉ざした。
岩をも溶かす灼熱は大蛇の身を焼き、磐より吹き出る臭気が身を腐らせた。

「姫を嫁にいただきたい」
両手つき願い出る若者の姿は、度の如きの無理難題に姿変貌し、もはや凛々しき若侍姿はそこには無かった。
「四問目は如何に」

「殿、あと一問か二問でこ奴は死にます。さすれば姫を嫁がせなくて済みます」
痛々しい若侍の姿を見て、そう殿さまに家臣は耳打ちした。
そんな家臣と殿様の横で、俯き黙って座っていた当の姫の頬に二筋の涙が流れた。

「さて次だが」と、殿様が言った。
「この城から西に小高い丘がある。その近辺は千曲川や他の河川よりも高い所にあり、どこからも水が引けない。そこで一番高い頂にため池を作る。ただし
どんな日照りの時でも水が枯れない池をな」
水は高き所より低き地に流れる。周りの高い山から離れた独立穂。大河は低く、地表を這わして流す堰では小高い丘の頂まで無理である。しかしこの頂より眺めれば、距離は離れているもののどのいただきもこの丘より高い。
大蛇は一条の真っ直ぐな錐と化し、己の身体を高回転させ、。小高き丘の頂上より真下に向かって掘り始めた。
幾つかの水の層に突き当たったが、いずれも日照りの時には枯れ果てるものばかり。
硬い岩を砕くは先端の二本の牙。その自慢の牙もあとどれほどもつものか・・・。
ガチン!
何度目かの硬い層で一番硬い層である。さて私の牙が折れるのが早いか、岩が砕けるか・・・。
ズボッ!という音と共にバキーンッ!という音が聞こえたが、その音は勢い強く噴き出す水の音にかき消され大蛇の耳には届かなかった。

「おおーい 浜津の頂から水が噴き出たぞ」
「はじめは赤い水が噴き出し、なにか白い紐の様なものが一緒に地面から噴き出た」
これを見たお城の者、城下の者は大騒ぎ、我一番と浜津の丘に駆け上がった。
「おおっ池だ!池が出来てる!」
「はぁ~ こんでおらほぉの田にも水が引ける」 「ん そうだそうだ もー隣村しょうとは水争いしなくていい」 「はぁあ~ ありがたやありがたや」

「弓矢の用意っ! 「構えてぇぇぇ・・・ 撃てっ!」
一方お城では、浜津の頂から赤い水と共に空高く噴き出された白き紐の様なものがドサッとお城の庭に落ちてきた。
硬い岩に牙折られ、灼熱の溶岩と臭気に焼け腐り落ちる身、所々裂けた皮膚より覗く白き骨に赤黒き内臓。
横たわる大蛇の真っ赤な口より小さなつぶやきが聞こえてきた。
「無念・・・ あと一問を前にして牙が折れるとは・・・嗚呼姫と夫婦になりたかった」

「ええいっ 蛇の分際で姫に恋するとは、許しがたき行為。 皆の者こ奴を成敗せよ!」
殿様の声にオオッ!との掛け声家臣一同鞘から刀を抜いた。

「おまちくださいっ!」
凛と張った声が殺気立った家臣の動きを止めた。

「わたしは喜んでこの者の嫁になります。己が身を裂いてまで私を嫁に欲しいと申した心には、たとえ蛇でも偽りなき心。嘘偽りを申して祭り事とり行う人間より余程純。ましてや今回のこの者の行はこの城のため、城の民のため。わらわは喜んでこの者と夫婦になります」

その時、空から一条の白き光が射し、横たわる大蛇の身体を包んだ。
光に包まれると見るみると傷んだ身体が治癒していき、大きく輝いた後、そこには凛々しき若侍が笑顔で姫に手を差し伸べていた。
姫がその手に触ると若侍は白き馬に姿を変え、背中に姫を載せると空に舞い上がった。
出来上がったばかりの池のほとりで祝う民の上を駈け、その向こう側を流れる千曲の川越え、大きな湖に姿写す美しき西の山へと降り立ち、その地で末長く幸せに暮らしたとさ。
二人が暮らした西の山は、姫の美しい黒髪にちなんでいつしか『黒姫山』と呼ばれるようになり、その美しき山容映す湖を『芙蓉の湖』と呼ぶようになりました。
なんしても、いまじゃとーい昔の話し。


もしいま愛し合う二人がその恋実のらしたくば、湖をとりまく湖畔の内、東の湖畔一か所に湖中央に扇形に映る黒姫山の頂がちょうど岸に掛かる場所があるそうです。
その要の位置で山に向かって二人並んで愛を誓うと、願いは叶えられ一生幸せな結婚生活が送れると伝え聞きます。
しかしどちらかが邪な心で願った時は、とたんに山の姿は真っ白な霧に閉ざされ、湖面大いに波立ち、邪な願いを願った者を深い湖の底に引き込むとのです。
いま愛し合ってる あ・な・た 一度おためしあれ ^^;

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