お母さんに頬を張られたことがショックだったのか、千可ちゃんは夕食の時間、ダイニングに来ることはありませんでした。翌朝はダイニングにきましたが、何も食べませんでした。ふつーのお母さんだったらこんな娘の姿を見たら少しは反省するのでしょうが、このお母さんには反省する様子はまったくないようです。
学校に行っても千可ちゃんの表情は暗いままです。でも、昼休みに意外なものが訪れました。
「あなたが羽月さんね」
と、学食に向かおうとした千可ちゃんの前に、4人の女の子が立ちました。その中には、昨日の城島さんもいます。
「あなた、すごい霊能力持ってるんですって?」
リーダー格と思われる女の子がそう語りかけてきました。巻き毛がとてもきれいな長身の美人さんです。
「あ、あなたは?」
「オカルト研究会会長、浜崎優実」
今度は浜崎さんの右隣にいた女の子が話かけてきました。
「ねぇ、私たちの部に入って欲しいの」
追い打ちをかけるように、浜崎さんの左隣にいた女の子も話かけてきました。
「あなたみたいな霊能力者がいたら、百人力よ!」
「わ、私に霊能力なんかありませんよ!」
ちなみに、右隣にいた人は福永さん、左隣にいた人は蓑田さん。福永さんも蓑田さんも上背があるので、千可ちゃんはなんか子供みたいです。城島さんは千可ちゃんより上背がありますが、この3人の中に入るとやっぱり小さくみえます。
今度は城島さんが語りかけてきました。
「ねぇ、羽月さん、お願い。オカルト研究会に入って」
「で、でも…」
千可ちゃんは部活動に関してはお母さんに制限を設けられてません。でも、オカルト研究会となったら、きっとお母さんは怒るはずです。お母さんの張り手は強烈です。
しかし、千可ちゃんは昨日のことでちょっとグレてます。それに、ここで友達を作りたい気分もあります。
迷ってる千可ちゃんを後押しするように、城島さんが言いました。
「私たち、明日またあの廃ホテルに行くの。羽月さんも一緒に来て欲しいんだ」
なんと城島さんはせっかく千可ちゃんに除霊してもらったというのに、また廃ホテルに行くようです。そのとき、千可ちゃんの脳裏にあるビジョンが突如浮かびました。それは狂乱状態に陥った浜崎さんが、城島さんや福永さんや蓑田さんを鉄パイプのようなもので襲うというものです。背後の光景からしてそこは廃ホテルのようです。
「どうしたの、羽月さん」
ちょっとぼ~としてる千可ちゃんに、浜崎さんが声をかけてきました。千可ちゃんは微笑みを見せることでそれを交わそうとしましたが、ちょっとぎこちのない微笑みです。
「い、いえ、なんでもないですよ」
福永さんが1枚の紙を取り出しました。
「入部届け、もう用意してあるんだよ。羽月さんがここに名前を書いてくれたら、入部完了だよ」
ずいぶん気の早い人たちです。
「そ、それはちょっと」
千可ちゃんはさすがにこれには気分を害してしまったようです。が、逆に今度はオカルト研究会の4人がしょぼ~んとしてしまいました。その空気を読んだ千可ちゃんが、
「で、でも、その廃ホテルには一緒に行きましょう!」
千可ちゃんのその宣言に、オカルト研究会の4人は安堵しました。
「ありがとう。じゃあ、明日、朝9時に駅前にきて。約束ね!」
そういうと、4人は立ち去りました。しかし、あのビジョンはいったいなんだったのでしょうか?
「ただいま~」
千可ちゃんが我が家に帰ってきました。お母さんはまたテレビを見ています。でも、今日は千可ちゃんの顔を見ました。
「千可、おかえり」
怒ってないときのお母さんはとても素晴らしいお母さんです。でも、千可ちゃんには昨日のトラウマがあるので、何も会話しないまま、そそくさと自分の部屋に行ってしまいました。
千可ちゃんは自分の部屋に入ると、そのままベッドにごろんとなりました。千可ちゃんが今気になってることは、さっきのビジョン。千可ちゃんは午後の授業中も、帰り道も、ずーっとそのビジョンのことを考えてました。
そのビジョンは明日廃ホテルの中で起きる出来事を暗示してるようです。じゃあ、なんで浜崎さんは暴れる? もっとも考えられるのは、浜崎さんに悪霊が取り憑いて、我を忘れてしまったケース。だとすると、先回りして廃ホテルに巣食ってる悪霊どもを退散させてしまえば問題は起きないはず。が、廃ホテルの場所は、千可ちゃんは知りません。しかし、千可ちゃんにはふつーの人では考えられない能力があります。千可ちゃんはふーっと目を瞑りました。
リモートビューイング。オカルト研究会の4人がまとまって歩いてます。夜なのか、あたりは暗いようです。4人が歩いてる場所は、千可ちゃんの知ってる場所、隣の町です。千可ちゃんはどうやら、数日前のオカルト研究会の足取りを思い浮かべてるようです。
4人が突如草ぼうぼうの場所で立ち止まりました。そこには仮囲いがあり、その向こう側に廃ホテルらしき建物が見えます。
千可ちゃんはここでイメージを止めました。
問題はここから。千可ちゃんが一定以上の超能力を使うと、間違いなくお母さんにバレます。バレたらまた強烈な張り手です。悪霊を追っ払うという行為は、かなり超能力を使うはずです。
どうすればバレないのでしょうか? 超能力を使っても半日くらい経っていたらバレない? いっそうのこと、正直にお母さんに話す? いい解決法がなかなか見つかりません。ともかく千可ちゃんは、夜ご飯を食べたら廃ホテルに行くことにしました。
夕ご飯はふつーでした。ちなみに千可ちゃんのお父さんは出張が多く、この日も千可ちゃんとお母さんだけで食事でした。千可ちゃんは食べ終わると、自分の食器を流し台に持っていきました。
「ごちそうさま」
千可ちゃんは横目でお母さんを見ると、こう言いました。
「お母さん、ちょっと買いたいものがあるから、本屋に行ってくるね」
が、お母さんは座ったまま、いつもとは違う声色を発しました。
「千可」
千可ちゃんはその一言でドキッとしました。どうやら千可ちゃんの企みは、とっくにお母さんにバレてるようです。千可ちゃんはちょっとおびえてます。
「友達同士が殺し合いしたら困るわね。いいよ、行っておいで」
思わぬお母さんの発言です。千可ちゃんの顔が急に明るくなりました。そしてお母さんに振りかえって、
「ありがとう、お母さん!」
千可ちゃんは自転車に乗って、隣町の廃ホテルに向かって走り出しました。
自転車で廃ホテルに向かう途中の千可ちゃんはとっても上気分です。お母さん公認でオカルト研究会を救うことができるからです。おまけに、お母さんはオカルト研究会のメンバーを友達と言ってくれました。つまり、オカルト研究会に入ってもいいと言ってくれたのです。お母さんのことが気になってなかなか友達を作れなかった千可ちゃんですが、やっとふつーの高校生活を送れるようです。
しかしです。相手は悪霊です。しかも、悪霊は1人とは限りません。たとえ千可ちゃんの霊能力レベルが最高だからと言っても、悪霊に勝てるのでしょうか? いやいや、千可ちゃんの能力をみくびっちゃあ、いけませんよ~
月のない夜です。近くに街灯が1つありますが、あたりは真っ暗です。そんな廃ホテルの前に千可ちゃんの自転車が到着しました。千可ちゃんが自転車のスタンドを立ててると、さっそく中レベルの複数の悪霊が寄ってきました。しかし、千可ちゃんが振り向きざまかわいいガンを飛ばすと、悪霊たちはびびってしまい、次の瞬間霧散してしまいました。
千可ちゃんが仮囲いの隙間から中に入ると、廃ホテルの玄関の前で案の定悪霊たちが待ち構えてました。かなりハイレベルな悪霊たちです。7人は見えます。中には昨日城島さんに取り憑いていた女の悪霊もいます。何かものすごく曰くありげな廃ホテルです。
あまりにもハイレベルな悪霊軍団なのに、千可ちゃんはなぜかニヤッと笑いました。これは余裕か? 次の瞬間、悪霊軍団は一斉に千可ちゃんに襲いかかりました。危ない、千可ちゃん! が…
千可ちゃんがはぁーっ!!と気合の一言を叫ぶと、悪霊たちはあっという間に霧散してしまいました。わずか1分足らずの攻防。恐るべき、千可ちゃん!
それから千可ちゃんは廃ホテルの中を巡って、まだ残ってる悪霊たちを追い払いました。まあ、すべての悪霊を追い払うことは不可能でしたが、残ってる悪霊はみんなザコです。浜崎さんに乗り移る悪霊はいないはずです。
千可ちゃんは満足した表情で、自転車に乗って帰りました。
学校に行っても千可ちゃんの表情は暗いままです。でも、昼休みに意外なものが訪れました。
「あなたが羽月さんね」
と、学食に向かおうとした千可ちゃんの前に、4人の女の子が立ちました。その中には、昨日の城島さんもいます。
「あなた、すごい霊能力持ってるんですって?」
リーダー格と思われる女の子がそう語りかけてきました。巻き毛がとてもきれいな長身の美人さんです。
「あ、あなたは?」
「オカルト研究会会長、浜崎優実」
今度は浜崎さんの右隣にいた女の子が話かけてきました。
「ねぇ、私たちの部に入って欲しいの」
追い打ちをかけるように、浜崎さんの左隣にいた女の子も話かけてきました。
「あなたみたいな霊能力者がいたら、百人力よ!」
「わ、私に霊能力なんかありませんよ!」
ちなみに、右隣にいた人は福永さん、左隣にいた人は蓑田さん。福永さんも蓑田さんも上背があるので、千可ちゃんはなんか子供みたいです。城島さんは千可ちゃんより上背がありますが、この3人の中に入るとやっぱり小さくみえます。
今度は城島さんが語りかけてきました。
「ねぇ、羽月さん、お願い。オカルト研究会に入って」
「で、でも…」
千可ちゃんは部活動に関してはお母さんに制限を設けられてません。でも、オカルト研究会となったら、きっとお母さんは怒るはずです。お母さんの張り手は強烈です。
しかし、千可ちゃんは昨日のことでちょっとグレてます。それに、ここで友達を作りたい気分もあります。
迷ってる千可ちゃんを後押しするように、城島さんが言いました。
「私たち、明日またあの廃ホテルに行くの。羽月さんも一緒に来て欲しいんだ」
なんと城島さんはせっかく千可ちゃんに除霊してもらったというのに、また廃ホテルに行くようです。そのとき、千可ちゃんの脳裏にあるビジョンが突如浮かびました。それは狂乱状態に陥った浜崎さんが、城島さんや福永さんや蓑田さんを鉄パイプのようなもので襲うというものです。背後の光景からしてそこは廃ホテルのようです。
「どうしたの、羽月さん」
ちょっとぼ~としてる千可ちゃんに、浜崎さんが声をかけてきました。千可ちゃんは微笑みを見せることでそれを交わそうとしましたが、ちょっとぎこちのない微笑みです。
「い、いえ、なんでもないですよ」
福永さんが1枚の紙を取り出しました。
「入部届け、もう用意してあるんだよ。羽月さんがここに名前を書いてくれたら、入部完了だよ」
ずいぶん気の早い人たちです。
「そ、それはちょっと」
千可ちゃんはさすがにこれには気分を害してしまったようです。が、逆に今度はオカルト研究会の4人がしょぼ~んとしてしまいました。その空気を読んだ千可ちゃんが、
「で、でも、その廃ホテルには一緒に行きましょう!」
千可ちゃんのその宣言に、オカルト研究会の4人は安堵しました。
「ありがとう。じゃあ、明日、朝9時に駅前にきて。約束ね!」
そういうと、4人は立ち去りました。しかし、あのビジョンはいったいなんだったのでしょうか?
「ただいま~」
千可ちゃんが我が家に帰ってきました。お母さんはまたテレビを見ています。でも、今日は千可ちゃんの顔を見ました。
「千可、おかえり」
怒ってないときのお母さんはとても素晴らしいお母さんです。でも、千可ちゃんには昨日のトラウマがあるので、何も会話しないまま、そそくさと自分の部屋に行ってしまいました。
千可ちゃんは自分の部屋に入ると、そのままベッドにごろんとなりました。千可ちゃんが今気になってることは、さっきのビジョン。千可ちゃんは午後の授業中も、帰り道も、ずーっとそのビジョンのことを考えてました。
そのビジョンは明日廃ホテルの中で起きる出来事を暗示してるようです。じゃあ、なんで浜崎さんは暴れる? もっとも考えられるのは、浜崎さんに悪霊が取り憑いて、我を忘れてしまったケース。だとすると、先回りして廃ホテルに巣食ってる悪霊どもを退散させてしまえば問題は起きないはず。が、廃ホテルの場所は、千可ちゃんは知りません。しかし、千可ちゃんにはふつーの人では考えられない能力があります。千可ちゃんはふーっと目を瞑りました。
リモートビューイング。オカルト研究会の4人がまとまって歩いてます。夜なのか、あたりは暗いようです。4人が歩いてる場所は、千可ちゃんの知ってる場所、隣の町です。千可ちゃんはどうやら、数日前のオカルト研究会の足取りを思い浮かべてるようです。
4人が突如草ぼうぼうの場所で立ち止まりました。そこには仮囲いがあり、その向こう側に廃ホテルらしき建物が見えます。
千可ちゃんはここでイメージを止めました。
問題はここから。千可ちゃんが一定以上の超能力を使うと、間違いなくお母さんにバレます。バレたらまた強烈な張り手です。悪霊を追っ払うという行為は、かなり超能力を使うはずです。
どうすればバレないのでしょうか? 超能力を使っても半日くらい経っていたらバレない? いっそうのこと、正直にお母さんに話す? いい解決法がなかなか見つかりません。ともかく千可ちゃんは、夜ご飯を食べたら廃ホテルに行くことにしました。
夕ご飯はふつーでした。ちなみに千可ちゃんのお父さんは出張が多く、この日も千可ちゃんとお母さんだけで食事でした。千可ちゃんは食べ終わると、自分の食器を流し台に持っていきました。
「ごちそうさま」
千可ちゃんは横目でお母さんを見ると、こう言いました。
「お母さん、ちょっと買いたいものがあるから、本屋に行ってくるね」
が、お母さんは座ったまま、いつもとは違う声色を発しました。
「千可」
千可ちゃんはその一言でドキッとしました。どうやら千可ちゃんの企みは、とっくにお母さんにバレてるようです。千可ちゃんはちょっとおびえてます。
「友達同士が殺し合いしたら困るわね。いいよ、行っておいで」
思わぬお母さんの発言です。千可ちゃんの顔が急に明るくなりました。そしてお母さんに振りかえって、
「ありがとう、お母さん!」
千可ちゃんは自転車に乗って、隣町の廃ホテルに向かって走り出しました。
自転車で廃ホテルに向かう途中の千可ちゃんはとっても上気分です。お母さん公認でオカルト研究会を救うことができるからです。おまけに、お母さんはオカルト研究会のメンバーを友達と言ってくれました。つまり、オカルト研究会に入ってもいいと言ってくれたのです。お母さんのことが気になってなかなか友達を作れなかった千可ちゃんですが、やっとふつーの高校生活を送れるようです。
しかしです。相手は悪霊です。しかも、悪霊は1人とは限りません。たとえ千可ちゃんの霊能力レベルが最高だからと言っても、悪霊に勝てるのでしょうか? いやいや、千可ちゃんの能力をみくびっちゃあ、いけませんよ~
月のない夜です。近くに街灯が1つありますが、あたりは真っ暗です。そんな廃ホテルの前に千可ちゃんの自転車が到着しました。千可ちゃんが自転車のスタンドを立ててると、さっそく中レベルの複数の悪霊が寄ってきました。しかし、千可ちゃんが振り向きざまかわいいガンを飛ばすと、悪霊たちはびびってしまい、次の瞬間霧散してしまいました。
千可ちゃんが仮囲いの隙間から中に入ると、廃ホテルの玄関の前で案の定悪霊たちが待ち構えてました。かなりハイレベルな悪霊たちです。7人は見えます。中には昨日城島さんに取り憑いていた女の悪霊もいます。何かものすごく曰くありげな廃ホテルです。
あまりにもハイレベルな悪霊軍団なのに、千可ちゃんはなぜかニヤッと笑いました。これは余裕か? 次の瞬間、悪霊軍団は一斉に千可ちゃんに襲いかかりました。危ない、千可ちゃん! が…
千可ちゃんがはぁーっ!!と気合の一言を叫ぶと、悪霊たちはあっという間に霧散してしまいました。わずか1分足らずの攻防。恐るべき、千可ちゃん!
それから千可ちゃんは廃ホテルの中を巡って、まだ残ってる悪霊たちを追い払いました。まあ、すべての悪霊を追い払うことは不可能でしたが、残ってる悪霊はみんなザコです。浜崎さんに乗り移る悪霊はいないはずです。
千可ちゃんは満足した表情で、自転車に乗って帰りました。