競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん11

2013年07月30日 | 千可ちゃん
「どこに行ったんだろ?」
 森口くんが何かを捜しながら廊下を小走りで移動してます。と、何かを見つけ、はっとして立ち止まりました。
「いた」
 森口くんが廊下を左に曲がろうとしたとき、千可ちゃんを発見しました。が、さらに曲がったら、そこには戸村くんもいました。どうやら千可ちゃんと戸村くんは仲良く話合ってるようです。
「ああ…」
 森口くんは愕然としました。戸村くんは森口くんに正式に謝罪してます。森口くんはそれを受け入れてます。だから森口くんには何もわだかまりはないはずです。しかし、それでも森口くんにとって戸村くんは恐怖の存在です。その恐怖の存在が自分のお気に入りの女性と仲良くしゃべってるのです。
 森口くんになんとも言えない虚脱感が襲ってきました。そのまま森口くんは後ろに下がり、逆方向に走り出しました。

 ところで千可ちゃんと戸村くんは、何を話し合ってたのでしょうか? ちょっと巻き戻してみましょう。まずは戸村くんの発言。
「あそこに彼女の生き霊がいたんですか?」
「ううん、いなかったよ。どうしてあんな映像が録れたのか、私もわかんない…。強いて言えば、あなたがあの娘の恨みを無意識でキャッチしてたのかも…」
「オレ、あの娘んとこに行って、謝罪してみますよ」
「ううん、それはやめといた方がいいよ。昨日彼女の夢の中に入ったけど、まだ傷が癒えてないみたい。今行ったら、絶対逆効果になるって」
「じゃ、どうしたら…」
 千可ちゃんは微笑みながら答えました。
「私に任しといて」

 ここは千可ちゃんの部屋です。パジャマ姿の千可ちゃんはベッドを背もたれにして、コンパクトデジタルカメラをいじくってます。と、右手にコンデジを持ち、右手を思いっきり伸ばし、自分を撮影しました。次にコンデジの液晶画面で自分の姿を確認。SDカードを抜き取り、それを自分の掌に載せ、何かを念じます。するとSDカードが淡い光りに包まれました。再びSDカードをコンデジに戻し、液晶画面で確認。と、急に千可ちゃんの顔が明るくなりました。
「あは、できた。なんだ、簡単じゃん。
 でも、ビデオカメラのデータはどうなんだろ…。ま、いっか」
 千可ちゃんはベッドに潜りました。
「おやすみ」
 千可ちゃんは深い眠りにつきました。しばらくすると、千可ちゃんの上に1つの人影が立ちました。幽体離脱した千可ちゃんです。千可ちゃんはニヤッと笑ってます。何か企んでるようです。

 ここは浜崎さんの豪邸、浜崎さんの部屋です。浜崎さんもベッドで深い眠りについてます。そこに幽体離脱した千可ちゃんがふわ~っと現われました。机の上に目をやると、SDカードがありました。例の映像を説明したと思われる便せんもあります。千可ちゃんはSDカードを掌に載せました。すると淡い光りがSDカードを包みました。
「これでよし」
 千可ちゃんはSDカードを元の机の上に戻しました。そのとき、千可ちゃんはふと何かを感じました。
「動いた?」
 ここは昨日千可ちゃんが会いに行った女の子の家です。たった今、例の女の子が自転車で走り出したところです。
 この光景を千可ちゃんは目を瞑って見てます。リモートビューです。と、千可ちゃんは目を開けました。
「いったいどこへ行くんだろ?」
 千可ちゃんの姿がふーっと消えました。

 ここは真夜中のみみずく神社です。絵馬掛けに向かって例の女の子が駆けてきました。しかし、淡い光りの人影が行く手を遮りました。幽体離脱した千可ちゃんです。
「どいて!」
「また呪いの絵馬を奉納する気?」
「あなたには関係ないでしょ!」
「まあ、関係ないけど…。
 ねぇ、丑の刻参りて知ってる?」
 女の子は黙ってしまいました。
「丑の刻参りしてるところを誰かに見られたら、その呪いは丸ごと丑の刻参りをした人に跳ね返ってくるよ。私が見てる前で呪いの絵馬を奉納したら、呪いはすべてあなたに振りかかると思うけど。おまけに…」
 千可ちゃんはある方向を指さしました。そこには神社の建物があり、その軒下に監視カメラがあります。
「あそこに監視カメラがある。私が見てなくったって、あの監視カメラでたくさんの人が監視してるけど、それでもいいの?」
「くっ…。これは丑の刻参りなんかじゃないわよ!」
「じゃあ、なんでこの時間に絵馬を奉納すんの?」
 女の子はキッとした視線で千可ちゃんを睨みました。そして振り返り、逃げるように駆け出しました。それを見て千可ちゃんはニヤッと笑いました。

 翌日の部室です。千可ちゃんがみんなに紙を1枚ずつ配ってます。福永さん、城島さんがこの紙片を読んでます。と、ここで福永さんがあることに気付きました。
「あれ、森口くんは?」
 そうです。今ここに森口くんの姿がありません。紙を配り終わった千可ちゃんが机に座りながら、
「授業には出てたんですけど…」
 浜崎さんが紙を持って説明し出しました。
「はい、これが昨日書いた心霊映像の説明文です。ふふ、5時間もかけて書いたんだ」
 城島さんが感嘆な声をあげました。
「いいんじゃないですか。これで十分ですよ」
「部長、送る前にもう1回あの映像を見ましょうよう!」
 その福永さんの発言に浜崎さんが答えました。
「OK!」
 浜崎さんは未封の封筒からSDカードを取り出し、カバーを取ってビデオカメラに装着。ビデオカメラのスイッチを押しました。が、このビデオカメラと専用コードでつながってるテレビに映像が出ません。データがないと警告が出るだけです。
「あ、あれ…」
 浜崎さんは焦ってます。いや、福永さんも城島さんも焦ってます。千可ちゃんは表向き焦ってる顔してますが、実は吹き出しそうになってるのを我慢してます。
 浜崎さんは今度はSDカードをコンピューターに挿入し、ディスプレイを凝視しました。
「データが1個もないって?…。どうして、どうして?」
 ここで戸村くんが口を開きました。
「あの~、オレの力って、期間限定なのかも…」
 これに福永さんが反応しました。
「んな、バカな!」
「いや、あるかも」
 浜崎さんは真顔でビデオカメラを戸村くんに手渡しました。
「ねぇ、昨日と同じことして」
「えぇ~…」
「ほんとうにあなたの力が期間限定なら、テレビに映像を映して、それを別のカメラで録るから!」
「わかりましたよ」
 戸村くんはちょっとあきれ顔です。が、部長の浜崎さんには逆らえません。仕方がないから、額にビデオカメラのレンズを密着させ、録画を開始しました。約2分後、録画停止。さっそく再生してみましたが、テレビには何も映ってません。浜崎さんはかなり悔しい顔をしてます。
「ん~…。
 もう1回やって!!」
 浜崎さんはまた戸村くんに録画させました。今度は5分。しかし、やはり何も映ってません。
「もう、どうして…。どうしてなのよーっ!!」
 結局このままオカルト研究部の部活はお開きとなりました。