競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん9

2013年07月25日 | 千可ちゃん
 ここは別の病院の病室です。戸村の母親が眠らされてます。その手には点滴の針があります。ベッドの脇にはパイプ椅子があり、そこには半透明な戸村の姿があります。その目はかなり厳しく光ってます。実は戸村は、寝ずの番で母親を守ってました。ま、幽霊だから眠る必要はないのですが。
「くそーっ、早く来いよ!。ぶっ潰してやる!」
 と、壁の一角にふわ~っと人影が現われました。
「来た!!」
 その影が千可ちゃんの生き霊となりました。相変わらず目が不気味に光ってます。
「くくくく」
 戸村は千可ちゃんに殴りかかりました。
「好きにさせるかーっ!!」
 と、またもや千可ちゃんが白い光りを放ちました。白い光りが戸村に当たる寸前、戸村の姿は消え、次の瞬間、千可ちゃんの真後ろに現われました。
「バカめ、オレだって幽霊なんだよーっ!」
 戸村の両手が千可ちゃんの首に。が、戸村の両手は、なんと素通りしてしまいました。
「す、素通り!?」
 千可ちゃんが笑いながら振り返りました。
「ケケケケ」
 千可ちゃんが白い光りを発射しました。
「うぎゃーっ!!」
 戸村は吹き飛ばされ、壁に叩きつけられました。すると壁から手が2本すーっと現われました。その2本の手が戸村の両手首を掴みました。
「な、なんだ!?」
 戸村は2本の手で壁に十字に縛り付けられてしまいました。
「くそーっ!!」
 千可ちゃんはどこからか短刀を取り出しました。そして戸村の母親の上で短刀を大きく振り上げました。
「やめろーっ!!」
「うひゃひゃひゃひゃ」
 ついに千可ちゃんが短刀を振りおろし始めました。が、
「やめてっ!」
 千可ちゃんはその声で手を止めました。そして振り返ると、そこにはあらぬことか、もう1人の千可ちゃんがいます。これには戸村もびっくりです。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
 もう1人の千可ちゃんは目も正常だし、右頬にガーゼが貼りつけてあります。そうです。これは千可ちゃんのコントロール下にあるもう1人の千可ちゃんの生き霊、正確には幽体離脱した千可ちゃんです。
「ふぎゃーっ!!」
 目が光る千可ちゃんの生き霊が真実の千可ちゃんの生き霊に刃物を振りかざし、襲いかかりました。が、刃物が刺さる寸前、真実の千可ちゃんはすーっと横に避けました。それを見た戸村は、自転車で襲ってくる千可ちゃんを間一髪で避けた自分を思い浮かべました。
「こ、これはあのときの…」
 真実の千可ちゃんが目が光る千可ちゃんの顔面をストレートパンチで殴りました。
「このーっ!!」
 目が光る千可ちゃんは大きく弾き飛ばされ、壁に激突。と、真実の千可ちゃんは瞬間移動し、目が光る千可ちゃんの胸元を掴み上げました。
「あなたは私。私なら私のいうことを聞いて!!」
 次の瞬間、目が光る千可ちゃんの身体がぱーっと霧散してしまいました。真実の千可ちゃんの勝利です。
 千可ちゃんは戸村を見ました。戸村はまだ壁に縛り付けられたままです。
「お、おい、これ取ってくれよ!」
「あなた、私に何か言うことあるでしょ?」
「えっ?」
 千可ちゃんは自分の右頬のガーゼを指さしました。
「これ、だれのせいなの?」
「あ…。ごめん」
「あ~、聞こえない」
「ご、ごめんなさい!」
 千可ちゃんはニヤッと笑いました。しかし、まだ許さないようです。
「ねぇ、私って、ブス?」
「ブ、ブスじゃないです」
「ほんと?」
「美人です!、かわいいです!」
 千可ちゃんは下向きになってクスクスと笑いました。そして右手の人差指と親指をパッチンと鳴らしました。すると、戸村を縛りつけていた手が消滅。戸村の身体はフロアに転がりました。
「うわっ」
 千可ちゃんはしゃがんでその戸村を見ました。
「今度は私が謝る番ね。ねぇ、生き返ろうと思わない?」
「ええっ?」
 千可ちゃんは戸村の右手を握りました。
「飛ぶよ!」
「えっ?」
 千可ちゃんと千可ちゃんに引っ張られた戸村が、ものすごい勢いで飛びました。戸村にはこれはきつかったようです。
「うわーっ!」
 が、すぐに2人は目的地に到着しました。ここは解剖室。真ん中に戸村の死体が乗った台があります。
「オ、オレの死体…」
「よかった。まだ解剖されてなくって。
 さあ、中に入って!」
「ええっ?。だって、心臓が止まってもう12時間以上経ってるんだぞ」
「24時間までならなんとかなるって。さあ、早く!」
「わかった。わかったよ」
 戸村は自分の身体の中に入ることを決意しました。戸村の死体は仰向けですが、戸村の霊もその状態で身体に入りました。次に千可ちゃんは戸村の死体に両手をかざしました。すると両の掌から光りが発生しました。しばらくその光りを浴びてると、戸村のまぶたがふいに動きました。
「う、うう…」
 ついに戸村のまぶたが開きました。
「よかった」
 戸村は千可ちゃんを見ました。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
 と、千可ちゃんは大事なことに気づきました。
「あれ、私が見えるの?」
「あ、はい…」
 どうやら蘇った戸村は、幽霊が見える体質になってしまったようです。

 さて、千可ちゃんはこのまま自分の身体に戻ったかと言えば、実は別のところに飛んでました。みみずく神社の絵馬掛け。そうです。あの呪いの絵馬です。千可ちゃんは今回の事件の原因がすべてこの絵馬にあると判断したのです。
 千可ちゃんはその絵馬を右手で持つと、その右手を水平に伸ばしました。次の瞬間、絵馬がぱっと燃えました。千可ちゃんはその燃えた絵馬を地面に落とすと、ご満悦な笑みを浮かべました。

 それから数日後、いつもの千可ちゃんの教室です。千可ちゃんは自分の机に座ってのんびりしてます。もう右頬にはガーゼはありません。
 急にあたりがざわめきました。突如戸村くんが教室に入ってきたのです。それを見た千可ちゃんは緊張しました。戸村くんが千可ちゃんの前に立ちました。千可ちゃんの目が険しくなってます。と、戸村くんは右手を出しました。千可ちゃんはちょっと拍子抜けになりました。
「ありがと」
 と、戸村くんの一言。
「いいえ、どういたしまして」
 千可ちゃんは戸村くんの右手を握りました。握手、和解です。