競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん10

2013年07月29日 | 千可ちゃん
 ここはどこなのでしょうか?。ある意味真っ白い、ある意味灰色な、ある意味ドス黒い空間です。その中に1人、女の子がいます。女の子は座ってます。ただ、何に座ってるのかわかりません。見えない何かに座ってます。女の子は泣いてました。
「なんで泣いてるの?」
 女の子がはっとして振り返ると、そこには千可ちゃんがいました。
「あ、あなたは確か、4組の羽月さん」
「はい、羽月です。よくわかりましたねぇ。あまりにも目立たないから、喪女て言われたこともあるんですよ」
 千可ちゃんは女の子の横に座りました。
「あなたが泣いてたから、気になって来ました。高校に行ってないみたいだけど、どうして?」
「怖いから…」
 千可ちゃんはちょっと考え、そして再び質問しました。
「戸村がいるから?」
 女の子は何も反応しません。
「私もあいつに殴られたんだ」
「え?」
 千可ちゃんは自分の右頬を触りました。
「ここを殴られた。おかげで顔が2倍に膨れたよ。おまけに、私の顔を踏み潰そうとした。頭に来たから、呪い殺してやったよ」
 女の子はちょっと驚いてます。
「でも、ちょっとやり過ぎたかなあて感じだったから、生き返ってもらった」
「い、生き返らせたの?」
「うん。で、謝ってもらった」
 女の子は言葉を亡くしました。
「ここに戸村くんを連れてきて、謝ってもらおうか?」
「いやっ!!」
 女の子はここで初めて大きな声を出しました。
「ん~、そっか…」
 と言うと、千可ちゃんは立ち上がりました。
「ありがとうね」
 女の子はびっくりしました。
「え?」
「気が向いたらまた来るよ。そんときはよろしくね」
 千可ちゃんは歩き出しました。
「ちょ、ちょっと待って!」
 と、千可ちゃんの姿はふっと消えました。女の子はとても残念そうです。

 ここは現実世界。オカルト研究部の部室です。机に座ってる福永さんが、いや~な顔で横を見てます。
「ねぇ、あなた、なんでここにいるの?」
 福永さんの視線の先には戸村くんが座ってます。
「入部届け、出しましたよ」
 その横に座ってる森口くんが苦笑いしてます。福永さんはきっとこう思ってるはずです。
「部長~、なんでこいつの入部、許可したの?」
 と、ドアが開き、浜崎さんが入ってきました。
「あった!、ありましたよーっ!!」
 浜崎さんの手にはDVDのパッケージがあります。
「ほんとうに怖い心霊ビデオ第60巻。発売日にレンタルできたーっ!」
 福永さんと城島さんが目を輝かせました。
「やったーっ!!」
 浜崎さんは得意満面な顔をしました。
「レンタルてことでパッケージは持って来れなかったんだけど、みみずく神社も出てくるみたいよ」
 と、それを聞いた千可ちゃんが、ほんの一瞬嫌な顔をしました。

 再生開始。みみずく神社の話題は最初にありました。
「ここですか。オレのこと死ねって書いた絵馬があった神社は?」
「うん」
 戸村くんの質問に千可ちゃんが返答しました。戸村くんはさらに何か言いたいようでしたが、口ごもりました。
 ビデオの説明だと、最近○○死ねと書かれた絵馬が奉納されてるので、神社が監視カメラを設置したところ、その翌日怪しい人影が映ったとのこと。いよいよそのシーンです。
 絵馬掛け全体を映してる監視カメラの映像。日は高いようです。と、いきなり半透明な人影が現われました。
「うわっ!。いきなり出た!」
 森口くんはびっくりです。
 人影は斜め後ろになってるので顔はわかりません。が、千可ちゃんはだれだかわかってます。そうです。これは幽体離脱した千可ちゃんです。千可ちゃんはあのとき、まさか監視カメラで監視されてるとは思ってもいませんでした。千可ちゃんはまずかったなあと思ってます。
 人影が絵馬掛けに手を伸ばし、1枚の絵馬を手にしました。人影がその手を伸ばすと、絵馬が突然パッと燃え始めました。これを見て一同は唖然としました。
「燃えた…」
「すごい心霊映像だ…」
 映像の中で人影がふっと消えました。引き続き、リプレイ。さらにスローによるリプレイ。これを見て福永さんがふと気付きました。
「あれ?。これ、羽月さん?」
「あは、まさかあ…」
 千可ちゃんは苦笑いでごまかしました。
 浜崎さんは映像を止めました。
「燃やされたのはきっとあの呪いの絵馬ね」
「オレのこと、死ねって書いた絵馬っすか?」
 実は戸村くんもこの人影が千可ちゃんだと気づいてます。戸村くんにもある意味ありがたくない映像のようです。

 6人はそのままDVDを見続けましたが、その後の盛り上がりは欠けたようです。
「あ~、やっぱり最初の映像が強烈だったなあ」
 浜崎さんはテレビを切り、こう言いました。それを聞いた城島さんが、
「部長、またあの神社に行って、取材しましょうよ」
「監視カメラもついたことだし、今から行ってもあまり意味がないんじゃないかな。
 それよりもさあ、私たちも心霊ビデオ、録ってみない?」
「ええ~」
 これにはみんなびっくりです。それに対し浜崎さんはビデオカメラを持ち、そのレンズの先を自分の額に当てました。
「こーやってレンズの先を額に当てて、RECボタンをオン。録画中ずーっと幽霊のことを想像するの。何か映っていたら成功よ」
 そんなわけで、みんなで順番にビデオを録ることにしました。まずは浜崎さん。額にビデオカメラを当て、REC。約2分間。次に福永さん。福永さんの次は城島さん。城島さんは、幽霊、映れ、映れと口にしながら撮影しました。
 その次は千可ちゃん。千可ちゃんは念写は試したことはないのですが、千可ちゃんが念写すれば絶対何か映ります。そんなわけで千可ちゃんはみんなとは逆に、何も映るなと念じながら撮影しました。千可ちゃんの次は森口くん。最後に戸村くんが撮影しました。
 撮影が終わると、ビデオカメラをテレビに接続し、再生。浜崎さんは何も映ってません。福永さんも城島さんも、問題の千可ちゃんも、何も映ってませんでした。森口くんも何も映ってませんでしたが、最後の戸村くんには異常がありました。
 真っ暗な画面。が、何か白いものが見えてきました。どうやら人影らしいのですが、いまいち不鮮明です。しかし、RECを切る寸前、何か声が聞こえました。浜崎さんはこの映像を見て歓喜してます。
「あ、あなた、すごいじゃない!!」
「ま、まあ…」
 戸村くんはちょっと照れながら返答しました。
「最後に何か声がした。部長、もう1回見てみましょうよ!」
 城島さんのその発言に浜崎さんが答えました。
「OK!」
 再び再生。たしかに何か声がしてますが、よくわかりません。
「もう1回再生!」
 浜崎さんは今度は音声をマックスにして再生しました。で、ついにわかりました。戸村死ね。こう言ってたのです。浜崎さんは唖然としました。
「あなた、どこまで恨まれてるの?」
「う~ん」
 戸村くんは顔に似合わず、頭を抱えてしまいました。
 浜崎さんはさっそくビデオからSDカードを抜き出し、それをみんなに見せました。
「これをほんとうに怖い心霊ビデオの制作委員会に送ってみるよ!」
 福永さんと城島さんの目が輝いてます。
「これは絶対採用されるはず!」
 一方千可ちゃんはそのデータを念写で潰そうと考えましたが、何分念写なんかしたことないもので、それは断念しました。
 このままオカルト研究部の部活はお開きとなりました。