競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

千可ちゃん6

2013年07月20日 | 千可ちゃん
 雨の日でした。千可ちゃんの下校の時間です。人影はまばらです。千可ちゃんは下駄箱から靴を取り出し、履き替え、そして傘立てへ。しかし、千可ちゃんの傘はないようです。
「あれ?」
 と、千可ちゃんが視線を逸らすと、そこに千可ちゃんの傘を持った男の子がいます。森口くんです。
「あ、それ、私の傘!」
「え?」
 森口くんが振り向くと、千可ちゃんが早足で来ました。
「それ、私の傘だよ!」
「ご、ごめん」
 森口くんは傘立てから別の傘を取り出しました。
「ぼくの傘、こっちだった」
 それは朱色の傘でした。千可ちゃんの傘は紺色です。どう間違えたんでしょうか?
「もう、しっかりしてね!」

 次の日も雨でした。千可ちゃんはいつものように帰ろうとしましたが、今日も傘がありません。千可ちゃんは一瞬呆れた顔をしましたが、次の瞬間、ふーっと目を瞑りました。リモートビューイングです。
 小雨の中、千可ちゃんの傘をさして歩く人影が見えます。顔を見たら森口くんでした。
 千可ちゃんは目を開けました。
「あ、まただ…」
 千可ちゃんは傘立てに残る森口さんの傘を持って、駆け出しました。
「も~っ!」

 森口さんが傘をさして下校してると、後ろから声が。
「待って~っ!」
「え?」
 森口くんが振り返ると、千可ちゃんが小雨に濡れながら駆けて来ました。
「もう、なんで私の傘、持ってっちゃうのよ?」
 千可ちゃんは森口くんに傘を差し出しました。
「こっちでしょ、あなたの傘は!」
「あ~、ごめんごめん」
「ぜんぜん色が違うじゃん!」
 森口くんは傘を広げたまま、千可ちゃんに手渡しました。
「もう、間違えないでよ!」
 千可ちゃんが振り向こうとしたら、急に森口くんが語りかけました。
「あ、あの~、羽月さん、カラオケに行こうよ!」
 千可ちゃんはびっくりです。
「ええっ?」
「お詫びのしるしだよ。ぼくがお金出すから」
 千可ちゃんはカラオケに行ったことはありますが、男の子と2人で行ったことはありません。でも、せっかくのお誘いです。千可ちゃんは行くことにしました。

 カラオケハウスの一室。森口くんと千可ちゃんは気持ちよく歌ってます。千可ちゃんは1人で歌いたいようですが、なぜか森口くんはデュエット曲ばかり入れてきます。仕方がないから、千可ちゃんはその時は一緒に歌ってあげました。でも、千可ちゃんはとっても笑顔です。
 1時間が過ぎました。森口くんはもう1時間歌いたいみたいです。でも、千可ちゃんは遠慮することにしました。
「ありがとうね、森口くん」
「うん。
 ねぇ、羽月さん、またカラオケに行こうよ」
「う~ん…、気が向いたら、ね」

 翌日の下校時間、教室の中です。千可ちゃんは城島さんと一緒に歩きだそうとすると、そこに森口くんが来ました。
「あ、あの~、羽月さん…」
「あ~、ごめん、今日は部活だから」
「そ、そうなんだ…」
 森口くんを見る城島さんの頭には、疑問符が浮いてます。と、森口くんがまた訊いてきました。
「ぼく、その部活に出てもいい?」
「う~ん…。ちょっと特殊な部だけど?」
「か、構わないよ!」
「じゃあ、ついてきて」
 千可ちゃんと城島さんは、森口くんを引き連れて歩き始めました。城島さんの質問です。
「あなた、羽月さんの彼?」
「そ、そんなものじゃないですよ」
 と、森口くんはもじもじしながら返答しました。だけど、どっからどう見ても千可ちゃんに恋愛感情大です。もちろん、千可ちゃんもそれに気付いてます。千可ちゃんだって乙女です。恋に憧れてます。でも、森口くんはまだその対象には至ってないようです。

 ここはオカルト研究部の部室です。ふつーの教室の半分くらいの面積です。オカルト研究部だから魔女の大釜とか護符とか置いてあるような気がありますが、そんなものはまったくありません。ただ、大きな書庫があり、そこに怪しい本がたくさん並んでいます。
 ドアが開き、千可ちゃんと城島さんと森口くんが入ってきました。
「こんにちは」
 中には浜崎さんと福永さんがいました。
「こんにちは」
 と、浜崎さんが森口くんに気付きました。
「きみは?」
「森口くんです。入部希望者ですよ」
 あれれ、千可ちゃん、森口くんは入部希望なんて一言も言ってませんよ? でも、
「も、森口です!、よろしくお願いします!」
 成り行きか、森口くんは入部すると宣言してしまいました。しかし、それを聞いて福永さんは大喜びです。
「ほ、ほんと?、歓迎するよ、ありがとう!」
 実は浜崎さんと蓑田さんがケンカしてしまい、それ以来蓑田さんは部室に来てません。もし蓑田さんが正式に退部届けを出したら、オカルト研究部は4人となり、またオカルト研究会に逆戻りです。だからこのタイミングで森口くんが入ってくれると、オカルト研究部はたいへん助かるのです。
 が、森口くんはまだ疑問が1つ残ってるようです。
「あの~、ぼく、男だけど、いいんですか?」
 そう言えばオカルト研究部は全員女子です。が、浜崎さんはこう答えました。
「あは、いいよいいよ、去年は男子が3人いたから、な~んの問題もないよ」
「あ、よかった」
 森口くんはちょっと安堵です。そして、部活動開始。今日は隣の隣の市にあるみみずく神社の話題です。
 この神社、絵馬を奉納すると願いが叶うことで有名なのですが、最近○○死ねと書かれた絵馬が幾度となく奉納されてるようです。しかもその絵馬をカメラで撮影すると、かなりの確率で霊が写るとか。その噂が広がるとみみずく神社の祢宜さんは絵馬を逐一チェックするようになりました。が、それでもたま~に呪いの絵馬が奉納されてるようです。
 オカルト系の雑誌にその絵馬の写真が載ってるのですが、その絵馬の真後ろに女の子の顔があります。まるでそこに生きてる女の子を立たせたような鮮明な心霊写真です。浜崎さんがその写真を提示すると、福永さんと城島さんは興味津津。でも、森口くんはビビりました。
「う、うわっ!」
 浜崎さんと福永さんが心配したようです。
「きみ、大丈夫?」
「この程度でビビっちゃうの?、これより怖い写真は、ここにはいくらでもあるんだよ」
 森口くんは苦笑いしながら、
「だ、大丈夫ですよ。あははは…」
 ちなみに、千可ちゃんはこれを生き霊と判断しました。もちろん、その事実は口にしてません。
 今日は金曜日。明日は土曜日。オカルト研究部は明日これを確かめに行くことにしました。

 翌日浜崎さんの豪邸に福永さんと城島さんと千可ちゃんが自転車で来ました。この時点で朝8時。それから約40分。やっと森口くんが来ました。
「み、みなさん、早いですねぇ」
 浜崎さんは微笑みながら返答しました。
「ふふっ、オカルト研究部じゃあ、約束より1時間早く集まるのがルールなんだ」
 さあ、出発です。ちなみに、森口くんが来るまで、4人は心霊写真本を回し読みしてました。

 浜崎さんの家から最寄りの駅まで約2km、徒歩。そこから電車に乗って3つ目の駅。さらにバスに乗り換え、約20分。ついにみみずく神社に到着です。
 境内に入ると、さっそく絵馬掛けを発見。絵馬がたくさん奉納されてます。さっそく浜崎さんと福永さんが絵馬をチェックし始めました。千可ちゃんがビデオカメラで、城島さんがスティルカメラでそれを撮影してます。ちなみに、千可ちゃんは生き霊や死霊の気配はまったく感じてません。
「あった!」
 ついに浜崎さんが呪いの絵馬を発見しました。1年2組戸村死ね!、と書いてあります。
「これが呪いの絵馬…」
 城島さんがそーっとその絵馬に手を伸ばそうとしましたが、浜崎さんがその手を振り払いました。
「触っちゃだめ、呪われるよ!」
「ええっ!?」
 千可ちゃんが森口くんに話しかけました。
「1年2組の戸村て、あの人のこと?」
「うん、ぼくもそう思った」
 浜崎さんはその会話を聞いて、はっとしました。
「え?、うちの高校の子なの?」
 そうです。戸村とは千可ちゃんが通う高校の生徒なのです。戸村は少し前に事件を起こしてます。授業中、隣の女の子を殴り倒し、顔に軽傷。警察が乗り出し、彼と彼の母親に謝罪文を書かせ、事を穏便に済ませましたが、それ以来戸村は登校してません。ちなみに、殴られた娘は今心療内科に通ってるそうです。この絵馬はその娘か、両親が書いたものなのでしょうか?
 5人はさらに絵馬をチェックしましたが、呪いの絵馬はこれだけでした。5人はみみずく神社をあとにしました。