■こならの森131号■1999.3発行
表紙 「三毳山新緑」
C・o・n・t・e・n・t・s
■こならの森4月号■
3pとしこの巻頭詩「花だいこん」
4p-7pJC・ルネッサンス 土屋 弘吉
8pヤンバル・お店紹介
9p誕生しました土屋伸昭さん
10-11p ショート「常連」
12-19p 特集 花情報
18-19p 現代国語
20-21p 協賛店・MAP
22p 辛口映画評
23p 書評・絵本紹介
24-25p クイズ/タウン情報
26-29p インフォメーション98
30p こならの森から
■■■■■■
【本文抜粋記事】
ザ・ショート
「常連」
とある居酒屋での話。
週末の夜ともなれば、客の入りも違ってくる。店主は忙しく立ち働き、客との会話を楽しんでいる。棚の上では、陶器の招き猫が、細い目をひらめかせている。湯気と、タバコの煙が漂っている。
季節は秋にさしかかる頃。
カウンターのすみで、ひとりコップ酒をすすっていた天狗鼻の老人がふっと顔を上げた。
「ご主人、そろそろもろきゅうをもらおうか。」
「はい。ああ、そういえば、そろそろいらっしゃる頃ですね。」
店主は、笑ってうなずいた。席をひとつ空けて座っていた赤ら顔のサラリーマンが、仲間と談笑しながら手を挙げる。
「おやじさん、熱燗追加ね。」 「はいはい。」
店主は鍋の中からとっくりを出すと、手早く水気を拭き取った。そして、客の前に運ぶ。
それからキュウリをとり、水洗いして飾り包丁をいれる。天狗鼻の老人が、目を閉じて鼻をうごめかす。
「いい音だね。」
「今日のは悪くないですね。」 「匂いもいい。」
がらりと戸が開いて、小柄でやぶにらみの老人が入ってきた。やぶにらみの老人は、迷わず天狗鼻の老人に隣に座った。
「一杯つけてくれ。」
やぶにらみの老人が言った。
「はい。」
酒より先に、みそを添えたキュウリの皿が出てきた。
老人は、すぐにキュウリをつまんで、しゃきしゃきとかじりはじめる。
それを見ていた天狗鼻の老人が、大きな口を開けて笑いだした。
「どうしたんだ?」
やぶにらみの老人が、店主にもの問いたけな目をむける。
見ると、コップ酒を注ぎながら、店主も笑っている。
「いやね、そろそろあなたが来るだろうと思って、天狗さんがキュウリを注文していたんですよ。だけど、あんまりにもタイミングがドンピシャだったもんで、おかしくてねえ。」
「ちがうちがう。」
天狗鼻の老人が、手を振って店主の話をさえぎる。そして、いかにもおかしそうに身を乗り出した。
「キュウリの匂いが、ぷんとしたときに入ってきたものだからねえ。やっぱり河童さんは、キュウリの匂いに誘われて来るんだなあって感心したら、急におかしくなっちまってねえ。吹き出しちまったよ。」
「ふん。」
河童さんと呼ばれた老人は、そっぽを向いて、コップ酒に口をつける。しかし、その顔には、まんざらでもない笑みが浮かんでいる。
となりの席の赤ら顔のサラリーマンは、話を聞いていたのだろう、老人のほうへ身体を向けた。
「失礼ですが、ここへはよくいらっしゃるんですか?」
店主がこたえた。
「うちの常連さんですよ。河童さんと天狗さん。」
「どちらが河童でどちらが天狗かは、聞かんでもわかるじゃろう。」
老人たちは目配せして、おかしそうに肩を震わせている。
「河童さんに天狗さんか。じゃあ、俺なんかは、さしずめ赤鬼というところかな。」
赤ら顔のサラリーマンが、頬をパンパンと叩いた。
「これはこれは、揃いましたねえ。」
店主は腕組みして、笑いをこらえている。
「赤鬼だあ?」
河童とよばれた老人は顔を上げると、赤ら顔のサラリーマンの頭をなでまわしはじめた。
「角はどうした、角は? 鬼ならば角があろうが?」
「普段は必要ないんです。だから隠してあるんですよ。」
「ふんっ。」
老人は、再び酒をすする。
「赤鬼さんよ、気にしなさんな。この河童さんは、大変な皮肉屋でな。時々、突拍子もないことを言い出すんじゃ。」
「そういうことじゃよ。わしに触れると痛い目にあうぞ。」
河童さんはそう言って、またキュウリをかじる。が、ふと手を止めて顔を上げると、となりの赤鬼さんに向き直った。
「そういえばお前さん、腰のところに大きなあざがないかい?」
「えっ?」
赤鬼さんは、驚いた顔になった。
「ああ、腰のあざはありますよ。どうしてわかったんです?」 「ふん、やっぱりな。」
河童さんは目を細める。
「あれは昔も昔、大昔、今から千年以上も昔のことじゃ。今で言う信州あたりの山のなかで、旅をしていた山伏に、わしは相撲をいどんだんじゃ。もちろん、勝負はわしの勝ちじゃった。わしの得意の怒涛の寄りに、相手はたまらず尻餅をついたもんじゃ。あんたのその腰のあざは、その時のなごりじぇよ。なつかしいのう。まだ、鬼にはなりきれずにいるのか。そうかそうか。」 河童さんは、赤鬼さんの肩をパンパンと叩いた。
「また、河童さんの昔話がはじまったのう。」
天狗さんも、笑っている。
「気にしないでくださいね。河童さんの話は、みんなホラですから。この人、いつもこうなんですよ。」
店主が顔を寄せて、小声でささやいた。
赤鬼さんは、びっくりした顔のままうなずいた。そして冷えた杯を、一息に飲み干した。
「熱燗、もう一本ください。」 店の中には、湯気とたばこの煙が、かすみのようにたなびている。棚の上の招き猫は、薄ら笑いを浮かべているようにも見える。
週末の夜、店の中はにぎやかだ。
どアップに耐える中条きよしで@正しい必殺@が帰ってきた!!
表紙 「三毳山新緑」
C・o・n・t・e・n・t・s
■こならの森4月号■
3pとしこの巻頭詩「花だいこん」
4p-7pJC・ルネッサンス 土屋 弘吉
8pヤンバル・お店紹介
9p誕生しました土屋伸昭さん
10-11p ショート「常連」
12-19p 特集 花情報
18-19p 現代国語
20-21p 協賛店・MAP
22p 辛口映画評
23p 書評・絵本紹介
24-25p クイズ/タウン情報
26-29p インフォメーション98
30p こならの森から
■■■■■■
【本文抜粋記事】
ザ・ショート
「常連」
とある居酒屋での話。
週末の夜ともなれば、客の入りも違ってくる。店主は忙しく立ち働き、客との会話を楽しんでいる。棚の上では、陶器の招き猫が、細い目をひらめかせている。湯気と、タバコの煙が漂っている。
季節は秋にさしかかる頃。
カウンターのすみで、ひとりコップ酒をすすっていた天狗鼻の老人がふっと顔を上げた。
「ご主人、そろそろもろきゅうをもらおうか。」
「はい。ああ、そういえば、そろそろいらっしゃる頃ですね。」
店主は、笑ってうなずいた。席をひとつ空けて座っていた赤ら顔のサラリーマンが、仲間と談笑しながら手を挙げる。
「おやじさん、熱燗追加ね。」 「はいはい。」
店主は鍋の中からとっくりを出すと、手早く水気を拭き取った。そして、客の前に運ぶ。
それからキュウリをとり、水洗いして飾り包丁をいれる。天狗鼻の老人が、目を閉じて鼻をうごめかす。
「いい音だね。」
「今日のは悪くないですね。」 「匂いもいい。」
がらりと戸が開いて、小柄でやぶにらみの老人が入ってきた。やぶにらみの老人は、迷わず天狗鼻の老人に隣に座った。
「一杯つけてくれ。」
やぶにらみの老人が言った。
「はい。」
酒より先に、みそを添えたキュウリの皿が出てきた。
老人は、すぐにキュウリをつまんで、しゃきしゃきとかじりはじめる。
それを見ていた天狗鼻の老人が、大きな口を開けて笑いだした。
「どうしたんだ?」
やぶにらみの老人が、店主にもの問いたけな目をむける。
見ると、コップ酒を注ぎながら、店主も笑っている。
「いやね、そろそろあなたが来るだろうと思って、天狗さんがキュウリを注文していたんですよ。だけど、あんまりにもタイミングがドンピシャだったもんで、おかしくてねえ。」
「ちがうちがう。」
天狗鼻の老人が、手を振って店主の話をさえぎる。そして、いかにもおかしそうに身を乗り出した。
「キュウリの匂いが、ぷんとしたときに入ってきたものだからねえ。やっぱり河童さんは、キュウリの匂いに誘われて来るんだなあって感心したら、急におかしくなっちまってねえ。吹き出しちまったよ。」
「ふん。」
河童さんと呼ばれた老人は、そっぽを向いて、コップ酒に口をつける。しかし、その顔には、まんざらでもない笑みが浮かんでいる。
となりの席の赤ら顔のサラリーマンは、話を聞いていたのだろう、老人のほうへ身体を向けた。
「失礼ですが、ここへはよくいらっしゃるんですか?」
店主がこたえた。
「うちの常連さんですよ。河童さんと天狗さん。」
「どちらが河童でどちらが天狗かは、聞かんでもわかるじゃろう。」
老人たちは目配せして、おかしそうに肩を震わせている。
「河童さんに天狗さんか。じゃあ、俺なんかは、さしずめ赤鬼というところかな。」
赤ら顔のサラリーマンが、頬をパンパンと叩いた。
「これはこれは、揃いましたねえ。」
店主は腕組みして、笑いをこらえている。
「赤鬼だあ?」
河童とよばれた老人は顔を上げると、赤ら顔のサラリーマンの頭をなでまわしはじめた。
「角はどうした、角は? 鬼ならば角があろうが?」
「普段は必要ないんです。だから隠してあるんですよ。」
「ふんっ。」
老人は、再び酒をすする。
「赤鬼さんよ、気にしなさんな。この河童さんは、大変な皮肉屋でな。時々、突拍子もないことを言い出すんじゃ。」
「そういうことじゃよ。わしに触れると痛い目にあうぞ。」
河童さんはそう言って、またキュウリをかじる。が、ふと手を止めて顔を上げると、となりの赤鬼さんに向き直った。
「そういえばお前さん、腰のところに大きなあざがないかい?」
「えっ?」
赤鬼さんは、驚いた顔になった。
「ああ、腰のあざはありますよ。どうしてわかったんです?」 「ふん、やっぱりな。」
河童さんは目を細める。
「あれは昔も昔、大昔、今から千年以上も昔のことじゃ。今で言う信州あたりの山のなかで、旅をしていた山伏に、わしは相撲をいどんだんじゃ。もちろん、勝負はわしの勝ちじゃった。わしの得意の怒涛の寄りに、相手はたまらず尻餅をついたもんじゃ。あんたのその腰のあざは、その時のなごりじぇよ。なつかしいのう。まだ、鬼にはなりきれずにいるのか。そうかそうか。」 河童さんは、赤鬼さんの肩をパンパンと叩いた。
「また、河童さんの昔話がはじまったのう。」
天狗さんも、笑っている。
「気にしないでくださいね。河童さんの話は、みんなホラですから。この人、いつもこうなんですよ。」
店主が顔を寄せて、小声でささやいた。
赤鬼さんは、びっくりした顔のままうなずいた。そして冷えた杯を、一息に飲み干した。
「熱燗、もう一本ください。」 店の中には、湯気とたばこの煙が、かすみのようにたなびている。棚の上の招き猫は、薄ら笑いを浮かべているようにも見える。
週末の夜、店の中はにぎやかだ。
どアップに耐える中条きよしで@正しい必殺@が帰ってきた!!