皇室の祖先である天照大神と、食物を司る豊受大神が祀られている、三重県伊勢市の伊勢神宮。
ここは昔から「お伊勢さん」と親しみを込めて呼ばれているが、正式名称は「神宮」という。
なぜならここは日本の神社の起源であり、神道の最高位の社であるため「伊勢の」と地名をつける必要がないからだ。
そんな権威に溢れる神宮だが、もちろん誰でも気軽に参拝する事ができる。
江戸時代には「おかげ参り」が大流行し、江戸や東北からお伊勢さんを目指して何日、何ヵ月も歩いて参拝した人も多かった。
弥次さん、喜多さんでお馴染みの「
東海道中膝栗毛」でも、その賑やかな様子が描かれている。
しかし、折角お参りに来ても神宮では神の側で手を合わせる事ができない。
なぜなら、天照大神と豊受大神を祀る「正宮」がどちらも板垣、外玉垣、内玉垣、瑞垣の四重の玉垣に囲まれており、一般人は立ち入る事が禁止されているからだ。
20年に一度、正宮を立て替える式年遷宮の際に寄付をすると、そのお礼として特別参宮章が渡される。
これを持って神宮にお参りすると特別参拝が許され、垣根の中に入る事が出来るが、それでも近づけるのは外側から3重目の内玉垣の手前までで、それ以上奥へは進めない。
一番奥の瑞垣の内側は「内院」と呼ばれ、最も神聖な場所だ。
ここには、神の子孫である皇室関係者さえ立ち入る事が出来ないのだ。
国家鎮護の最高神でありながら、どこか身近なお伊勢さん。
しかし、そこに祀られた神は決して近づく事が出来ない、遠い存在なのである。