二日目
天候:一時、のちから
行程:出発5:00-源次郎尾根取付6:10-Ⅱ峰懸垂地点-剱本峰10:20~40-三ノ窓13:10-池ノ平小屋16:10(テント泊)
朝4時起床。
幸い雨は止んでいるが、星はまったく見えない。
ちょっと迷うが、ここでグズグズしていてもしかたないので出発を決める。
本日は長丁場。
まず源次郎尾根だが、ヒロケン氏の「チャレンジ!アルパイン~」によれば無雪期で6時間。
これに真砂沢から取付まで1時間、剱本峰から三ノ窓まで3時間、さらに小窓雪渓を経由して池ノ平小屋まで3時間を見込むと計13時間にもなってしまう
途中、三ノ窓ビバークも考え水2.5Lを加えたが、これで初日より荷物は重くなってしまった。
こんなで本当に行けるのか?
既に周りのテントはポツポツ明かりがついているが、天気がはっきりしないので皆、しばらく出発を見合わせている様子。
そんな中、ヘッデンを点けて剣沢の左岸を詰めていく。
源次郎尾根の下部は尾根ルートとルンゼ・ルートがあり、今回は一人なので簡単な尾根ルートとする。
長次郎谷の出合を過ぎ、さらに少し行くと白い特徴のある大岩があり、そこが取付の目印と聞いていた。
見ると、右手の草付き斜面にくっきりと踏跡が確認できた。
源次郎尾根取付
草付きを登っていくと、上が狭い棚になっていて、ここでギアを装着。
とりあえず今日は私が源次郎一番乗り?のようで、下を見ると剣沢小屋方面からやってきた三人パーティーが追いついてきた。
すぐに出だしの壁。
古い残置ロープが垂れ下がっており、荷物が重いのでこれを使ってゴボウで上がろうとしたが、ロープが伸びてしまってかえって登り辛い。
しかたなく手頃なカチとガバを拾って、自力で越える。
他の記録ではⅣ級ぐらいと書かれたりしているが、Ⅲ+ぐらいか。
そこからしばらく木登り・・・というより、ルートは木々で囲まれたトンネルのようになっていて、ここを潜り抜けていく。
その後、ちょっと開けたテラスに出て、右側はルンゼ・ルートに合流するようトラバースの踏跡が続いていた。
木登りもかったるいので右側のトラバース道を選ぶが、これが大失敗!
最初のうちこそ良かったが、やがてV字状のルンゼに突き当たり、ここが悪そうだったため、再び左手の尾根ルートに合流するようラインを選んだのだが、この斜面の脆さは相当なもの。
一歩踏み出すごとに足元のザレと一緒に周りの岩が転がり出し、その恐ろしさは、あのおぞましい丹沢・西沢本棚沢の大滝を思い出してしまったほど。(それでも、あの時はフォローだったが・・・。)
もし後続パーティーが同じラインを辿ってきたら、落石でタダでは済まなかっただろう。
幸い彼らは尾根通しに来てくれたので助かった。
これから登ろうとする人には、無雪期のルンゼ・ルートはやめた方がいいとハッキリ言っておきたい。
激悪ルンゼ
何とか切り抜けて尾根に合流。
下部の樹林帯から抜けると、眼前にスラブ状の緩い壁が広がる。
フリクションを効かして適当に登っていこうとしたが、安易に取り付くと結構手強い。
「こっちに踏跡ありますよー。」と後続Pの人が声を掛けてくれ、軌道修正。
相変わらずのルート・ファインディングの悪さを反省する。
途中で見たブロッケン
三人組に先を譲り、そのままリッジ状を進むが、その先でまたブッシュに阻まれ方向が分かれる。
彼らが左側の悪そうなラインを選んだのに対し、私は右側の草付きの中の踏跡を行く。今度はこちらが正解で再び彼らの前に出てⅠ峰直下に出た。
Ⅰ峰からⅡ峰への登り返し
すると前方から人の声。見ると岩の向こうに男女ペアの二人組が先行していた。
一体いつ取り付いたのだろう。
Ⅰ峰のクライムダウンは簡単、Ⅱ峰への登り返しも見た目しんどそうだが、取り付いてみるとそうでもなかった。
先行の二人組に追いつき聞いてみると、彼らは前夜、源次郎尾根の途中でビバークしたとのこと。どおりで早いわけだ。
先を譲ってもらい、そのままゴジラの背のような水平リッジを辿っていくと、その突端がⅡ峰の懸垂地点。
太い鉄杭と極太の鎖、それに多くの残置スリングが掛かっている。
一番先にロープをセットさせてもらったが、中間に結び目ができてしまい、後続のお二人さんを少し待たせてしまった。・・・すみません。
下降は50mの折り返しでピッタリ。最後ちょっとクライムダウンがあるが、問題ない。
その他にも中間支点があるので、場合によっては30m一本でも何とかなるかもしれない。
Ⅱ峰からの懸垂下降
二人組のうち男性の方は横浜在住で、私が「現場監督」の名を出すと「あっ、知ってます!ネットで見たことありますよー。」と言われる。いやーそれはそれは。嬉しいですねぇ。
Ⅱ峰を懸垂で降りると、あとは本峰まで簡単な登り。
トポでは源次郎尾根は一本の真っ直ぐなリッジのように書いてあるが実際には幅広く、右から左へ斜上するように登っていく。
そのまま登山者で賑わう頂上に到着。
五回目の剱頂上
取付からの所要タイム、4時間10分。
50過ぎのオヤジが一人でテント、シュラフ、三日分の食料・・と、家財道具一式担いでこのタイムならまずまずでしょう。
当初、6時間を見込んでいたが、これでいくらか「貯金」ができた。
剱は今回で五回目の登頂。(これまでは夏に八ツ峰と剱尾根から、春は八ツ峰と小窓尾根からと各一回ずつ)
残念ながらガスに包まれ展望は利かない。
いつものように記念撮影をするが、ふと祠が無いことに気付く。
二ヶ月前まではあったのに、一体どうしたのだろう。
積雪前に一時解体でもしたのか?それともカミナリが落ちて焼けてしまったのか?
・・・不思議である。
(追記:後で調べてみたところ、祠は老朽化によりヘリで降ろされ下界で修繕。2013年6月頃に復旧するとのことです。)
頂上で少し休んでから北方稜線に向け、歩き出す。
ほとんどの人が室堂からの往復なので、ここからまた静かな歩きとなる。
今にも降りそうな空だが、そのうち白いモノがチラつき始めた。
うーん、北方稜線で雪は勘弁してほしいぞ。まぁ何度か歩いているので、それほど不安は無いが・・・。
途中でガタイのいい三人組と擦れ違う。
富山県警山岳警備隊の人たちで「北方稜線は経験ありますか?」と職務質問されたので、「はーい、大丈夫でーす。」と答えておいた。
しかし、ガスに巻かれるとやはり北方稜線はわかりにくい。
つい二ヶ月前に歩いているはずなのに、また1~2回道を間違えてしまった。
本峰~長次郎ノ頭の間には7mほどの壁があるが、八ツ峰側から登ってくる場合は補助ロープがあった方がいいかも。本峰から下っていく場合はⅢ+程度の登りとなる。
池ノ谷乗越への下りも相変わらず岩が脆くてイヤらしい。下に人がいることが多く、ここは特に落石厳禁
乗越への下りは、上から見て右寄りの方が比較的岩がシッカリしていると思う。
池ノ谷乗越はすっかり雪が解け、我々が二ヶ月前にテントを張った場所は今ではまったく設営不能。
さらに悪名高き池ノ谷ガリーを落石を起こさないよう三ノ窓へ下り、一息入れた後、今度は小窓王への急な登り。北方稜線の核心はここまで。
三ノ窓から小窓王への登り返し
小窓王の登りも回りがガスに包まれていると何とも恐ろしげな壁に見え、こんなとこロープ無しで登れるの?って印象だが、実際取り付いてみるとちょっと急なザレた斜面で特に問題無し。
この辺りから同じ方向へ向かう人が二人いて、何となく三人で池ノ平小屋まで共に行動するようになる。
小窓王からはsudoさんのHPでの予習どおり、30mほど尾根を進むと尾根通しと小窓雪渓経由のトラバース道との分岐となる。
最初、尾根通しで行くことを考えていたのが、同行の一人が「尾根通しはヤブがひどくて時間がかかる」と言うので素直にトラバースを選んだ。
小窓雪渓へ
トラバースの道はところどころ涸れ沢のような所を降りていく。
このままトラバースで池ノ平に着いてしまいそうな感じだが、馬の背状の「小窓」から踏跡は右手の急な草滑りの斜面へ急降下。そのまま小窓雪渓に降り立つ。
雪渓の傾斜は緩く、表面は適度にデコボコしているので、ストックだけ使ってアイゼンは履かなかった。
雪渓から再び左岸の斜面に上がる所がガスっているとわかりにくいが、視界が利く時にチェックできたので助かった。(雪渓の左岸、岩がボコボコボコと3つぐらい突き出ている所がポイント)
あとは池ノ平までほんのわずかと思ったが、途中で雨も降ってきて、さらに一時間ほどかかってしまう。
池ノ平小屋
雨にも濡れ、けっこう疲れたので、今夜は少し贅沢して小屋で素泊まりでもいいかなと思ったが、既に小屋は満杯。
素泊まり料金も6,000円というので、やっぱりおとなしくテント(一張り600円)にする。
「今日はどちらから?」と受付で聞かれたので「源次郎から。」と言うと、「えっ!一人で?それはハードだねぇ!」とお褒めの言葉をいただく。(まぁ「ダイ・ハード」好きですから・・・?)
その夜はけっこう雨が降り、また夜半になってから随分冷え込んだ。
小屋の人は「明日は大丈夫!晴れるよ。」と言うが、果たして・・・?
写真集[剱岳・源次郎尾根~北方稜線]