KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

南ア・易老沢

2018年08月05日 | 沢登り
日程:2018年8月3日(金)-5日(日) 前夜発二泊三日
行程:遠山川易老沢左俣遡行-光岳-右俣下降
同行:ヒロイさん(我が社の山岳部)
参考:その空の下で(by タケちゃん)
       「関東周辺の沢」白山書房・刊
 
 さて今回は南ア南部、易老沢から光岳へ。
 そもそもは光岳へ行ってみたいという相方の願いから発したプランだが、考えてみると自分も光岳は大学一年時の山岳部夏合宿以来だから、実に数十年振り。
 易老沢という名もかなり前から沢のガイドブックで見かけていて、少し気になる存在だった。
  
 前夜、仕事を終え、小田原を20時半に出発。新東名を浜松まで走り、その後、運転を代わって奥三河の曲がりくねった国道を行く。・・・赤石沢の時も感じたが、南ア南部はやはり遠い。
 「遠山郷・道の駅」に着いたのは日付が替わって午前1時頃。そそくさとテントを張り、就寝。
 
一日目
 天候:のち
 行程:遠山郷・道の駅6:40-芝沢ゲート7:55-易老渡9:00-取水堰堤9:53-右俣大ガレ(引き返し)11:00-二俣11:53-30m大滝15:15-1,600m付近右岸テン場17:30
 
 朝食を済ませ、まずは遠山川右岸の細い林道へ入っていく。
 この林道、右の谷側は所々ガードレールが無く、深夜に眠気を我慢して走るのはたいへん危険。昨夜は手前の「道の駅」泊まりとして正解だった。
 しかし、こんな山奥の土地にもポツポツと民家があり、人々が住んでいるのには驚く。
 時の流れが止まってしまったような村。まさに「遠山郷」だ。
 
 15kmほど走ると登山用駐車場の看板あり。その先に黒い門扉があるが、開いていたため、強気のヒロイさんはそのまま突破。
 (小心者の私は、もし後で門扉が閉められたらどうしようと内心ヒヤヒヤ。)
 しかし、そのままダートを少し走ると左側が広く開けた場所に出て、そこが芝沢ゲートだった。
 平日だというのに既に30台以上。中にはおよそ山とは無縁そうな黒塗りのクラウンも。
 以前はここから5kmほど先の易老渡まで車で入れたのだが、ここ数年(今後も?)車はここまでだ。
 
 沢支度をして、脇からゲートを越え小一時間ほど林道を歩く。
 易老渡に着。
 橋を渡って、直進は易老岳への登山道。我々は標識に沿って右側の踏跡に沿って進む。
 ここにはアプローチ短縮のため自転車も数台デポしてあった。

 
芝沢ゲートの駐車スペース(左)と、登山口の易老渡(右)
 
 FIXロープのあるガレをトラバースし、沢が近づいたところで取水堰堤を待たずして入渓。
 けっこうな水量である。
 自分は見かけなかったが、先行する相方は早くも魚影を確認。
 今回、二人とも釣りの準備はしてきたが、ネットの記録ではあまり釣れたという話は聞かない。果たして釣れるんだろうか。
 
 やがて取水堰堤。
 向かって左端の階段状が魚道となっているが、今日は水量少なく、とてもこの階段を岩魚が遡っていくとは思えない。
 沢はその上で二俣となり、我々は左俣へ進む。・・・はずだったのだが、目の前の小滝に夢中になって二俣にまったく気づかず。
 しばらくして左岸に大きなガレが現れ、そこでトポと照合し、ようやく誤って右俣に入ってしまったことに気付く。
 急いで二俣まで引き返す。

 
取水堰堤。左端に階段状の「魚道」がある。
 
 そして二俣。タケちゃんのレポにあるように、ここは二俣というより左俣が枝沢のように入ってくるので見落としやすい。
 すぐ遡っていくと、顕著な魚留の滝があるので、ここで再確認。
 進んでいくと多段18m滝。
 その後、ゴルジュとなる。

 
 
 相方はせっかくの沢だからと、積極的に流れの中心を選んで進もうとするが、さすがにゴルジュは水量多くて無理。
 40m大滝で最初の巻き(左岸)となるが、他の記録にあるようにグズグズの急斜面でけっこう悪い。
 一応、ロープを出して自分がリードするが、ちょっと良くないルートを選んでしまったかもしれない。
 被り気味の土壁でボロボロと崩れるホールドにヒヤヒヤしながら上に抜け、立木で支点を取り肩絡みでフォローを迎えるが、そこでいきなりドカンと強烈な引きが来る。
 自分の足場も悪く、引きずられるままこちらもひっくり返ってしまった。・・・落ちた?
 
 コールをかけ、無事を確認。その後、何とか登ってきてくれたが、聞くとアンダーで持っていた岩が土からスッポ抜け、そのまま二回転して止まったとのこと。約5mの滑落。
 彼女は慎重だし、登る技術も十分なのでまさか落ちるとは思わなかったが、こっちも油断してしまった。
 ほんの数秒の出来事だが、本人は転がりながら「もし上でセルフとってなかったら、このまま・・・。」と意外に冷静に考えていたらしい。
 とにかく大した怪我が無くて良かった。そこからはお互い一段と気を引き締めて進む。


 
40m大滝(左)は左岸巻き。30m幅広滝(右)はたけしレポに倣って右岸巻き。
 
 その先、30m大滝は左の枝沢を少し上がってから右岸巻き。
 微かに踏跡らしきものがあり、それを頼りに高巻いていくが、けっこう悪い。本当にこれであっているのか不安になる。
 それでもトポどおり再び沢に戻ることができた。

 
 
 しばらく平凡な小滝群が続き、途中右岸に小さなテン場を発見するが、まだ時間も早く、先の行程も長いのでそのまま通過。
 やがて上部のゴルジュ帯に入る。
 出だしの三段15mは越えるが、その後の40m滝は人を寄せ付けず右岸巻き。
 そろそろ夕暮れが迫ってきてテン場を決めたいが、ゴルジュに入ってしまったため、なかなか好適地が見つからない。
 左から入ってくる枝沢の脇にどうにかミニタープを張って、一日目の行程を終了。
 
 
 
 焚火を試みるが、周辺の木はどれも湿って火付きが悪い。
 今回の食事は基本的に焚火で炊飯、おかずは現地調達としていたため、急遽、行動食をやりくりするビバークとなってしまった。
 寝床は斜めだし、ヘッデンを点けるとやたら白い蛾がたくさん集まってくる。
 初日からヤレヤレな展開だが、それでも相方は凹むことなく、むしろこの状況を楽しんでいるようなので助かるが・・・。
 
二日目
 天気:/夕方
 行程:左俣1,600mテン場6:30-奥の二俣8:25-2,000m源頭部10:20-稜線-静高平12:00-光岳12:50~13:20-右俣2,000mテン場15:30 
 
 疲れもあって昨夜はぐっすり眠れたが、起きてみればここはまだゴルジュの途中。
 朝一から悪い高巻きが待っているという現実に一気に引き戻される。
 ガス節約のため、朝は相方が行きのコンビニで買った行動食の残りを食べて出発。

 
 ゴルジュはなるべく小さく巻きたいところだが、けっこう悪い。結局、大高巻きを強いられるが、これはこれで微妙に悪い。
 何とも頼りない木の根を掴んで、際どいボルダームーブなど駆使して進む。
 自分はけっしてルーファイが良いほうではないが、それでも進んでいくうちに野生の勘というか、どんなに本流から遠く離れても最後は沢筋に戻れるようになるから不思議だ。

 やがて、標高1,700mほどで顕著な二俣。
 周辺に良いテン場があるらしいが、特に確認しなかった。いずれにしても昨日は無理してもここまでたどり着けなかっただろう。
 この先、ゴルジュはまだ続く。しかも直登できない水量豊富なヤツだ。
 易老沢は名前からしてもっと癒し溪かと思っていたが、やはり南アルプス。なかなか厳しい。
 
 そのうち周りは青いトリカブトが群生し、明るく開けてくるが、それでもしつこいぐらいに小滝が続く。
 やがて正面に「三吉ガレ」と呼ばれるガレが見えると、沢は右に折れる。水流はまだ続く。
 標高2,000mほどでようやく水涸れ。

 
 タケちゃんの記録によれば、ここからすぐ右の小尾根に取付けば藪漕ぎ無しで稜線に到達するとのこと。
 何となく踏跡があるが、登り付いた所もイマイチ判然とせず。
 やっぱり南ア南部だと、登山道もこんな心細い感じなのかなぁとしばらく右往左往する。
 よく解らないまま一旦、易老岳へ戻る形で進路をとったら、一段低くなった南側に正規の登山道を発見。
 ずっと道無き道を進んできたので、こうした立派な道のありがたさを思い知る。
 
 光岳方面へ進んでいくと、ようやく登山者の姿もチラホラ。
 昨今のトレランやウルトラライトの風潮を受けてか、みんな思いのほか軽装だ。
 自分が今歩いているのは、かつて数十年前に50kg近い(合宿後半だから35kgぐらいだったかも)キスリングを背負ってひたすら苦行のように歩いた道。
 はっきりと覚えているわけではないが、この道はあの頃のままずっと変わっていないような気がする。

 
 途中の静高平は別天地。
 脇を流れる清水で喉を潤し、木道を進むと立派な光岳小屋に到着。さらに光岳へと進む。
 予報ではこの後、雨。実際、周囲はかなりガスってきた。
 私は少々シャリバテ気味で、沢を詰め稜線に上がってからは先を行く相方のペースについていくのがやっとだった。
 よほど天気を言い訳に「今日は小屋に素泊まり、明日は予定を変更して登山道から下りては?」と悪魔の囁きをしそうになったが、それとなく相方に「このまま予定通り?」と聞くと、「そうしましょう。」と力強い返事。・・・了解です。
 
 そして光岳登頂。
 学生の時以来、まさかもう一度ここへ来るとは思わなかったので、それなりに感慨深い。
 だが、これまでの行程、さらにこれから先の右俣下降を思うと、まだまだそんな気分にも浸れないのが事実。
 しばらく休んだ後、光石(テカリイシ)へ。ここは初めて。
 ヒカリゴケの付いた岩でもあるのかと思ったら、緑濃い光岳周辺でここだけ白い岩が堆積しているちょっと不思議な場所だった。
 
 
自分にとってはお久し振りの光岳(左)と今回お初の光石(右)

 一旦分岐まで戻り、西側の加々森山方面へ向かい、途中から右手の踏跡を辿り右俣源頭部のガレに入る。
 
 ガレはボロボロだが、慎重に行けばそれほど大きな落石を起こすことはなく、ロープも不要。
 けっこう長くガレは続き、ようやく水流が現れる。
 しばらく小滝をクライムダウンでやり過ごし、高度を下げるが、やがてゴルジュに入り高さのある滝に出くわす。
 最初は左岸、そして次は右岸からと懸垂二回で最初のゴルジュを越え、ホッと一息。
 
 タケちゃんの記録では、この辺り(標高2.000m付近)でテン場を捜さないとしばらく先も見つからないとのこと。
 周辺にやや古い焚火の跡が残っているものの、あちこち探してもこれといった場所が見つからない。
 易老沢は土質が脆く、そのため急なゴルジュになっているように思えるので、大雨でも降ればせっかくの平坦地もまたすぐに元の荒地に戻ってしまうのだろう。

 
 
 それでも何とか灌木の陰にタープを張る。昨日に引き続き傾斜地だが、しかたがない。
 本日はまだ時間も早いので、せっせと枯れ枝を集めて焚火開始。
 何とか恰好がついたが、さて飯盒で釜飯を、と思ったところで非情の雨。雷も鳴り出し、まったく何てこったい。
 
 しばしタープに避難し、焚火の成り行きを見守る。
 とりあえず飯はストーブで炊けたし、腹さえ満たせば自分は満足。
 しかし、相方はあくまで焚火に固執。夕立が止むと、ほとんど消えた濡れた焚火を再び根性で復活させてしまった。
 うーん、やるなぁ。いざサバイバルの局面に立ったら、やはり男より女の方が強いということか。

 
 
三日目
 天候:
 行程:テン場6:40-ゴルジュ-取水堰堤13:20-釣りタイム13:30~14:30-易老渡15:00-芝沢ゲート16:00
 
 いよいよ最終日。
 天気がやや心配だったが、今日も良い天気。昨日の夕立以外、三日間良く晴れてくれた。
 朝も焚火で暖をとり、昨夜の釜飯の残りを腹に納めて出発。
 
 すぐにまたゴルジュとなり、右岸を20m懸垂。
 ここはまず嫌らしい高巻きを10mほどトラバースしていくと、途中に支点となる木があり、苔の付いたスリングと環付ビナが残っている。
 しかし、太さはあるものの木自体は枯れてしまってグラついており、ちょっとヤバイ。
 他に太い木も無く、しかたなく直径5cmほどの若木にバックアップを取って懸垂したが、ちょっと怖かった。
 その後の左岸の懸垂にも、ほとんど自然と同化した苔むした残置スリングがあった。
 
 
 
 その後はしばらくはクライムダウン可能な小滝が延々と続くが、とにかく長い。やはり南アルプスだ。
 初日の遡行では主に自分がリードしたが、本日の下降は相方にリードを任せた。
 
 岩魚は居ないが、途中で可愛いサンショウウオを何匹も発見。
 さらに下流の巻道では、あわやマムシを踏みそうになったりする。何とも気が抜けない。
 ようやく左岸の大ガレが見え、その下の二俣は(自分は)気が付かないまま通過してしまう。
 もういい加減終わりにしてほしいと思ったところでようやく取水堰堤にたどり着く。は~、長かった。

 臨戦態勢のマムちゃん。
 
 最後は堰堤下で小一時間ほど二人で釣竿を出すが、淵に尺物が見えるもののまったくアタリがない。
 釣り人はそれなりに入っているようなので、やはり岩魚もスレてしまっているのだろうか。結局、二人とも釣果無し。
 
 易老渡から再び林道を小一時間ほど歩き、車を置いた芝沢ゲートにようやく到着。
 ここで待ってましたとばかりに、単独の登山者に声を掛けられる。
 聖岳から縦走してきて、車も無く途方に暮れているようなので乗せてあげたが、ここから国道まで約20km。
 我々の後にももう一組下山者がいたからいいようなものの、もし誰も来なかったら一体どうするつもりだったんだろう。
 自分もこれまで人さまにさんざんお世話になっているのであまり偉そうなことは言えないが、このおじさん昨日は到着が遅れて山小屋のオヤジに怒られたようだし、ちょいと無計画過ぎるような気がする。
 
 
現行ヒロイ号は今回がラストラン。有笠、瑞牆、伊豆城山、そして新穂高に遠山郷とよく走ってくれました。
 
 結局、今回は稜線以外では誰とも会わず、沢は我々で貸切だった。
 これでもし他にバーティーがいたら、わかりにくい高巻きなど協力し合えただろうが、それだけに今回二人でやり切った感は強く、久々に中身の濃い山行だった。
 相方のヒロイさんもこの三日間で「もののけ姫」のように逞しくなった。まぁあまり「もののけ」になっても困るので、ほどほどに。


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