KU Outdoor Life

アウトドアおやじの日常冒険生活

谷川岳一ノ倉沢 一・二ノ沢中間稜

2019年03月10日 | アルパイン(積雪期)
日時:2019年3月9日(土)~10日(日) 前日発一泊二日
天候:両日とも
同行:ヒロイ(我が社の山岳部)

 さて今回は谷川岳。
 一・二ノ沢中間稜は以前から行ってみたいと思っていてこれまで何回も計画を立てていのだが、その度に天候不順や体調不良、家の都合や仕事などがぶつかり流れてきた。

 今回も直前まで天気が微妙だったが、幸い土曜日だけは晴れ予報。
 そろそろ雪崩による登山禁止期間に入ってしまうので今シーズン最後のチャンスと思って出かける。

 相方と共に年次休暇が余っているので金曜午後発。昔は谷川といえば夜行で行くのが普通だったが、やはり寝不足は辛い。ちなみにこの日の朝、現地は吹雪だったそう。

 夕方に現地入りし、最初はいつもの無料スペースか土合駅前に車を停めようとしたが、前者は雪に埋もれ、後者には「登山者の方は駐車ご遠慮ください。」の掲示があり、おとなしく谷川ロープウェイの立体駐車場にチェックイン。
 いつものように相方のメスティン山メシと安物ワインでささやかに乾杯した後、車中泊で明日に臨む。

一日目
 行程:起床3:30-谷川岳ロープウェイ4:40-一ノ倉沢出合6:00~20-中間稜・枯木のコル9:10-ピナクル群13:45-東尾根合流点15:40-稜線18:30-肩の小屋19:00

 時間通りにアラームで起き、簡単に朝食。
 寝ている間にこの駐車場も次々と車がやってきてかなり埋まっている。気の早いパーティーは既に用意を整え、歩き始めている。

 天気は良さそうだが雪の状態がわからず、またルートが混雑して時間がかかることも考え、ツェルトにシュラフカバー、小型のストーブなど最低限のビバーク用装備を持って上がることにした。

 満天の星空の下、ヘッデンを点けてスタート。
 無人の登山指導センターに立ち寄り、登山届を提出。うちらの部は一応、県山岳連盟所属なので直前の提出で許されるのでありがたい。
 今シーズンはどこの山も雪が少ないようだが、さすがに谷川岳。一ノ倉沢へ続く道は出だしからテンコ盛りの雪の小山で埋まっていた。
 この季節、谷川は何回か来ているが、この雪の量は久し振りだ。

 

 脇にトレースが刻んであるので、ヘッデンを頼りに進んでいくが、何となく西黒尾根に導かれるようで躊躇していると、後から来た二人組中高年パーティーがこっちでいいんだよと教えてくれた。
 で、何とそのうちの年配の方がつい先日、相方がアイスの練習で一緒になったJCCの方。いやはや、山の世界はやっぱり狭い。

 一ノ倉沢までは深い雪のトラバースだったり、道が現れたり。
 出合に着いた時にはヘッデン不要なほど明るくなっており、もう一時間早めの出発でも良かったなと思った。
 出合には既に数パーティー。さらに先のJCCのように幽ノ沢へ向かうパーティーもいくつか。

 ここで改めて装備を身に着けるが、先に到着していた四人組は話し込んでいてちっとも出発しようとしない。
 不思議に思って「あれ、行かないんですか?」と尋ねると「雪の状態が悪く危ないよ。」とのこと。
 向こうから聞かれたので「一・二ノ沢」とこちらの行先を告げると「それなら雪崩は大丈夫だろうけど。先週も来たけど中間稜は誰も入ってないし時間かかるよ。午前中に抜けないと雪が緩んで危ないね。」と忠告じみたことを言われる。

 何となくその言い方が「上から目線」的で(あんたら、本当に大丈夫?)のように聞こえて(相方もそう感じたらしい)、それ以上、会話をすることは避けたが、まぁ見た目、父娘みたいなコンビが一ノ倉沢をバックに「イェーイ!」みたいな写真を撮り合っているようでは無理もないかも。
 慎重なのは人それぞれだが、これだけの晴天、せっかくここまで来てどこも登らないのはいかがなものか。

 
 既に我々の前には大氷柱狙いか烏帽子岩方面へ向かう数人、そして人気の東尾根へ向かうパーティーが数組が進んでいる。
 我々もスタート。少し行くと左手に一ノ沢が分かれる。
 東尾根へ向かうパーティーはけっこういるが、中間稜へは確かに誰も入らずトレース皆無。意を決して末端から取り付く。
 

 
 いきなり膝ぐらいまでのラッセル。この時期の雪は重い。
 しばらく灌木帯の尾根を小まめに交代しながら登る。
 灌木帯を抜けるとちょっとした雪原状の開けた斜面に出る。時に膝上まで潜る新雪を手足でかき分けながら高度を上げる。
 背後の一ノ倉沢では、あちこちから頻繁に雪崩が落ちている。遠くに見る烏帽子の大氷柱が見事だ。

 


 雪原の斜面を登り切ると、再び灌木混じりのリッジ。トレースはウサギのものしかないが、ルートは何となくうっすらと凹角状になっていてわかりやすい。
 ブッシュを掴んだり、Wアックスを打ち込んだりしてリッジを辿っていく。
 トポではこの辺りからロープを出すらしいが、勢いで枯れ木の立つ小ピークまで登り詰める。

 振り返るとけっこうな急角度で、天候悪化などでここから引き返すのもまた大変だろう。下部のラッセルで思いのほか時間がかかってしまったのが少々気になるが、既に退路は断たれた感じだ。行くしかない。


 枯れ木の小ピークから短い懸垂。ここで初めてロープを出す。
 ただ上から見ると怖い感じがしたが、下のコルから振り返るとそれほど急には見えなかった。ここらはまだ序の口。

 続いて灌木の生えた雪のリッジを進む。
 できればルートを満喫してもらうためツルベで登りたかったが、時間が押しているため、相方にことわった上で自分がリードを受け持つ。
 途中、本当に馬乗りになるような不安定な細いリッジも2~3か所あり、なかなかシビレる。
 お互いを信頼して、ロープを延ばしたままコンテで進む。


 この辺りで上空をヘリが旋回し始める。雪崩による事故でもあったのだろうか。
 自分たちの方にも近づいてきたが、ヘタなアクションを起こすと「要救助者」かと勘違いされてしまうので、我関せずといった感じで登り続ける。

 やがてガイドブック「チャレンジ!アルパインクライミング」の裏表紙でも有名なあのトンガリピークに出る。
 で、あの写真のようにそこから真っ直ぐコルに下りるのだろうと上から覗いてみる。マジか!
 ピークは雪に埋もれているため手頃な支点が取れず、ここをクライムダウンかよとビビったが、よく観察したら向かって左側、切れ落ちた斜面をブッシュ伝いに巻けそうだ。
 夏の藪漕ぎでは何とも憎らしいシャクナゲだが、今はシャクナゲ様様である。
 ただコルまで降りてみるとけっしてピークからの下りはビビるような傾斜には見えず、心理的な眼の錯覚なのかもしれない。


 それよりも問題はこの先。
 正直、ここまで来たらもう東尾根との合流点は近いと思っていたが、この先、ハイライトであるピナクル群、そして最後の雪稜が立ちはだかり、見上げる尾根はまだまだ遠い。
 マジか・・・。
 あの映画「猿の惑星」のラストシーンに似た軽い絶望感を抱きながら(笑)、最悪、東尾根第一岩峰でのビバークを覚悟する。
 ピナクル群は左、右、左と細いリッジを縫うように進んでいく。ここもシビレる数歩があり、慎重に進む。
 一応、岩角や残置でランナーを取りながらスタカットで進むが、両側はスッパリ切れ落ち、落ちたくない所だ。
 
 
 
 
 
    
 トンガリピークの手前から今さらといった感じで後続パーティーが追い付いてきた。
 正直、下部のラッセルでかなり消耗していたので、先に行ってもらいたかったが、「いえ、どうぞどうぞ。」と前に出ない。

 ピナクル群を越えると、ようやく最後の雪稜だ。
 ここから再びロープいっぱい延ばしたまま、コンテで登り詰めていく。
 相方も疲れ切っているようで、時折ロープがピンと張るのでそれに合わせてゆっくりと歩を進める。

 他パーティーを当てにするわけじゃないが、ここまであの重い新雪の中をウチら二人でラッセルしてきたんだから、最後ぐらいは少し代わってほしかったが下の後続パーティーはあまり気にしていないよう。ま、いいけどね。
 結局、彼らはテント以外はフル装備を持っていたようで、東尾根合流点手前のクレバスでビバークするようだ。

 最後の雪稜もラッセルで上がり、ようやく東尾根に合流。
 雪庇のある例のリッジが心配だったが、午前中は多少暑かったものの、午後はそれほど気温が上がらなかったため、雪はいい具合に締まっていた。
 何の不安もなくスノーリッジを通過。


 そして東尾根の第一岩峰。
 既に夕暮れが近く、疲れ切っていたのでここはさっさと右側のルンゼから巻いても良かったが、前回の東尾根で岩峰直登していない相方が登っておきたいだろうとリードを任せる。

 しかし、それなりにヨレていることもあり、相方がここで苦戦。
 三回ぐらいああでもない、こうでもないと仕切り直すが、うまく突破できず。
 「選手交代、代打オレ」ということで自分が代わるが、冬場は凍傷癖がついてしまっているためビレイしている間に指先の感覚があまり無く、また岩も決め手となるガバやその後の草付き壁もイヤな感じで凍り付いていて、四年前に一人で登った時に較べて格段に厳しい。
 正直、落ちるかもとアドレナリンが出まくったが、途中ランナーも取れないまま何とか突破。
 

 
 木の枝で支点を取りフォローの相方を肩絡みで迎えるが、登り始めてすぐに足を滑らせたようでいきなりガツンと大きな衝撃。こちらの足場も崩れて思わず下へ引きずられる。
 
 幸い二人とも怪我は無く、結局、右のルンゼから巻いてもらったが、こちらも油断していたことを大いに反省する。
 その後、ロープがスタックしたりして大幅にタイムロス。
 
 最後の雪壁を越える時にはヘッデンが必要な時間になってしまったが、何とか完登。島崎三歩じゃないけど、よくがんばった!


 ヨレヨレになって、暗くなったトマの耳を越える。
 しぶとい相方はそれでもまだこれからでも下山できる余力を残していたが、ビバークの用意はしているし、ここは安全を期して肩の小屋の冬季小屋へ入る。

 いずれもピークハントの単独の方数名が既に入っていたが、快くスペースを空けてくれた。
 ささやかな行動食しかないが、ガスストーブの暖かい火があれば、ここは十分だ。
 小屋の中にツェルトを吊り下げ、シュラフカバーとダウンジャケットで多少寒い思いをしたが、まぁまぁ快適に眠れた。


二日目
 天候:晴れ
 行程:肩の小屋8:20-西黒尾根下山-登山指導センター10:20


 

 翌日曜日は天気は崩れるとの予報だったが、ここ谷川はいい天気。
 のんびりと西黒尾根を下っていく。

 

 中間部からは快適なシリセード。
 昨日はほぼ休みなしの14時間ぐらいの行動になってしまったが、相方はいつものように疲れ知らずで元気だ。
 まぁ、それでも彼女の中で今回は自分で選んだ「トラウマ的ダイナマイト山行の3位ぐらいになったとか。(ちなみに1位は前年夏に敗退した出合からの穂高・滝谷らしい。)

 


 〆はいつものように「湯テルメ谷川」。
 ギリギリってほどではなかったが、そこそこハードな山行の後だけにやはり生きてて良かったという実感が湧いてくる。
 
 今シーズンは雪解けが早く、一ノ倉沢は来週から登山禁止となる。
 何とか間に合い、また一つ課題を片づけられてなかなか実りある山行だった。


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2 コメント

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お久しぶりです (sak(さかぼう))
2019-03-23 23:27:46
現場監督さん

お久しぶりです。
オ-ルラッセルは価値がありますね。
私も最近はパートナ-の育成がテーマになりつつあります。

ちなみにうちのパ-トナ-は現場監督を崇めています。
そのうちコラボできるといいですね。^^

今後ともよろしくお願いします。
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どーもです。 ( 現場監督)
2019-03-26 12:36:29
さかぼうさん、パートナーの方には過大なるヨイショをいただき、恐縮です。w
コラボ…まぁそのうちどこかの山で会いそうな気がします。その時はよろしく。(^-^)/
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