天候:
行程:太郎坊洞門0:00-御殿場口新五合目(旧二合目)-八合目-剣ヶ峰10:25~55-太郎坊洞門16:30
単独
もう何度目のトライになるかわからない冬の富士山。
昨年は1月に来たが、地吹雪により七合目で敗退。
これまで2002年1月に一回だけ剣ヶ峰まで登ることができたが、やはり条件が整わないと厳しい。
はたして今回は登れるかどうか。
金曜の夕方、自宅で少し仮眠をとってから出発、23時頃に御殿場口の太郎坊洞門に到着する。
駐車スペースには既に二台ほど。まだ動き出しておらず、仮眠中のようだ。
いつものようにスタートは午前0時とする。
冬だと御殿場口のコースは並のペースで登り約10時間、下り6時間はかかる。
出発まで車の中で読みかけの「登頂 竹内洋岳」(塩野米松・著)を読む。
歳と共に山や岩に対してビビッてしまっているので、そういう時は山岳ものでも漂流ものでも凄いことをやっている人の本を読む。
そうすると、自分がこれからやろうとしていることが何ともちっぽけに思えて度胸が据わる(ような気がする)。
で、いよいよスタート。
トンネルの向こうにバイクで来た若い兄ちゃんがいる。やはりこれから登るようだ。
「後でお会いしましょう。」と言って先に行く。
まずは新五合目(旧二合目)まで。
雪の少ないシーズンだと冬でも舗装路がむき出しになっているのだが、今回は一昨日に降ったばかりなので、全面深い雪。
新五合目の鳥居からいよいよ登山道に入っていくが、この時点でヒザまでズボッと潜るラッセルとなる。
今回、天気予報を見て冬型が緩み、風が穏やかになるのを計算に入れてきた。もちろん雪が多いことも予想していたが、ここまで潜るのは計算外だった。
ワカンを付け、だましだまし進む。
しばらく行くと小屋のような所に出て、近道で追い付いてきた先ほどのバイクマンと再会。
彼はほぼ毎月のように富士山に来ているようで、ルートにもやたら詳しい。
今回は新調したスノーシューを試しに来たようだったが、それでも「ここでこんなに深いなら今回は頂上まで行けないかも。」と言っていた。
自分もこのペースでは時間切れ敗退は目に見えているので、適当な引き際を考えていた。
しかし、まだ登り始めたばかり。行けるところまで行ってみようと二人して登り続ける。
「どうぞ、自分のトレース使ってください。」若いバイクマンが先行する。ありがたい。
もちろん途中でラッセル交替するつもりだが、ついていくのがやっとでとてもこちらが前に出ることができない。
歳のせいもあるが、やはりこういった状況でのスノーシューは強い。ワカンだと彼の踏み跡をたどっても少なからず潜ってしまい、けっこうロスがある。
うーん、欲しいぞスノーシュー。(もちろんヤフオクで)
西の空には満月が出ておりヘッデン無しでも歩ける。風も無静かだ。
機械的に足を動かし、点々と続く杭を目印に広大な斜面を黙々と登る。
途中で行動食をとり、斜面もようやく固くなってきたのでアイゼンに履き替える。
五合目に無人の小屋があるはずだが、暗いからなのか雪の中に埋もれているのかよくわからない。
ここからバイクマンは忠実に登山ルートをたどるべく右手の方へ、私は面倒なので宝永山の右裾をかすめるように直登を選ぶ。
ほとんど徹夜の弾丸登山なので、途中からやたら眠くなってくる。足元がフワフワしてまったく力が入らない。
やがて日の出。
背後の空が横一直線にオレンジ色に染まり、その下に駿河湾や山中湖がうっすらと姿を現す。
眠さもあってペースダウンし、バイクマンにはだいぶ離されてしまった。
でも陽の光を浴びると体内時計がリセットされるようで、眠気も次第に治まり、再びペースを取り戻してきた。
八合目辺りでそれまで先行していたバイクマンのスピードがガクンと落ちる。
高度の影響が出たのか、それともここに至るまでペースが早過ぎたのか。
トレースのお礼を言って、自分が前に出る。
冬の御殿場口コースの最後の登りは、岩尾根の「長田尾根」と浅い谷状をジグザグに登る「大弛(おおだるみ?)」のどちらか。
前者はかつての測候所員のためのルートで、前は強風の時にしがみつけるよう鉄柵があったが、今は撤去されてしまっている。
後者は夏の通常ルートで尾根より風を避けられるメリットがあるが、ガチガチのアイスバーンとなっていることが多い。
少し迷ったが、長田尾根は雪が少なく、飛ばされたらピッケル、アイゼンでどれだけ止められるかわからなかったので、谷沿いの大弛を行く。
しかし、こちらの大弛もいよいよ冬富士の本領発揮。
所々、恐怖のアイスバーンが現れる。アイゼンがまるで効かない!
子猫の爪で引っ掛けるようにしてイヤラしい所をいくつか通過するが、このまま突っ込んでしまって大丈夫なのか???
もし、帰りに風が強くなったら・・・と思うと気持ちが揺らぐ。
・・・しかし、ここまで来たら行くしかない!
少し遅れてバイクマンも付いてきている。その向うには雲海が広がり、素晴らしい高度感だ。
やはり冬富士は他の国内の山では味わえない快感がある。
そして、やっとのことで御殿場口の頂上。
鳥居をくぐり、最高峰の剣ヶ峰もロックオン。迷うことなく進む。
剣ヶ峰の最後の登りはかなりの積雪で、立派なスノーリッジとなっていた。
ラストは前半トレースを刻んでくれたバイクマンに先に頂上を譲ろうと思ってしばらく待つが、かなりペースが落ちてしんどそうなので、悪いが先に立たせてもらう。
そして・・・
冬富士、自己二回目の成功。
しばらくしてバイクマンも到着。
吉田口の方からは誰も登ってきておらず、頂上には二人きり。交互に写真を撮り合う。(バイクマンは教師のようで、卒業する教え子たちに向けて厳冬期富士山頂での自撮り動画を撮影していた。)
頂上まで来れたという安堵感はあるものの、厳冬期に登れたという感激は不思議と無かった。
昨年だけでも雪の残る時期に何回か登っていて、この噴火口の景色が目に焼き付いているからだろう。
バイクマンは一通り写真を撮り終わるとサッサと下山開始。私は都合30分ほど頂上に残った。
その後、後から二人ほど登ってきた。夜中に太郎坊の洞門の所に2台停まっていたので、その方たちだろう。
挨拶を交わし、シャッターを押して差し上げた。
幸い、この日は厳冬期にしては奇跡的な好天。まるで凪のように風が優しい。
天気予報で十分読みを働かせてきたわけだが、やはりここは富士山の神様が微笑んでくれたということにしておこう。
例のアイスバーンも無事に通過する。
もし、ここでふいに突風に吹かれたらフィギュアの羽生くん並の四回転をし(でも着地できず)、そのまま白い斜面をボロ雑巾のように滑っていくだろう。さすがに慎重になって雪面を選んで行く。
そこからひたすら長い下り。
夏だと砂走りで思いのほか早い時間で下れたりするが、冬富士だとそうはいかない。
右手に見える宝永火口、さらにその下に見える二ツ塚は、下っても下ってもなかなか近づかず、ウンザリする。
最後は少し風とガスも出てきて、道に迷いかけたり、登り以上のモナカ雪地獄に苦しめられたりする。
さすが冬富士。そう簡単には許してくれない。
休憩込みだが、日帰り16時間半の行動はさすがにキツかった。
[メモ]
冬富士はとにかく天気(風)を事前に読むことが大事。
今は気象衛星の精度の高さとインターネットのおかげで、以前より情報をかなり容易に掴むことができる。
私が参考にしているのはこちら。山ごとに週間予報、標高ごとの風予測が出ている。
「山の天気」 http://www.tenki.jp/mountain/
「てんきとくらす」 http://tenkura.n-kishou.co.jp/tk/kanko/ka_type.html?type=15
富士山の場合、冬だと標高4,000m超の風予測は大抵風速20m/s以上(台風の定義が17m/s)が多いが、ごくまれに10m/s近くまで凪ぐことがある。
それが土・日の休日にピッタリ合うタイミングはなかなか無いが、少なくとも4,000m超の風予測が15m/sを切ったら自分ならGo!
「時は来た!」(by 橋本真也。蝶野、失笑!)ということになる。
もちろん装備、体調、基本的な技術は万全に。後は自己責任でお願いしますね。
おおU+203C厳冬期の単独ですか!!素晴らしいとしかいいようがないです。
2回目と前回どちらが難しくお感じ、どちらが達成感がありましたか?
とてもパワーを頂きましたので、それでは僕も、、と言いたいところですが、今の僕のレベルと装備では確実に死んでしまうので単独厳冬期はボツで、まずは登頂者が比較的多い3月下旬や12月上旬のプレ冬期単独で挑戦してみたいです。
モチベーションがとても上がりました。ありがとうございました。
二月の富士山は自分の中ではノルマの一つだったので、今回無事登れて良かったです。
達成感としてはやはり前回1月に登った時の方が初めてですし上ですが、コンディションとしては2月の方が雪は多いし、上部のアイスもカリッカリに仕上がっていて厳しいかも。
でも12月も風が強いだろうし、3月は雪崩が起こる可能性もあるし、雪のある時期はそれぞれ違うリスクがあると思います。
それよりも今回改めて思ったのは、ぴょん太郎さんもやった海抜0から富士山!
こちらの方が全然シビアですよ。私もいつかそのうちと思ってますが、なかなかその気になれません。