人々が、私や、私の傷心、私の孤独
とは無縁の足取りで、通り過ぎてい
く。
一人残らず、道行く人たちは、これ
から愛する者の腕の中へ帰っていく
か、あるいはその温かい腕の中から
出てきたばかりのように、見える。
他の季節ならば、歩道までテーブル
や椅子がはみだし、パリジャンや
旅行者で一杯のこのカフェも、
今はガラスパネルに取り囲まれ、
内側の水蒸気のせいでガラスが汗
をかいたように濡れている。店内
はガランとしている。
私は今、パリにいる。昨日は東京
にいた。おとといはまだ、自分が
パリへ飛び出していくだろうなん
て、知らなかった。おとといはま
だ、私は幸福だった。
パリは灰色で、建物もくすんだ灰
色だった。マロニエの樹は、裸で
寒そうに風に震えていた。
“別れというものは、そのように
不意にやってくる。交通事故のよ
うに、だしぬけに襲ってくる“