『竜の学校は山の上』九井諒子(イースト・プレス)
「奥様はケンタウロスで、
同級生は天使だったら?」
書店で表紙の若奥様にひとめぼれ。
超期待の新人。
この初作品集には、全9作の短編が収録されている。
『帰郷』
魔王三部作(と、作者がいっているわけではないけれど)の第一話。
魔王を倒した勇者が、生まれ故郷の村に帰郷する。
「魔王」が死ぬと、人間同士の争いが始まる。
『魔王』
雪の夜、一夜の宿を求めてきた吟遊詩人が、家の人々に夜伽話を聞かせる。
魔女の呪いにより、魔王に変えられた傲慢な王と、敵国の王女の、美女と野獣物語。
『魔王城問題』
魔王が死んだ後の魔王城は、どうなったか。
侵入者を拒絶するこの城を、人の住める場所にするために、王は魔王を倒した勇者を呼びもどす。
しかし勇者は、失意のうちにアルコールに沈んでおり、王女も病に犯されていってしまう……。
『支配』
はるかに昔、その日暮らしの人類を見かねて、異星人が「生き物製造器」をプレゼントしていった。
魔王ものの別バージョン。
『代紺山の嫁探し』
洋物からうってかわって、日本むかしばなし風。
働けど働けど豊かにならない貧しい山村が、神様を迎えようとする。
おんな神を迎え入れる生贄として、身寄りのない権平に白羽の矢が立つのだが……。
『現代神話』
前半のファンタジー作品からうってかわり、舞台は現代日本に、……しかしIFの世界である。
もし現代日本に、猿人(ホモサピエンス)と、馬人(ケンタウロス)が共存していたら?
両人種間の対立から国会に「馬人労働規制法案」が提出される。
「奥様はケンタウロス」編と、「彼女はホモサピエンス」編(いずれも私の勝手なネーミング)の二本立て。
地味なグレイのスーツ、髪を無造作に後ろに結び、くたびれきって、目の下に隈をつくったミキさんに萌える。
『進学天使』
天使の翼が生えた中学生の女の子。
みんなと同じ高校に進みたかったのに、アメリカの翼人養成施設から留学の話が出ている。切ない初恋物語。
鬼コーチ、ライバル美少女、軟派なラテン系、病弱な貴公子が出てくるらしい続編も希望。
『竜の学校は山の上』
表題作。日本唯一の「竜学部」のある、地方国立大学のお話。
竜学部のキャンパス風景が、『動物のお医者さん』を彷彿とさせる。
トカゲ型、鳥型、ドラゴン型、さまざまな竜が出てくるのが楽しい。
「世の中にはな--ふたつのものしかないっ
役に立つものと これから役に立つかもしれないもの
だっ」
という、最後のカノハシ部長のことばがすがすがしい。この作品は連載したら愉しそう。
『くず』
友人たちが就活で必死だというのに、だらだら全くやる気がない主人公。
そんな彼に、1か月、民家で何をして過ごしてもいいというアルバイトが舞い込む。
あとがきマンガの『金食い虫くん』が、おかしくて何だかかわいい。
この作品について、次回触れてみたい。