私は先ず20年来の友人で私の知り合いの中では数少ない常識人であるTに
昨夜の出来事をわざと少し茶化した文面にしてメールを送りました。
そして同じ内容のものを今度は道場の指導員であるT本にも送りました。
後は、メールが帰ってくるのを待つだけです。
私はもう一度布団に潜り込み、静かに目を閉じこれからの展開について予想するのでした。
しかし本当に迷惑な女だ、こんなバカお・・・、
あっ、そうだバカと言えばY岡に返事をするのを忘れていました。
この冬一番の冷え込む朝、布団から出るのにも一代決心が要る強烈に寒い朝です。
“ホントに世話の焼ける、ブツブツブツ”
と私はぼやきながらもう一度携帯電話の元に行き、
適当な気のないメールを送っといてやりました。
その後、いつものように10時前に店に着くと、
昨日から浮かんでいたある‘考え’を実行する為にPCの前に座りました。
先ずメールを受信し、
続いて道場のBBSとブログのコメント欄の書き込みを確認すると言う
毎朝行なう単純な作業を慣れた流れるような手つきで完了すると、
私は深く深呼吸をし、
目の前の画面に向いまるで獲物を狙う時の猛禽類のような鋭い目つきで、
一気にある‘考え’の実行にかかりました。
その日は、割りとお客さんの数も多く、
手の空いた僅かな時間を利用しながらも着実にある‘考え’を実行していきました。
しかし、今までそのような経験がない私は、
思うように運ばない作業に多少苛立ちながら、
気が付くと昼休みの時間になっていました。
私は妻が愛情を込めて作ってくれた弁当に感謝し、
一口一口味わいながら食べていると、
“リリリリリン”
メールの着信音が鳴り響きました。
私は今朝送ったメールの返事がやっと来たな、
これで私の漠然としたある‘考え’をより強い決意で実行に移せるなと、
手元に置いてある携帯電話に目を向け、送信者の名前を確認するのでした。
まさか、もう送られて来ないだろうと予想だにしていなかった名前が
そこに浮かび上がるとは思いもせずに・・・。
【Y岡】
“お前かい”
私は、どこかで私の様子を覗いているのではないかと思うほど、
ここまでくればタイミングが悪いと言うのではなく、
逆に‘ジャストタイミング’と叫びたくなるようなY岡のメールにあきれる事を通り越して
‘もしかして間の悪い天才?’
と尊敬の意を込めながら内容を確認するのでした。
その内容と言うのは、
「近鉄MOMOの××メーカー(格闘技ショップの名前です)昨年の11月に閉めていますね」
“いきなり何のこっちゃい?”
と思い、その事を告げるメールを返信すると
「キックミットMOMOで買えと言いましたやん」
と怒りながらメールを返して来るのでした。
私は全く怒られる理由が理解できず、
‘何か言ったか?’
とここ数日の出来事を思い返してみました。
ああ、そうだ、何かキックミットを買いたいと言っていたので、
数社メーカーを教えた事があったなと。
その時、値段で考えるなら××メーカーも良いのではないかと教えたな、
と言うやり取りを思い出しました。
しかし、私はその時××メーカーとは確かに言いましたが、
MOMOに行って買えとは一言も言っていません。
昨年の11月にMOMO店が閉店したことを知っていたからです。
その事は道場の練習中に何度も練習生に伝えていたはずです。
なのに、私の言った事などすっかり忘れ、
××メーカー=MOMOと勝手に脳内変換したY岡は、
とっくに閉店しているMOMO店に買いに行ったが閉まっていた事に対して文句を言ってやろうと、
私にメールしてきたのでした。
私は冷静に、Y岡の勝手な思い違いだと言う事を
Y岡にも理解できるようなるべく漢字を用いずひらがなを中心にわかりやすい文面で返信してやると
「そ~でしたっけ」
と今だ私に非があるような納得していないような返事を返してくるのでした。
“これ以上は時間の無駄だな”
と思い、再びPCに向かおうとした時
“リリリリリン”
またしても着信音が・・・、
まだ何か文句を言い足りないのかと、
置いたばかりの携帯に目をやるとそこに浮かび上がった文字は
【由美】
あの女の名前です。
私は、これからどのような展開になるのか、
それは今私が実行している事がどのような方向に進んでいくのかを左右する事でもありますので、
“ふふん、面白い、何が送られてきたかな?”
と昨夜のように心を乱される事もなく冷静に又楽しみながらメールを開いてみるのでした。
そこには
「お兄さんの身体の写メも見せてもらえますか?」
と、‘まだ戦いは終わっていないぞ’と言う強い意志を伝える文章と共に、
この世のものとは思えない美とはあまりにもかけ離れたグロテスクな写真を添付してきたのです。
この時間は昨日の電話では仕事中だと言っていたはず、
それが本当なら仕事中にこんな写真は撮れるはずがありません。
“やはり昨夜私に話した事はすべて嘘だったのか”
と思いながらも、写真のある不自然さを決して見逃さないのでした。
私は取りあえず時間稼ぎをしなければと思い
“今仕事中なんで、後で送るね”
と返信しました。これで夜まで時間が稼げるはずです。
その間にある‘考え’を何とか実行せねばと思い、
急いで作業に取り掛かるのでした。
15時を少し過ぎた頃には、ある‘考え’を何とか形にする事ができ、
後は細かい部分を手直しするだけという所までやっとの思いでたどり着きました。
このような作業は初めてです。本当に疲れました。
その間に朝メールを送った友人のTと指導員のT本からメールが届いていました。
最初に届いたのは友人のT。
アホな事に関わるなと言う本当に私の事を心配してくれている内容のメールでした。
この友人とはこれからも付き合っていけそうです。
本当にありがたいと思いました。
しかし、私の期待していたものは、それとは違います。
次にT本からメールが届きました。
とにかく今日道場に行きますと最後に書かれていました。
本来は指導に来る日では無いにもかかわらず、
道場に顔を出すと返事してきたT本に、
“こいつは私の意図する事を気付いているな”と感じました。
16時過ぎに細かい手直しも完了させた私は、
ある‘考え’をいよいよ実行する事にしました。
緊張から震える手で実行ボタンを押した私は、
“反応が楽しみだ”
とつぶやきながら慣れない作業で疲れきった体を癒すため、
春日井の黒アメを口に運ぶのでした。
T本がやって来たのは19:30過ぎ、
やはり事の重大性を知っての事でしょうか、
普段よりも早く道場に来たT本は、早速本題についてたずねてきたのです。
私は昨夜から今日の出来事を詳細に伝えました。
それを聞いていたT本は私の予想通りの返答をその都度するのでした。
私は、余りにも予想通りに事が進むあまり心が踊り、
T本が言葉を発する度に
“そうだ”“いいぞ”“そうそう”
と心の中で叫び続けるのでした。
そして、最後に私が一番聞きたかった言葉、
「こうなったらとことん付き合ってやって、ブログのネタにでもして晒してやらなあきませんね」
“きた”
私が待っていた言葉です。
しかも添付されていた写真の不自然さにも瞬時に気付いていたのです。
「写真に両手が写っていると言うことは、誰かに写真を撮ってもらってるんですね。
バックに男がいてやらせてるんちゃいますか?」
私も同じことを考えていたのです。
私はT本に実はすでにブログで晒してやった事を話しました。
そして何故このような形で晒してやる事になったのかと言う理由も。
私はこの戦いの3日前、元道場生で小説家志望のS川君とメールでこんなやり取りをしていたのです。
私「いつになったら小説を発表するんや?
今はネット小説やケータイ小説など簡単に発表出きる環境があるのだから、
先ずはどんな形でも良いから作品を発表したらどうや?」
S川「まだ私には時期が早すぎです。もう少し力をつけてからと考えています」
私「そうか、その時期が来るのを楽しみにしているよ」
S川「わかりました。ところで先生(私)も小説を書いてみたらどうです?」
私「俺が?無理無理」
S川「そんな事言わず、以外と面白いモンですよ」
私「そうか?じゃあ。書いてみようかな?」
その後も真剣にアドバイスしてくれるS川君に対して、いい加減な態度は取れないと思い、
出きるところまでやってみようとしたのですが、
全くの素人の私には何から初めて良いのかさえわからす、
「小説新潮」と言う今まで買った事が無いような本まで買ってきて参考にしようとしたのですが、
やはり無理なものは無理で、一向にペンが進まず悩んでいたのです。
その時です。この女から電話があったのは。
私は、
【真夜中にチラシをまいている中年空手家と変態女との電話とメールのやりとり】
と言う通常では考え付かない状況を題材に出来ないかと考えていたのです。
もちろん私が書く物など小説とは言えません。
‘小説モドキ’
‘小説風’
でも構わないのです。
取りあえず書く事によりS川君との約束は果たせると考えたのです。
私はこの事を実行しようと思いました。
しかし、元来恥ずかしがり屋の私は誰かの後押しが無いと中々実行に移せません。
そこで、私の後押しをしてくれるだろうと思われるT本と、
もう一人、第3者の目から見て常識的な意見をもらう事により決して深入りする事が無いようにと、
常識的な意見を言ってくれるだろう友人のTにメールしたのです。
私はどちらからも期待していた通りの満足する意見をもらうことに成功しました。
特にT本に関しては、私の予想を上回る行動力で、
“こいつは使えるヤツだな”
と改めて感心させられるのでした。
T本はよくわかっています。
人が何かを尋ねるとき、それは本当にわからずに困っているのか、
それとも本当は出ている答えに対して後押しをしてもらいたいだけなのか、
と言う事を・・・。
それを見極める為、直接私に会いに来て後者だと確信した彼は、
やや大げさな反応をしながら私の予想通りの答えを言ってみせたのです。
“こいつは将来間違い無く出世するな”
私のような一度に多くの人間を使いこなす事が出来ない、
せいぜい中小企業の管理職が限界なタイプの人間は、
自分より優れた意見を出す部下は自分の身を守る為に蹴落とし、
自分の予想の範囲内で意見を出す部下は可愛がります。
何か提案する時、組織にとってベストな事を発表するのは、
少し頭の良い人なら出来ます。
でも、本当に頭の良い人は、自分の上司が今何を欲し、
それに少し上司の手を借りれば完成するような、
決して上司を失望させず、だからと言って上司に妬まれる事もなく、
それどころか最終的には上司の手を借りる事により、
上司に華を持たせる事が出来るギリギリのラインを見極めることができる人間です。
T本はそれが出来る男のようです。
早速私はT本に先程ブログにアップしたばかりの
“第1章:着信アリ”
を読んでもらうことにしました。
T本はここでも私の意図する事を理解し、
わざと声を出しながら読み出したのです。
「ククッ」
笑っています。
「フッフッ、クッ」
私が笑いを期待した箇所には必ず反応して行きます。
そして、私の一番力を入れた箇所、
ホントここで笑わないともう他に笑うとこが無いですよという箇所が近づいてきました。
私はドキドキしながらその瞬間を待ちます。
後もう少し
後もうちょい
次の行や
「ププッ」
予想通りのT本の反応に
私はT本に見えない様に小さなガッツポーズを作りながら、
読み終えたT本に
“まあまあ、急いて書いたモンやし、
誤字脱字も多いやろうし、文章も滅茶苦茶で全然オモロない文章やけど、
女の事を晒したる事が目的やし、そんなんどうでも良いんやが・・・”
私が最後の言葉を言い終わる前に
「早よ続き読みたいですね」
と私の自尊心をくすぐるような言葉をさりげなく言うのです。
私は10年以上このT本を洗脳し続けてきた成果がやっと現れたなと満足すると共に
女の行動をこれからもブログで晒してやる事に対して理由も無く自信に満ちてきたのです。
私はこの戦いの続きを書くためにも女とのやりとりを継続する必要がありました。
練習が終わる22時からが勝負だと色々策を練っていましたが、
間が悪いもので22時から24時まで深夜の予約が入ってしまったのです。
昨日の事を考えるとお客さんがいる23時頃に女から電話があったら大変な事になります。
私は先手を打って
“今日は仕事で遅くなるので24時過ぎにこちらから電話するね”
とメールしてやりました。
これで余程の悪意がある人間でない限り、仕事中に電話をかけて来る事は無いでしょう。
私の思惑通り24時まで電話がかかってくる事は無く、
お客さんが帰り24時を少し過ぎた頃
“良し、ここまでは計算通り”
と、昨夜とは違い戦う準備をすべて整えてから女の番号へ電話してやるのでした。
呼び出し音が鳴ります。
2回、3回・・・もう少しだ、もう少しで今度は昨夜私が受けた屈辱感を女にも味わわせてやる事が出来る、
・・・5回、6回、プツ、プープープー・・・・・
“切りやがった”
私は何とも言えない虚しから、先ほどアップした「第1章:着信アリ」を
“ここ、ここよ、ここオモロイよな”
と、一人で声を出してツッコミながら笑うしかありませんでした。
外を見ると雨です。
先程までは降っていなかったのに・・・。
どれほど一人ツッコミをしながら笑っていたことでしょうか。
時計を見ると午前2時です。
“この辺が潮時だな”
そう思った私は、この冷たい雨の中、傘がない事に気付きました。
その時
♪だけども問題は今日の雨 傘がない♪
小学生の時に聴いた井上陽水さんが歌う“傘がない”が突然私の頭の中で流れました。
♪行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ♪
♪君の町に行かなくちゃ 雨にぬれ♪
君とは誰なのだろうか?あの女?まさかな・・・。
♪つめたい雨が 今日は心にしみる♪
♪君の事以外は考えられなくなる♪
♪それはいい事だろう?♪
私は大声でこの歌を歌い、降りかかる雨で涙を隠しながらマイチャリンコを全力でこぎ帰るのでした。
つづく
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昨夜の出来事をわざと少し茶化した文面にしてメールを送りました。
そして同じ内容のものを今度は道場の指導員であるT本にも送りました。
後は、メールが帰ってくるのを待つだけです。
私はもう一度布団に潜り込み、静かに目を閉じこれからの展開について予想するのでした。
しかし本当に迷惑な女だ、こんなバカお・・・、
あっ、そうだバカと言えばY岡に返事をするのを忘れていました。
この冬一番の冷え込む朝、布団から出るのにも一代決心が要る強烈に寒い朝です。
“ホントに世話の焼ける、ブツブツブツ”
と私はぼやきながらもう一度携帯電話の元に行き、
適当な気のないメールを送っといてやりました。
その後、いつものように10時前に店に着くと、
昨日から浮かんでいたある‘考え’を実行する為にPCの前に座りました。
先ずメールを受信し、
続いて道場のBBSとブログのコメント欄の書き込みを確認すると言う
毎朝行なう単純な作業を慣れた流れるような手つきで完了すると、
私は深く深呼吸をし、
目の前の画面に向いまるで獲物を狙う時の猛禽類のような鋭い目つきで、
一気にある‘考え’の実行にかかりました。
その日は、割りとお客さんの数も多く、
手の空いた僅かな時間を利用しながらも着実にある‘考え’を実行していきました。
しかし、今までそのような経験がない私は、
思うように運ばない作業に多少苛立ちながら、
気が付くと昼休みの時間になっていました。
私は妻が愛情を込めて作ってくれた弁当に感謝し、
一口一口味わいながら食べていると、
“リリリリリン”
メールの着信音が鳴り響きました。
私は今朝送ったメールの返事がやっと来たな、
これで私の漠然としたある‘考え’をより強い決意で実行に移せるなと、
手元に置いてある携帯電話に目を向け、送信者の名前を確認するのでした。
まさか、もう送られて来ないだろうと予想だにしていなかった名前が
そこに浮かび上がるとは思いもせずに・・・。
【Y岡】
“お前かい”
私は、どこかで私の様子を覗いているのではないかと思うほど、
ここまでくればタイミングが悪いと言うのではなく、
逆に‘ジャストタイミング’と叫びたくなるようなY岡のメールにあきれる事を通り越して
‘もしかして間の悪い天才?’
と尊敬の意を込めながら内容を確認するのでした。
その内容と言うのは、
「近鉄MOMOの××メーカー(格闘技ショップの名前です)昨年の11月に閉めていますね」
“いきなり何のこっちゃい?”
と思い、その事を告げるメールを返信すると
「キックミットMOMOで買えと言いましたやん」
と怒りながらメールを返して来るのでした。
私は全く怒られる理由が理解できず、
‘何か言ったか?’
とここ数日の出来事を思い返してみました。
ああ、そうだ、何かキックミットを買いたいと言っていたので、
数社メーカーを教えた事があったなと。
その時、値段で考えるなら××メーカーも良いのではないかと教えたな、
と言うやり取りを思い出しました。
しかし、私はその時××メーカーとは確かに言いましたが、
MOMOに行って買えとは一言も言っていません。
昨年の11月にMOMO店が閉店したことを知っていたからです。
その事は道場の練習中に何度も練習生に伝えていたはずです。
なのに、私の言った事などすっかり忘れ、
××メーカー=MOMOと勝手に脳内変換したY岡は、
とっくに閉店しているMOMO店に買いに行ったが閉まっていた事に対して文句を言ってやろうと、
私にメールしてきたのでした。
私は冷静に、Y岡の勝手な思い違いだと言う事を
Y岡にも理解できるようなるべく漢字を用いずひらがなを中心にわかりやすい文面で返信してやると
「そ~でしたっけ」
と今だ私に非があるような納得していないような返事を返してくるのでした。
“これ以上は時間の無駄だな”
と思い、再びPCに向かおうとした時
“リリリリリン”
またしても着信音が・・・、
まだ何か文句を言い足りないのかと、
置いたばかりの携帯に目をやるとそこに浮かび上がった文字は
【由美】
あの女の名前です。
私は、これからどのような展開になるのか、
それは今私が実行している事がどのような方向に進んでいくのかを左右する事でもありますので、
“ふふん、面白い、何が送られてきたかな?”
と昨夜のように心を乱される事もなく冷静に又楽しみながらメールを開いてみるのでした。
そこには
「お兄さんの身体の写メも見せてもらえますか?」
と、‘まだ戦いは終わっていないぞ’と言う強い意志を伝える文章と共に、
この世のものとは思えない美とはあまりにもかけ離れたグロテスクな写真を添付してきたのです。
この時間は昨日の電話では仕事中だと言っていたはず、
それが本当なら仕事中にこんな写真は撮れるはずがありません。
“やはり昨夜私に話した事はすべて嘘だったのか”
と思いながらも、写真のある不自然さを決して見逃さないのでした。
私は取りあえず時間稼ぎをしなければと思い
“今仕事中なんで、後で送るね”
と返信しました。これで夜まで時間が稼げるはずです。
その間にある‘考え’を何とか実行せねばと思い、
急いで作業に取り掛かるのでした。
15時を少し過ぎた頃には、ある‘考え’を何とか形にする事ができ、
後は細かい部分を手直しするだけという所までやっとの思いでたどり着きました。
このような作業は初めてです。本当に疲れました。
その間に朝メールを送った友人のTと指導員のT本からメールが届いていました。
最初に届いたのは友人のT。
アホな事に関わるなと言う本当に私の事を心配してくれている内容のメールでした。
この友人とはこれからも付き合っていけそうです。
本当にありがたいと思いました。
しかし、私の期待していたものは、それとは違います。
次にT本からメールが届きました。
とにかく今日道場に行きますと最後に書かれていました。
本来は指導に来る日では無いにもかかわらず、
道場に顔を出すと返事してきたT本に、
“こいつは私の意図する事を気付いているな”と感じました。
16時過ぎに細かい手直しも完了させた私は、
ある‘考え’をいよいよ実行する事にしました。
緊張から震える手で実行ボタンを押した私は、
“反応が楽しみだ”
とつぶやきながら慣れない作業で疲れきった体を癒すため、
春日井の黒アメを口に運ぶのでした。
T本がやって来たのは19:30過ぎ、
やはり事の重大性を知っての事でしょうか、
普段よりも早く道場に来たT本は、早速本題についてたずねてきたのです。
私は昨夜から今日の出来事を詳細に伝えました。
それを聞いていたT本は私の予想通りの返答をその都度するのでした。
私は、余りにも予想通りに事が進むあまり心が踊り、
T本が言葉を発する度に
“そうだ”“いいぞ”“そうそう”
と心の中で叫び続けるのでした。
そして、最後に私が一番聞きたかった言葉、
「こうなったらとことん付き合ってやって、ブログのネタにでもして晒してやらなあきませんね」
“きた”
私が待っていた言葉です。
しかも添付されていた写真の不自然さにも瞬時に気付いていたのです。
「写真に両手が写っていると言うことは、誰かに写真を撮ってもらってるんですね。
バックに男がいてやらせてるんちゃいますか?」
私も同じことを考えていたのです。
私はT本に実はすでにブログで晒してやった事を話しました。
そして何故このような形で晒してやる事になったのかと言う理由も。
私はこの戦いの3日前、元道場生で小説家志望のS川君とメールでこんなやり取りをしていたのです。
私「いつになったら小説を発表するんや?
今はネット小説やケータイ小説など簡単に発表出きる環境があるのだから、
先ずはどんな形でも良いから作品を発表したらどうや?」
S川「まだ私には時期が早すぎです。もう少し力をつけてからと考えています」
私「そうか、その時期が来るのを楽しみにしているよ」
S川「わかりました。ところで先生(私)も小説を書いてみたらどうです?」
私「俺が?無理無理」
S川「そんな事言わず、以外と面白いモンですよ」
私「そうか?じゃあ。書いてみようかな?」
その後も真剣にアドバイスしてくれるS川君に対して、いい加減な態度は取れないと思い、
出きるところまでやってみようとしたのですが、
全くの素人の私には何から初めて良いのかさえわからす、
「小説新潮」と言う今まで買った事が無いような本まで買ってきて参考にしようとしたのですが、
やはり無理なものは無理で、一向にペンが進まず悩んでいたのです。
その時です。この女から電話があったのは。
私は、
【真夜中にチラシをまいている中年空手家と変態女との電話とメールのやりとり】
と言う通常では考え付かない状況を題材に出来ないかと考えていたのです。
もちろん私が書く物など小説とは言えません。
‘小説モドキ’
‘小説風’
でも構わないのです。
取りあえず書く事によりS川君との約束は果たせると考えたのです。
私はこの事を実行しようと思いました。
しかし、元来恥ずかしがり屋の私は誰かの後押しが無いと中々実行に移せません。
そこで、私の後押しをしてくれるだろうと思われるT本と、
もう一人、第3者の目から見て常識的な意見をもらう事により決して深入りする事が無いようにと、
常識的な意見を言ってくれるだろう友人のTにメールしたのです。
私はどちらからも期待していた通りの満足する意見をもらうことに成功しました。
特にT本に関しては、私の予想を上回る行動力で、
“こいつは使えるヤツだな”
と改めて感心させられるのでした。
T本はよくわかっています。
人が何かを尋ねるとき、それは本当にわからずに困っているのか、
それとも本当は出ている答えに対して後押しをしてもらいたいだけなのか、
と言う事を・・・。
それを見極める為、直接私に会いに来て後者だと確信した彼は、
やや大げさな反応をしながら私の予想通りの答えを言ってみせたのです。
“こいつは将来間違い無く出世するな”
私のような一度に多くの人間を使いこなす事が出来ない、
せいぜい中小企業の管理職が限界なタイプの人間は、
自分より優れた意見を出す部下は自分の身を守る為に蹴落とし、
自分の予想の範囲内で意見を出す部下は可愛がります。
何か提案する時、組織にとってベストな事を発表するのは、
少し頭の良い人なら出来ます。
でも、本当に頭の良い人は、自分の上司が今何を欲し、
それに少し上司の手を借りれば完成するような、
決して上司を失望させず、だからと言って上司に妬まれる事もなく、
それどころか最終的には上司の手を借りる事により、
上司に華を持たせる事が出来るギリギリのラインを見極めることができる人間です。
T本はそれが出来る男のようです。
早速私はT本に先程ブログにアップしたばかりの
“第1章:着信アリ”
を読んでもらうことにしました。
T本はここでも私の意図する事を理解し、
わざと声を出しながら読み出したのです。
「ククッ」
笑っています。
「フッフッ、クッ」
私が笑いを期待した箇所には必ず反応して行きます。
そして、私の一番力を入れた箇所、
ホントここで笑わないともう他に笑うとこが無いですよという箇所が近づいてきました。
私はドキドキしながらその瞬間を待ちます。
後もう少し
後もうちょい
次の行や
「ププッ」
予想通りのT本の反応に
私はT本に見えない様に小さなガッツポーズを作りながら、
読み終えたT本に
“まあまあ、急いて書いたモンやし、
誤字脱字も多いやろうし、文章も滅茶苦茶で全然オモロない文章やけど、
女の事を晒したる事が目的やし、そんなんどうでも良いんやが・・・”
私が最後の言葉を言い終わる前に
「早よ続き読みたいですね」
と私の自尊心をくすぐるような言葉をさりげなく言うのです。
私は10年以上このT本を洗脳し続けてきた成果がやっと現れたなと満足すると共に
女の行動をこれからもブログで晒してやる事に対して理由も無く自信に満ちてきたのです。
私はこの戦いの続きを書くためにも女とのやりとりを継続する必要がありました。
練習が終わる22時からが勝負だと色々策を練っていましたが、
間が悪いもので22時から24時まで深夜の予約が入ってしまったのです。
昨日の事を考えるとお客さんがいる23時頃に女から電話があったら大変な事になります。
私は先手を打って
“今日は仕事で遅くなるので24時過ぎにこちらから電話するね”
とメールしてやりました。
これで余程の悪意がある人間でない限り、仕事中に電話をかけて来る事は無いでしょう。
私の思惑通り24時まで電話がかかってくる事は無く、
お客さんが帰り24時を少し過ぎた頃
“良し、ここまでは計算通り”
と、昨夜とは違い戦う準備をすべて整えてから女の番号へ電話してやるのでした。
呼び出し音が鳴ります。
2回、3回・・・もう少しだ、もう少しで今度は昨夜私が受けた屈辱感を女にも味わわせてやる事が出来る、
・・・5回、6回、プツ、プープープー・・・・・
“切りやがった”
私は何とも言えない虚しから、先ほどアップした「第1章:着信アリ」を
“ここ、ここよ、ここオモロイよな”
と、一人で声を出してツッコミながら笑うしかありませんでした。
外を見ると雨です。
先程までは降っていなかったのに・・・。
どれほど一人ツッコミをしながら笑っていたことでしょうか。
時計を見ると午前2時です。
“この辺が潮時だな”
そう思った私は、この冷たい雨の中、傘がない事に気付きました。
その時
♪だけども問題は今日の雨 傘がない♪
小学生の時に聴いた井上陽水さんが歌う“傘がない”が突然私の頭の中で流れました。
♪行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ♪
♪君の町に行かなくちゃ 雨にぬれ♪
君とは誰なのだろうか?あの女?まさかな・・・。
♪つめたい雨が 今日は心にしみる♪
♪君の事以外は考えられなくなる♪
♪それはいい事だろう?♪
私は大声でこの歌を歌い、降りかかる雨で涙を隠しながらマイチャリンコを全力でこぎ帰るのでした。
つづく
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