まだ社会人になりたての頃だったか、友人から、経堂に気になるイタリアンがあるから行ってみようということになった。農大通りをしばらく歩き、ゲームセンターの入っているビルの2Fに上がると「Rezzo」と書かれたかわいいトリコロールの小さな看板が目にはいった。
外観は一枚板のガラス張りで店内の様子がよくわかった。初見のお客をマダムはとてもフレンドリーに迎えてくれた。明るい店内には、前衛的な作家さんの絵が飾られていて、ギャラリーみたいだなと思った。最初のオーダーは、オイル系のアンチョビパスタとトマト系のパスタだったと思う。ほどよいポーションと美しい盛付、季節の旨味、それらがお皿の中にさらりと表現されていた。後から分かったことだが、シェフの山下さんは、伝説の名店「バスタ・パスタ」から独立してこのお店を始めたのだという。なるほどさもありなんである。
その後は足しげく通うようになり、大切な人の記念日やクリスマスなどは、たいていこの店で過ごした。シェフは寡黙な人で厨房から出てくることはあまりなかったが、マダムの接客がすばらしく、いつも気持ちよく食事を楽しめた。セリエAのサッカーチームのユニフォームを着た坊やが時々お店に来ていたが、その時はシェフの子煩悩さが垣間みえて微笑ましかった。
旬な食材を使ったパスタはどれもセンスに溢れていたが、自分が一番気に入っていたのは「アーリオオリオペペロンチーノ」だ。ニンニクとオリーブオイルと唐辛子だけで作るこのパスタは、シンプルだが奥深い。何より今まで本場イタリアでも日本でもコレは!というものに出会ったことがなかった。
Rezzoのペペロンチーノは繊細な赤ん坊のようにツルンとしているのだが、チップ状になったガーリックの香りと食感が絶妙で、塩加減、オイルとニンニクの乳化度、絶妙なアルデンテ!!できたてのアツアツがたまらなく美味しかった。
2001年に結婚したとき、友人を招いたパーティーはRezzoに予約を入れた。たくさんの人たちが来てくれて、とても楽しい時間になったが、自分たちの大好きなお店の料理を食べてもらえるのが、なにより嬉しかった。その日はシェフも厨房からでてきて祝福してくれた。
私の誕生日に妻は、いつものようにお店に予約を入れてくれていたが、私が体調を崩し当日にキャンセルをすることになってしまった。それから数カ月間、新居への引越しなどでバタバタしてすっかりご無沙汰してしまっていた。
久しぶりに伺おうと思い、お店に電話をかけたが、この番号は現在使われておりませんというコールが?!あんなに地元の人に愛されていた店が、なぜ。いやな予感がして、最初にお店に訪れた友人と連絡を取り、シェフが料理の仕込み中に倒れ亡くなったことを知った…
なんともいえない喪失感につつまれていたとき、突然山下シェフには清水さんというお弟子さんがいたことを思い出した。清水さんは、Rezzoで修行した後、2000年に代々木上原に「522」(ゴニーニ)というお店を開かれていた。
妻と522を訪れ、食べたのがこの写真のペペロンチーノ。若干ワイルドな雰囲気は清水シェフ流だが、口の中に広がるのはまさにあのRezzoの味。くるんとしたバターのポーションなども懐かしい!ご夫妻で経営されている522もとてもよいお店です。久しぶりに訪れてみたいと思います。
・Rezzo:世田谷区経堂1-21-21 ‘’rezzo”とはイタリア語で ‘’涼風”の意。
・TRATTORIA 522 (トラットリア・ゴニーニ)東京都渋谷区西原3-20-5 ファーストパティオ 1F 050-5595-9007
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