5月3日にBS12で放送された「憲法草案秘話 22歳の涙が生んだ"男女平等"」( 5月26日再放送)
戦前の封建日本の姿と、それを目の当たりにして、何とか女性を封建制のくびきから解放しようとしたベアテ・シロタの思いが伝わるとてもいい番組でした。第24条だけでなく、日本国憲法に書かれた権利条項が、明治憲法下では天皇の臣民にすぎず権利の概念自体が存在しなかった国民を、人権を持った個人として解放したということがよくわかります。
以下内容
ベアテ・シロタの24条について、ベアテのもともとの条文、当時の封建社会の状況、憲法制定過程、ベアテの思いなどが映像と共に紹介され、日本国憲法が、封建的身分制度からの解放を謳った画期的な内容であることを伝える秀作。
映画『ベアテの贈り物』は、会社の社長や政治家など、男並みに出世した女性たちを描いていて、かなり違和感があった。
それに比べてこの番組は、庶民の女性、底辺で抑圧され虐げられた女性の観点から描いている。ベアテ・シロタの思想もむしろそちらに近いのではないか。
・当時の女性は、全くの無権利。選挙権どころか、財産の処分や重要な決定も、家督の許可なしには出来なかった。
・家事労働を行う奴隷のように扱われていた。
・妻は子どもを産む道具。子どもが産まれなければ実家に帰された。
・同じ家に、妻と妾が一緒に住んでいた。
・妻が夫以外の男に通じると姦通罪となった。男はならなかった。
・戦前は権利、人権という概念がなかった。
・国民は天皇のための臣民だった。
・ベアテは日本で暮らし、女性のひどい状態を見てきた、なんとかしなければとおもった。
・特に未婚の母は、だれからも保護されないので、国が保護しなければならないと書いた。
・もともとの条文には、「親に支配されない」「夫に支配されない」という言葉があった。
・ベアテ案には、「児童には、医療・歯科・眼科の治療を無料で受けられる」などの条文もあった。(ベアテは、男女平等ほかこれら人権条項を自由権ではなく社会権として表現したいと考えていた。)
・GHQ案原案には41の人権条項があった。差別の禁止には人種や国籍など一切の差別の禁止が明記されていた。それはドイツのワイマール憲法、そしてソビエト憲法から学んだ。番組では、この場面がとても大きく取り上げられている。ソ連の活き活きとした映像が流れ、社会主義思想への共鳴が画面から伝わってくる。社会主義でこそ真の社会保障が実現できるという意味合いを示唆している。
・ベアテ案は、ケーディスらによって大幅に削られていくことになるが、そもそも民法に入るような具体的な内容を書いた理由としてベアテは、民法は女性の人権などは全く関心がない男の行政官らによって書かれるだろうからと言っている。
天皇制国家、天皇大権という言葉の意味にとどまらず、戦前の封建制日本で、人民がどのような無権利状態におかれ、特に女性がどういう生活を強いられていたのかが、当時の映像などを交えてよくわかる。
橋下「慰安婦」必要発言も、女は子どもを産む道具、男が戦争にいったら女が支えるのが当然で、「慰安所」も公娼制度の延長、少々手荒なことをしても戦地の兵隊さんのためならやむを得ない・・・という当時の社会状況を容認しむしろ懐かしむ思想から必然的にでてくる発言だと思わされる。
(ただ一点残念なのは、冒頭で、「マッカーサーは昭和天皇と会談し、天皇の平和への思いに打たれ、この人を何とか守ろうと思った」という、どうしようもないナレーションとマッカーサーの映像が流れること。確かにこのよう間違ったイメージが広がっているのも事実。ここは、『昭和天皇・マッカーサー会見』(岩波現代文庫 豊下楢彦著)、『昭和天皇の終戦史』(岩波新書 吉田裕著)、『天皇の玉音放送』(朝日文庫 小森陽一著)などを参考に、きっちりと批判したい。)
(ハンマー)