「相棒」劇場版IV「首都クライシス 人質は50万人!特命係 最後の決断」とテレビドラマ season 15の 13話、14話「声なき者~籠城、突入」を観ました。いずれも今の日本の暗部をえぐり出すとてもいい内容です。
「首都クライシス・・・」は、太平洋戦争末期、日本軍の侵略地であるトラック島に孤児として取り残され、戦後、特別措置法によって戦地死亡宣告を受けた=日本国籍をはく奪された=一人の男の話です。それと7年前に起こったというイギリスの日本領事館での毒殺と少女誘拐事件。一見関連のない二つの事件は「国に見捨てられた」という点において重なります。
選手団の帰国祝賀パレードに湧く「平和な日本」の陰で・・・
世界的なテロリスト、レイブンとなって日本へ入国した男は犯行声明を出します。キーワードとなるのが「…大勢の人が見守る中で日本人の誇りがくだけちるだろう」です。そのとき日本は国際スポーツ大会選手団の帰国祝賀パレード一色という設定で、これは2020年開催の東京オリンピックを連想させます。はたして「日本人の誇りがくだけちる」とは何か。
「国益」のために人質を平気で見殺しにしようとする官邸の会議模様などはもはやフィクションとは思えません。過去の戦争と戦後責任、繁栄の陰で忘れられた人々、震災や原発事故を置き去りにしてオリンピックに走る日本の偽りの「平和」、そしてテロとの戦争の欺瞞などさまざまな問題を思い起こさずにはいられませんでした。
テレビドラマ「相棒--声なき者~籠城、突入」は、犯人像が入れ替わる複雑な展開の中から、身を隠した妻から子どもをDV夫に取り返すことを仕事としている事務所が事件のカギを握ることが明らかになってきます。
犯人は意外にもさらわれた女の子の兄!!
この背後にいるのが「健全な家族を守る会」といういかがわしい団体。彼らの掲げる理念は以下です。「国家の繁栄を支えるのは、個々の健全な家庭である。すなわち、女性は本分を果たすべく、家を継承する男子を為し、これを国家の役に立ちうる人間に育て上げること。家長は常に妻子を教育指導し」・・・「親学」や「日本会議」、そして自民党改憲草案を想起させます。ドラマには「保護者は子の教育について第一義的責任を有する」ということに対して、「子どもは親の所有物ではない」と右京さんがさとす場面もあります。
家庭教育が義務化されるとき、多くの負担と責任は母親に負わせられることになるのはまちがいありません。家庭教育支援法が成立したら何が起こるか、明らかにその一端を告発していると思いました。
「相棒」は、2011年に「相棒 seson9~ボーダーライン」(脚本:櫻井 武晴)で、「貧困ジャーナリズム大賞」を受賞しています。このドラマでは、正社員になれない派遣の男性が、結婚もうまくいかず、派遣切りの末、自殺に追いつめられる姿が描かれています。捜査は当初、傷跡からみて他殺と判断されますが、他殺をよそおった自殺だと解明されていきます。そのときに言った右京さんの言葉が心に残ります。“「社会に殺された」のだと訴えたかったのかもしれない”と。受賞の評価欄には「・・・「水際作戦」と呼ばれる生活保護での拒絶的な窓口対応や困窮者が試食品を食べて空腹をしのぐ極限状態などの描写は見事。丹念な取材を元に再構成した脚本がドキュメンタリー以上にリアリティーを深めた・・・」
若者は誰に殺されたのか?!
(HY)