「戦争法」違憲訴訟 訴状(2016年6月8日提訴)[5]
4 駆け付け警護等が違憲であること
(1) 駆け付け警護等の拡大
新安保法制法は,国連平和維持活動協力法において,国連PKO等において実施できる業務を拡大し(いわゆる安全確保,駆け付け警護),業務に必要な武器使用権限の見直しを行うとともに,国連が統括しない人道復興支援やいわゆる安全確保などの活動の実施等を規定した。
すなわち,まず,国連が統括する平和維持活動について,従前規定されていた参加5原則(①紛争当事者の間で停戦の合意が成立していること,②国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該国連平和維持隊への我が国の参加に同意していること,③当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく,中立的な立場を厳守すること,④上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には,我が国から参加した部隊は撤収することができること,⑤武器使用は要因の生命等の防護のための必要最小限のものを基本とすること)を拡大させ,受け入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合,いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり,自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能となった。そのうえで,国連が統括する平和維持活動以外についても,「国際連携平和安全活動」などとして,上記参加5原則を満たした上で,国連の総会,安全保障理事会又は経済社会理事会が行う決議,国連等の国家機関が行う要請,当該活動が行われる地域の属する国の要請のいずれかが存在する場合には,停戦監視,被災民救援等に加え,いわゆる安全確保業務や駆け付け警護等を行うことが可能となった。
(2) 駆け付け警護等の違憲性
前述したとおり,日本政府は,これまで自衛権発動の3要件を満たすことが必要として,我が国に対する急迫不正の侵害に対する必要最小限度の実力行使のみが,憲法9条との関係で許されると解釈してきた。上記解釈を前提として,国連平和維持活動協力法においても,自衛官の武器使用は,自己又は自己と共に現場に所在する自衛隊員,隊員若しくはその職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者の生命又は身体を防護するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合に,限定されていた。しかしながら,前述したとおり,政府は,平成26年7月1日の閣議決定により,憲法9条の従前の解釈を覆した結果,国連平和維持活動協力法においても,自己の他に,「他人の生命,身体若しくは財産を防護し,又はその業務を妨害する行為を排除するため」やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には,武器使用を肯定した(いわゆる任務遂行型武器使用)。加えて,「その保護しようとする活動関係者の生命又は身体を防護するため」やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合にも,自衛官による武器使用を肯定したのである(いわゆる駆け付け警護のための武器使用)。
これまで憲法9条の上記解釈を前提にしてきた国連平和維持隊に参加した場合の自衛隊員の武器使用の規律であったが,明確に自己保存型及び武器等防護を超える武器使用の権限を認めた点で,憲法9条の解釈を自衛隊員による武器使用は危険性の高いものとして,憲法9条に違反するというべきである。また「他人」や,「その保護しようとする活動関係者」の生命又は身体を防護するためにも武器使用を認めた点で,武器使用の機会が従前よりも大幅に広範になりうるおそれがあるし,駆け付け警護を認めたことからも,武器使用が可能となる場所的範囲も広範になるといわざるを得ない。
(3) 国際連携平和安全活動の違憲性
これまでは国連平和維持隊への自衛隊の参加のみを対象にしていたが,前述したとおり,今般,国連が統括しない活動についても,「国際連携平和安全活動」などとして,自衛隊が安全確保業務や駆け付け警護等を行うことが可能となった。国際連携平和安全活動とは,国連が直接統括しない活動においても,停戦監視,被災民救援などに加え,いわゆる安全確保業務,駆け付け業務などを認めた点で,極めて異質な活動が,自衛隊員によって行われるようになる。
とりわけ,国際連携平和安全活動が認められるための要件の一つである「当該活動が行われる地域の属する国の要請」というのは,国際連合憲章第七条1に規定する国際連合の主要機関のいずれかの指示を受けたものに限るとはされているものの,広範に認定される危険性が高い。また国連が統括せず,一国の要請に基づいて上記活動が行われるということになれば,同国と敵対関係にある他国からすれば,「平和安全活動」などと考えるはずがない。その国からみれば,敵対関係にあるその国と我が国とが協力し,武器使用としていると考えるのは当然である。
例えば,アメリカによるアフガニスタン戦争後,アメリカ,イギリス,ドイツなどを中心にアフガニスタン国際治安支援部隊(ISAF)が結成され,テロ掃討作戦を実行していた。ISAFは「治安維持任務」を行ってきたが,アメリカ軍などと渾然一体になり,戦闘に巻き込まれて約3500人もの戦死者が現実に発生した。2015年5月28日の国会審議において,ISAFに参加するのかと質問を受けた安倍首相は,「今ここに再現して判断することが困難であることから,一概には言えない」と述べ,参加を否定しなかった。すなわち,実際の事例からしても,国際連携平和安全活動を通して,自衛隊が「戦力」となり,交戦権の否認にも抵触し,憲法9条に違反することになるのは明らかである。
(ハンマー)