一方で、ヘリモードにおけるオートローテーション自体についても重大な欠陥が指摘されている。オートローテーションとは、機体降下で生まれる空気の流れで回転翼を回し、揚力を得て緊急着陸する機能である。
前回も触れたように、そもそもオスプレイはローター/プロペラ円盤面積が小さいため実用上オートローテーションができる可能性は極めて低い。(たとえて言うと、パラシュートの代わりに小さい傘を差して崖から飛び降りるようなものだ)
米下院公聴会でオスプレイの欠陥を証言した元主任分析官レックス・リボロ氏は琉球新報とのインタビューで、「仮に市街地の上空でエンジンが停止する事態が発生したら問題だ。コントロールを失い、どこにでも墜落する」と述べている。オートローテーション機能の不全について「安全性に非常に深刻な穴がある」「模擬操縦機での訓練では克服できない」などと指摘している。
さらにリボロ氏は「国防総省は軍用機にもFAA(米連邦航空局)と同等の基準を要求してきたが、オスプレイは初めてそこから逸脱した」と語った。オートローテーション機能の不全は日本の航空法の規定にも違反する。
※オスプレイ、安全性に深刻な穴 元主任分析官リボロ氏が指摘(琉球新報)http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-191745-storytopic-1.html
※オスプレイ、安全面で法抵触 民間機なら不可(琉球新報)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-192675-storytopic-252.html
にもかかわらず、オスプレイが配備され住宅地の真上を飛ぶことが「許される」のは、ひとえに日米地位協定で、日本の航空法の規定が米軍機への適用除外となっているからに他ならない。
(資料)
雑誌「世界」2012年7月号「オスプレイの配備の危険性」 (NPO法人ピースデポ 塚田晋一郎)は、オスプレイの安全性に関するリボロ氏の証言を掲載している。リボロ氏は1992年~2009年政府直属の国防分析研究所でオスプレイの分析・評価に従事した専門家で米下院監視・政府改革委員会(2009年6月23日)にて証言した。
『…オートローテーションとはヘリコプター版の「滑空」である。すべてのヘリコプターは、エンジン故障時、あるいはローター駆動システムの故障やローター自身の不具合が発生した時に操縦者が意図的に行う、ローターへの動力供給の完全かつ不意の遮断が行われた時に、機体を安全に地上に誘導するため、同機能を有している。
V-22(オスプレイ)が安全にオートローテーションできないことは、今ではメーカーも海兵隊も承知している。しかし、V-22が、民生用輸送機であったならば、FAA(連邦航空局)が定める安全航行要件を満たしていないことを意味するこの事実は重要視されていない。それにもかかわらず、海兵隊指導部は、この問題にも、戦闘下でV-22に乗り組む若者たちに強いられる問題に対しても何らの懸念も抱かずにいる。・・・・
V-22の推進者たちは、同機は全エンジンが停止しても、航空機モードに変換することによって安全な着陸が可能であると主張している。しかし、これは自家撞着であり、事実をねじ曲げた議論である。V-22をヘリコプターモードから航空機モードに切り替えるには12秒を要する。両エンジンが停止もしくはエンジンの1台とドライブシャフトが故障したとすれば、V-22は、操縦ミスがないという理想的な条件の下でも、約12秒間で1600フィート(約488メートル)高度を失う。つまり、高度1600フィート以下での全動力喪失は、破局的な機体損壊の結果を招く。
加えて、航空機モードからヘリコプターモードへの変換は大きな危険性を伴う。同機の操縦マニュアルでは、エンジンナセルの角度が60度以上(※ヘリモードの時は90度になる)の時に不具合が生じた場合には、高度にかかわらず変換を試みてはいけないと指示(推奨ではない)している。つまり、マニュアルは、オートローテーションが安全に機能しないのを知りつつ、言外にパイロットには高度に関わらずオートローテーションに入るように指示している。・・・』(訳・ピースデポ)
(Fuku)
私は航空宇宙工学科の学生であります。
現在FAAにおいて、V-22型機やAW609などのようなティルトロータ機の安全基準の作成が進められているそうです。
固定翼機と回転翼機の良い所取りをした結果、どっちつかずの機体となり、機体システムも操縦も従来とは異なる難しさがあるようだ…と、講義の中でも時々話題にあがります。
V-22型機の民生版であるAW609についてはどのようにお考えでしょうか。
今後、航空救急事業においては、有力な機体と成り得る要素をもっていると私は考えているのですが・・・。
FAAの安全基準づくり、オートローテーションなしでも運航OKにしようというのでしょうか。
AW609についてですが、V-22の民生版というより、XV-15の実用版という印象です。
軽負荷での運用を前提にしているので円盤荷重はV-22よりましですが、それでも77 kg/m²と、オートローテーションは厳しいと思います。
H.O.G.E能力もXV-15の実績から類推したら低く、山岳救助などとても無理だと思います。
V-22には無い計器飛行能力と与圧防音キャビンなどを備えていてV-22より実用性はありそうですが、並列のローター・レイアウトはやはり不意自転や左右別々のVRSの恐れがぬぐえません。
なにより、ベル・ボーイング社が開発を断念して手を引き、アグスタ・ウエストランド社に売り払ったことの意味が大きいと思っています。