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(セルジュ、内にこもって。) 確かなのは、ぼくはもう長くは我慢できないだろうということだ。
(シュザンヌ) 彼の言うことに耳を貸さないでください。彼は結婚前よりも具合が良いのです。冬の風邪を引きません。
(セルジュ) どうしてわざわざ抗うんだい? やめたほうがいいよ。
(シュザンヌ) じゃあ、私はどうなるの? 私は、生きることを愛しています、奥さま。それがいけないことですか?
(セルジュ) 滑稽な趣味だ!
(アリアーヌ、シュザンヌに。) どちらかと言えば、あなたの仰るとおりですわ。私たちの人生は… けっきょく、どういうものであれ、私たちに相応なものなのです。
(セルジュ) ぼくは反対です。ぼくはこんな屈辱を受け入れるべきような人間ではなかった…
(シュザンヌ) どんな屈辱的なことがあるの?
(セルジュ) ヴィオレットはぼくを軽蔑している。
(シュザンヌ) それは正しくないわ。
(セルジュ) 確かだよ。もっともなんだ。
(シュザンヌ) でも、ねえ、私には思えるのだけれど、彼女自身のほうでは…
(アリアーヌ、話を遮って。) すみませんが、(つづく)
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(つづき)おやめになってください。ヴィオレット・マザルグさんには私は心底深い好意を抱いております。美しくて素晴らしい性質のひとです。(沈黙。)
(セルジュ、打ちのめされて。) それはほんとうです。あのお方についてどうお思いなのですか?
(アリアーヌ) お答えするのは難しいですね。私たちは一頃、たくさん手紙を書き合っていました。でも、彼女の手紙には、私に気に入られなければならないと思っているような、わざとらしい調子にいっしょうけんめいである印象を、私はいつも懐いていました。私には彼女の役に立つところが幾つかあるので、彼女は、私のものだと思っている次元に私を再び結びつけるのが、自分の義務だと信じていたのです。そうですね、こう言ってよろしければ、高い精神性の次元に、でしょうか。でも、彼女の言葉は、心底からの気持を感じさせるものではありませんでした。
(セルジュ) 高慢ちきだな。ぼくは一度もそれは感じることができなかった。
(アリアーヌ) 私がとりわけ思うのは、犠牲者なのだということです。犠牲者を裁かないようおねがいします。
(シュザンヌ) あなたはすばらしい方ですわ。
(セルジュ) 彼女はあなたに何のわるいこともしていませんよ。
(アリアーヌ、深い感情から。) そう確信しておいでですか?
(シュザンヌ) それについては、あなたは何も知らないわ。
(セルジュ) しかるに一方で、彼女はぼくを、(つづく)
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(つづき)言外の意味や不快な暗示で絶えず中傷するんだ。
(シュザンヌ) あなたは敏感すぎるわ。それに、つまるところ、彼女があなたのことを恨んだのも無理はないと思うわ。
(セルジュ) 何で恨むんだい?
(シュザンヌ) あなたがいなければ、多分ヴィオレットは今頃、身を立てているわ。
(セルジュ) 立身! 嫁入り!
(シュザンヌ) 私たちのようなその他の女性には、安全であることが必要なのよ。当然じゃないかしら?
(セルジュ) 自分のために話しなよ。
(シュザンヌ) 彼女だって、ほかの女性たちと同様に…
(セルジュ) 誓って言うけど、ぼくは彼女を誘惑していないよ。そんなつもりはなかった。そんな権利はぼくにはないと思っていた… その後、ぼくは、誰にもできないような非難を自分にした。ぼくは死にたい。
(アリアーヌ、その逆を意味する調子で。) このような打ち明け話を聞く資格は私には全然ありませんわ。
(セルジュ) ぼくはあなたのお宅へ、彼女のことを話すためにしか来たことはありません。シュザンヌがしつこくぼくに同伴したのは、ぼくのせいでしょうか? こいつには予め言っておいたのですが…
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