519の3『自然と人間の歴史・日本篇』東日本大震災とエネルギー源(化石燃料か原子力か)
2011年の東日本大震災に、時を同じくして起こったのが福島の原子力発電所の事故であって、それまでは比較的希薄であったエネルギー供給源を何におくかの議論が沸騰中である。かくも長きに渡って議論に決着がつかないのには、長らく専門家任せであったこの種の議論に国民の多くが参加してきたことがあろう。
ありていにいうと、専門家の中でも、原子力発電の安全性、有効性につき大きな意見の対立が見られるようになっている。例えば、アメリカの文化人類学者のジャレド・ダイヤモンド氏は、朝日新聞のインタビューで、原子力発電所の事故に関連して、次のような回答をしている。
・・・福島の原発事故について
「けっして福島の悲劇を軽んじるつもりはありませんが、原発事故も『リスクが過大評価されがちな事故』の典型です。私たち米国人もスリーマイル島原発の事故の後、1人の死者も出なかったのに、新しい原発の建設をやめてしまいました。それはあやまちだったと思います。原子力のかかえる問題は、石油や石炭を使い続けることで起きる諸々の問題に比べれば、小さい、と考えるからです。」(朝日新聞、2012年1月3日付け)
・・・放射能で環境が汚染されるリスクがあっても、原発を使い続けた方がよいと、ということですか。
「たとえ原子力の利用をやめたとしても、しばらくは化石燃料にたよらざるをえません。過去70年間、放射能で健康を損ねた人よりもはるかに多くの人が、化石燃料を燃やすことによる大気汚染の被害に苦しんできました。」
・・・放射能は人間の遺伝子を傷つけ、子どもへの影響が心配です。放射能廃棄物は10万年以上もの間、危険な放射線を出し続けます。
「確かにその通りですが、放射能の危険性と同時に、化石燃料の危険性も考えるべきです。二酸化炭素による地球温暖化はすでに、大きな被害をもたらすサイクロンなどの熱帯低気圧を増やしています。放射性廃棄物は地下深くに封じ込められますが、放出された二酸化炭素は200年間は大気中にとどまるのです。」
「いま一度、『現実的になろう』と言わせてください。原発事故や地震で、文明が続く可能性がそこなわれることはありませんが、二酸化炭素は現代文明の行く末を左右しかねない問題なのです。」
こんなふうに回答をしてくれているジャレド・ダイヤモンド氏の論調としては、やみくもに「福島以後も」エネルギー供給も原子力発電に頼りづけようというものではあるまい。そうではなくて、化石燃料と原子力とを天秤にかけて、前者の方が相変わらず安全性や効率性などにすぐれているのではないか、というのだ。
(続く)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆