294『自然と人間の歴史・世界篇』フロイトとユングとアドラー
ジークムント・フロイト(1856~1939)は、オーストリアの精神医学者にして、精神科医であった。伯爵領の毛織物職人としてのユダヤ人の家庭に生まれ、17歳でウィーン大学に入る。同大学医学部のエルンスト・ブリュッケ生理学研究所に入り、1881年に卒業。その後は、医者として働きながら、医学を中心に幅広く研究を続ける。やがて、ユング、アドラーと並ぶ近代心理学の創始者の一人(「巨匠」)として、広く知られるようになっていく。
フロイト心理学の特徴としては、「無意識」の世界が意識に与える影響を重視することにあったが、そのことは哲学へも影響を及ぼしていく。錯誤について取り上げたフロイトは、こういう。
「 この実例によってわれわれの考えている心理学の意図のいかなるものであるかがおわかりになると思います。われわれは現象をただ記述したり分類したりしようとしているのではありません。現象を心の中のいろいろな勢力の角逐のしるしとして捉えること、すなわちときには協力し、ときには対抗しながら、ある目的を目ざして働いているもろもろの意向の現われとみたいのです。われわれは心的現象の力動的な把握を求めているのです。」(「精神分析入門」
晩年の彼はまた、異分野にも発言するのをためらうことがなかった。こういう。
「民族の子孫たちが最大の存在と見なし誇りに思っている人間に対して不遜な論難を加えるなどということは、決して、好きこのんで、あるいは軽率に企てられるべきではない。とりわけ、自身がその民族に属している場合はなおさらであろう。しかしながら、いわゆる民族的利益のために真理をないがしろにすることは、そのような先例があるにもせよ、避けるべきである。さらに、事態の解明によって、われわれの認識の深化に役に立つ収穫が、実際、期待されてもよい。」(「モーセと一神教」筑摩学芸文庫)
「このユダヤ人を創造したのはモーセという一人の男であった、と敢えて言ってもよかろうと思う。ユダヤ民族は、その強靭な生命力を、また同時に、昔から身に受けいまもなお身に受け続けている周囲の敵愾心のほとんどすべてを、モーセという男から受けとったのだ。」(同)
(続く)
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