2『世界と人間の歴史・世界篇』銀河系
ビッグバンからどのくらいかの時間が過ぎていき、私たちが「銀河」と呼んでいる巨大な渦状の天体が数多く形成されていった。一つひとつの銀河には、1000億単位とも言われる極めて多くの星(恒星、惑星など)が含まれている。その一つひとつの出来方については、今のところ2つの説が出されている。
まずは円盤仮説だが、そのあたりに漂っていたガスとダスト(塵芥・ちり)を主体とした星間物質(せいかんぶっしつ)が、重力によって回転円盤状に集合していった。これらの物質の広がりには濃淡があった。その濃い部分は重力が大きいため、ますます多くの物質を引きつけて次第に大きくなっていった。互いにばらばらな動きを呈していた物質が、衝突を繰り返しながら反名対方向の力を打ち消し合っていく。
そのため、回転円盤状の所々にできた球体は緩やかに回転を始める。そして回転円盤状の中心部では、一つの恒星が原子の太陽として輝き始め、周辺部には地球を含む幾つもの惑星ができていった。
あるいは、それらの星間物質が互いの引力で徐々に集まっての、直径10キロメートル程度の微惑星が出来る。次いでそれらがしだいに多数集合して、同じく原始の太陽系円盤の中で原子の太陽、そして原始の惑星の大きさへと拡大していったのではないか、とも考えられており、こちらを微惑星説という。
これら両説のいずれにせよ、今日までにわかっているのはあくまで「それらしき」ということであって、大いなる仮説に基づいて全ての事柄が述べられていることに変わりない。この一連の出来事は、約46億年前のことであったろうと推測されている。
宇宙におけるフィールドとは、空間、時間、そして物質のことである。その大きさはどのくらいであろうか。一般に、この渦巻きをした銀河(galaxy:ギャラクシー)は1億から1兆個もの星から成り立っており、その銀河が多数集まって銀河群・銀河団となり、それがまた多く集まって超銀河団になるというように階層構造が広がっている。その全体が宇宙だと言える。
そこで、この渦巻き銀河を上から見ると、どうなっているのだろうか。アンドロメダ座の近くに肉眼で見える、「M31」と呼ばれるアンドロメダ銀河を例に挙げたい。すると、渦巻き形を形成している星の大集団を横から見ると凸レンズ状に見える。1924年、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルによって、それまでは私たちの銀河系の一部だと考えられていたのが実は別の銀河であり、それは天の川銀河と隣合わせであることが発見された。
私たちの銀河系に含まれる星の数は、およそ1000億個と見積もられる。それらの集合は、ディスク(円盤)に見立てることができるだろう。その直径は、約10万光年だと言われる。ここに1光年は1年の間に光が進む距離で、約10兆キロメートルを表す。およそ10京キロメートルある訳だ。ディスクの厚さは約1000光年ある。バルジとは、膨らみや樽の胴部分のことで、銀河系中心の盛り上がりをいう。このバルジを入れたディスクの厚さは1500光年位ある。いずれにしても、大変平べったい形をしている訳だ。その真ん中は実に沢山の星が密集していることから、まるで目玉焼きの黄身のように盛り上がっている。
その銀河の渦巻きの外延部に近い部分、そこを川底に見立てて、我が身を置いたとしよう。そこから「天の川銀河」(銀河系の別名)を見上げてみる。すると、天の川は夜空をぐるりと一周するようにして繋がっている。が星が集結している部分と、星がまばらになって見える部分とが分かれている。渦巻き銀河の中で星が一番集結しているバルジには、恒星集団が密集していると考えられている。外側まで広がっている円盤構造の部分に対し、こちらは厚さ方向に丸いというよりは、楕円体のような広がりをしている。
このバルジは、「巨大なブラックホール」で満たされていると考えられる。それは、例えば物理学者の高梨直紘(たかなしなおひろ)氏によって、比較的私のような者にもわかりやすく説明されている。少し長くなるが、引用させていただきたい。
「赤色巨星になった後の星の運命は、星の重さによって2つに分かれます。太陽の重さの8倍よりも軽い星は、星をつくっていたガスが宇宙空間に放出されていき、惑星状星雲と呼ばれる段階を経て、最終的には星の芯の部分だけが残ります。これが白色矮星(はくしょくわいせい)と呼ばれるものです。白色矮星では新しく核融合反応は起こらないため、基本的にはそのまま少しずつ冷えていき、最終的にはまったく光らない星となると考えられています。
太陽の8倍を超える重い星の中心部はさらに縮まっていき、星全体はさらに大きく膨らみます。そして、最終的には星の中心核が融けて圧力を失い、星全体が中心に向かって崩れ落ちる重力崩壊と呼ばれる現象を起こします。これが重力崩壊型の超新星爆発です。星をつくっていたガスの多くは宇宙空間に吹き飛ばされ、超新星残骸となります。
一方、星の中心部には中性子星あるいはブラックホールが形成されます。中性子星も白色矮星と同じく、時間の経過とともにエネルギーを失っていき、最終的には光を放たない天体になると考えられています。ブラックホールも、特に外部からの刺激がない限りは、そのまま大きな変化は起きません。」(高梨直紘「これだけ!宇宙論」、秀和システム、2015)
なぜそこにブラックホールがあるのかという問いかけに、クラウス教授は次のように言われる。
「とても忍耐強い天文学者がこの星々のちょうど真ん中あたりをみつけ続け、星々の軌道を観測した。すると、星がある暗い物体のまわりを回っていることがわかったんだ。この物体の質量をきめるのには、きみたちもこれから直ぐ好きになるニュートンの万有引力の法則を用いた。こうしてその物体がまわりに星を引き寄せていて、太陽の百万倍の質量があることがわかったんだ。とても小さく、光を放つこともなく、太陽の百万倍の質量を持つという事実から、われわれはブラックホールだと考えている。・・・・・もちろん、それが見えないことは残念なことだ。もっとさまざまな観測を重ねて、それが本当にブラックホールかだといえるのかを見極めたいと思っている。ブラックホールは密度が高すぎて、光さえ逃れることができない。脱出するには光より早い速度が必要なんだ。」(クラウス教授のアリゾナ大学での、社会人らを相手にした講義・宇宙白熱教室第一回「現代宇宙論」二〇一四年六月二〇日NHK放送)
そのブラックホールのあるところでは、「中心部を取り囲むように、「事象の地平線」と呼ばれる半径がある。事象の地平線の内側では、ブラックホールから脱出するために必要な速度が光の速度よりも大きくなるため、古典物理学によれば、なにものもそこから逃げ出すことはできない。したがって、事象の地平線よりも内側で放出されれば、光でさえも、ブラックホールの外に出てくることはない」(ローレンス・クラウス著・青木薫訳「宇宙が始まる前には何があったのか」文藝春秋刊)と考えられている。
(続く)
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