昔、サラリーマンだったころ、こんなことがありました。
ある朝、満員電車に乗って出社すると、やがて上司が、電話だと私に言うのです。電話に出ると、ある都内の警察署からでした。
警察というだけで、普通の人には縁がない、まして普通のおとなしい勤め人には縁もなければ関わりたくもない、で聞いてみるとご足労願いたいとのこと。
上司に許可を得て、翌日朝、まっすぐにその警察署に出かけましたよ。
なんだろうなあ、と不安に思いつつ、なんだろうなあと。応対したのは老刑事でした。
話の要点を書きますと、実は昨日、あなたを電車の中からツケテイタ と。尾行していたというのです。なんで?ある女性から「告発」というのでしょうか、インチキの告発ですが、
があって、あなたがある女性に 嫌がらせを行っているという電話だったかな、とにかく告発があり、昨日の朝、わっぱを持って、わっぱという耳慣れぬ言葉をはっきり言われました
電車に乗るところからツケテイタというのです。
ああ、万一、その日に限って、ぼくが、万一ですよ、むらむらその日に限って満員電車の中で避けられない混雑に 疑われるような行為、普段は 痴漢などまったくやる気もないしかし、その日に限ってですよ、しつこく言いますが 仙人だって下界の女の方の赤い腰巻を見て、ついむらむらと来たというではありませんか、まして若い女性や色っぽい雑誌の嫌いではない、異常に好きというほどではないつもりでもついむらむらときてですよ、お隣のきれいな若い女性に、接触でもしたらたちまち逮捕されていただろう状況だったとは本人は露知らず、のんきにいつもの朝の通勤のようにのんびり電車に乗っていたことを思うと、青くなりました。老刑事は紳士的でした。職人肌の刑事というには、ややくたびれた感のおじさんでしたが。
なぜそんな虚言癖の女の告発をまじめに受けるのかと思いましたが、とにかくヒヤッとしたことをよく覚えております。最近よく痴漢冤罪のニュースを見聞きしますが、警察は相変わらず女性の言い分中心に動くかのようです。確かに悪い男はいるでしょうからね。
思い当たる女の人は、確定的に言うのは避けますが心当たりがあるのです。
ちょっと前に知り合った人で、病的な癖を見た思いがして、くわばらくわばらと思ったものです。その女の被害者はぼくだけだろうか、とも思いながら会社に出社して、ことの詳細を上司に言いました。上司は話の分かる人でしたから。
ぼくは、勤め人としては無能だったし、40年近くも前のことなのにこのごろしきりに懐かしいように思うのです。編集の仕事もろくにできなかったけれども、沸々と写真には情熱を燃やし始めていた頃でした。
エッセイ 石郷岡まさを
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます