ロストラブ
「ファンとしてならいいんですけど…。
あんまりしてくれると他の人の手前もあるから」
いい気になってあなたのことを追いかけていたら
遂にこんなことを言われた。
あなたが優し過ぎたから…
いつでも温かく迎えてくれたから…
他の人たちが私のことを冷やかしていたから…
彼女気取りでいた。
幾通もの手紙。
誕生日には手作りのクッション。
バレンタインデーには
ありったけの気持ちとチョコレート。
風邪で寝込んだ時には
気休めのカセットテープとチューリップの花。
手作りのサンドイッチまで差し入れした日もあった。
そして最後のプレゼントは
クリスマスの手編みのマフラー。
電話も何回かかけてくれた。
「中村雅俊と石川さゆりの歌が好き。
聞いていてあー終わったなという歌よりも詩がいい歌が好き」
と言っていた人。
私も中村雅俊の歌は好きだったから
石川さゆりの歌を一所懸命に聞いて
石川さゆりの歌も好きになっていた。
短大の授業が終わった後に
グラウンドや神宮球場へ駆けつけた。
二年まではいい球を投げていたのに
四年のシーズンはベンチから外されてしまった。
「こんなこと言うべきことじゃないんですけど…
僕には結婚すべき人がいるんです」
これが最後の言葉になってしまった。
一番初めの手紙を書いた時には
こんな日が訪れるなんて思ってもいなかった。
どうして返事をよこしたの?
「電話番号を教えてください。写真ください」
と書いてきたの?
年下のくせに…
その気にさせておいて…
奈落の底に突き落すなんて…
ひどい。
でもなぜか
恨みなんて…憎しみなんて…
これっぽっちもなかった。
あまりにあなたが優し過ぎたから。
憎めたら…
嫌いになれたら…よかった。
年下は好みでないはずなのに…
そんなあなたが好きだった。
せめてあなたが卒業するまで見つめていたかった。
あなたがスター選手ならば
こんな悲しい思いをしなくてすんだのに。
だって…
見つめるだけで充分だったから。
それ以上のことなんか望まなかったから。
某大学野球部の投手だったWくん。
子供の頃の事故が元で片目投手だったWくん。
NSP「八十八夜」の歌詞がぴったりきてしまい、
泣きながら聴いていた。
八十八夜 (作詞 作曲 天野滋) 1978年(昭和53年)
引き出しの中から あの人の写真
みんな捨ててしまった筈なのに
それはもう黄ばんでしまっていて
泣き顔か笑い顔かわからない
あの人の想い出にピリオドをうって 明日 嫁ぎます
もうすぐ八十八夜 もうすぐ暖かくなる
もうすぐ八十八夜 もうすぐ幸せになる
こんな夜に あの人の電話
遠くで懐かしさが話しかける
本当はあの人に手を引かれ
一緒の人生を歩きたかった
昨日までのあの人を忘れられないのは 私の 弱さでしょう
もうすぐ八十八夜 もうすぐ暖かくなる
もうすぐ八十八夜 もうすぐ幸せになる
写真が黄ばむようにあの人とのことも 色褪せてゆくかしら
もうすぐ八十八夜 もうすぐ暖かくなる
もうすぐ八十八夜 もうすぐ幸せになる
BGM
N・S・P「八十八夜」
~N・S・P「八十八夜」~