コロナ禍で一旦中止になったオッタービオ・ダントーネと紀尾井のアンサンブルの共演が実現した。勿論夫人でコントラルトのデルフィーヌ・ガルーを伴ってのことである。まずはヘンデルの歌劇「アルチーナ」序曲、サラバンド、ガヴォットⅡ、それにアリア「復習したいのです」で始まり、歌劇「ジュリーオ・チェザーレ」よりアリア「花吹く心地よい草原で」、歌劇「リナルド」よりアリア「風よ、暴風よ、貸したまえ」と続いた。さぞかし尖った演奏なのだろうと思っていたが、紀尾井のアンサンブルが穏やかに受け止めてか、とても居心地の良い古楽の響きに驚いた。細かなパッセージでも一糸乱れぬ弦にニュアンス豊かな木管は紀尾井の強みだ。一方ガルーの歌唱は声量こそあまりないが、自在に喉を駆使して見事なアジリタを聞かせた。響きが今ひとつ抜けきらない感もあったが、伴奏はそれを上手くカバーした。続くステージは同時代のナポリ派の作曲家ポルポラのピアノ協奏曲ト長調。この曲は元来チェロのための協奏曲なのだがダントーネが鍵盤楽器のために編曲し、今回はダントーネがピアノで独奏をした。古典派を通り越してロマン派的な響きを聞かせた編曲が面白かった。休憩を挟んで次のステージはヴィヴァルディだ。まず歌劇「テンペのドリッラ」からシンフォニア、歌劇「救われたアンドロメダ」からアリア「太陽はしばしば」、歌劇「狂えるオルランド」よりアリア「真っ暗の深淵の世界に」、そしてガラッとかわってグルックの歌劇「パーリデとエレーナ」よりアリア「甘い恋の美しい面影が」。後半になるとガルーの声は少し前へ届くようになってはきたが、そもそも小さな空間で歌われるべきものなのだろうから、無理のない響きで丁寧に技法を尽くすというスタイルがそもそも音符に合っていうようにも思われた。そして日頃まったく接することのないバロック・オペラの四人の音楽家を一つの舞台に並べて聞くうちに其々の個性が明確に聞き取れて実に楽しい時間が過ぎていった。ここでいい忘れてはいけないのは「狂えるオルランド」のアリアでのコンマス玉井菜採のオブリガード・バイオリンの見事さだ。ガルーと同じ感性をもってピタリと寄り添う音楽にガルーの歌唱ともども惚れ惚れした。そして最後は実に逞しいハイドンの交響曲第81番ト長調で結ばれた。古楽スタイルであるのに決してエキセントリックにならない骨太の音楽に、このスタイルの成熟を聞いた。ここで終わりかと思ったら鳴り止まぬ拍手にダンドーネがついに夫人を帯同して現れてアリアのアンコール二曲。ガルーの技にアジリタの悦楽を味わった一夜だった。
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