今年生誕150年と160年を迎える英仏二人の作曲家を集めた興味深い一夜である。指揮は当団首席客演指揮者で英国音楽を得意とする藤岡幸夫だ。まずはひそやかにラルフ・ヴォーン=ウイリアムズの「トマス・タリスの主題による幻想曲」から始まったが、シティ・フィルの弦の音の美しさに度肝を抜かれた。この曲は弦楽四重奏と二つの弦楽合奏グループの三群から成る特殊な編成なのだが、舞台正面に高く設えられた9名の弦楽合奏群からはあたかもパイプオルガンのような響きが広がり、それが弦楽合奏の裏で静かに響くという何とも神秘的な時間は至福の時であった。続いてはピアノ・ソロに寺田悦子と渡邉規久雄を迎えて、同じVWの「2台のピアノのための協奏曲」という珍しい選曲だ。前曲とはうって変わった力感溢れるソリッドな音色の作品で、この作曲家としては異色の音楽だ。そもそも私はこの作曲家が苦手なのだが、音楽の色合いが非常にはっきりしているので、これは大層面白く聞いた。決して固くならずにしなやかに運んだ出色の指揮だった。休憩後はドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」と交響詩「海」の名曲揃い踏みだ。「牧神」ではソロ・フルート奏者の竹山愛の柔らかな音色とそれに呼応するホルンが印象的だった。他の木管アンサンブルの妙義もこの楽団の強みだ。スッキリとした仕上がりの「海」もよかったが、トランペットにはいつものキレと輝きが欲しかった。
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