注目の指揮者マクシム・パスカルが紀尾井に登場した。そしてソリストは鬼才ニコラ・アルシュテットだ。まず最初はフォーレの組曲「マスクとベルガマスク」+「パヴァーヌ」。初っ端からフランス的な音色に耳をそばだてた。何とも表現し難いが、透明で軽やかでいつもの重厚な紀尾井の音とは明らかに違う。木管が浮き出てそのニュアンス豊かな表現が心に染みる。2曲目はアルシュテットの独奏でショスタコヴィッチのチェロ協奏曲第1番変ホ長調。ソロは恐ろしく雄弁で技巧的にも完璧。そしてショスタコの機知に富みつつ深刻な内容をも含んだ音楽を実に見事に表現した。第二楽章と三楽章の祈りにも似た内相的な表現、そしてフィナーレの快速な超絶技巧。作曲家の持つ多面的でカメレオン的な要素を包み隠さず引き出した名演だった。それにピタリと追従したパスカルの指揮にも心が踊った。頻出して重要な役割を持つ日橋辰朗のホルンも秀逸な出来だった。アンコールはバッハの無伴奏組曲の中の一曲だったが、そこではしなやかであると同時に、静謐で思索的な深い音楽が溢れ出て、このチェリストの持つ音楽の多面的を知ることができた。休憩を挟んでは、ベートーヴェンの交響曲第4番変ロ長調作品60だ。この交響曲は9つの中で比較的目立たない存在なので、一晩のプログラムのメインに据えられることはまずない。しかしこの演奏を聞いてメインに据えられた理由が分かった。とにかくこれまで聞いたことがないような4番だった。快速で進められる中で、作曲者がこの曲に盛った新奇性が次々に明らかになるのである。例えるならば、まるでベルリオーズの幻想交響曲を聞いているような感触だった。ドイツの伝統に則ったベートーヴェンでは決してないのだが、この曲が秘めた大胆な仕掛けを創意に富む表現でさらけ出し、この曲の価値を明らかにした滅多に出会えない演奏だったと思う。ファゴット、クラリネット、フルート等のソリスト達の鮮やかな名技も聴き映えした。
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