
今日は、黙々と天ぷらを揚げている。
この前、来たときは、機関銃のようにジョークを繰り出していたというのに、店主は寡黙に天ぷらを揚げている。
それも、店内に流れるBGMはシャンソンで、それを口ずさみながら菜箸を動かしている。
うまい!安い!天丼~をキャッチフレーズに、7人ほどのカウンター席がある小さな店の中は、この店主の一挙手一投足が支配し、流れるような段取りで、ネタに衣をまとわせ、温度を低くした鍋と、高温の鍋を使い分けながら、手際よく天ぷらを揚げてゆく。
メニューは、天丼(写真下)、海鮮丼、穴子丼が700円、店名を冠した豊野丼が900円(見出し写真)、黄金丼が1100円。
そして、その日の仕込み具合で、特別メニューの天丼があったりする。
「付けるか付けないか」と聞かれる、味噌汁は100円。
タクアンは、小皿とともに出されるアルマイトの蓋付容器に入っているものをセルフで取り分ける。
よく見ると、2軒置いて、同じ「天ぷら・豊野」を名乗る店がある。
見るからに小ぎれいで、店の前にはプランターが並び、花が咲いている。
こちらもカウンター席だけれど、そこそこのキャパがあって、並ばずに食べられる。
天ぷらのお土産も買うことが可能だ。
まだ、入ったことはないが、奥さんがやっていると聞いた。
それでも、決して小ぎれいとはいいがたい、ダンナの店に並ぶのは、威勢のいいやりとりと、たまにやってくる若いOLに「セクハラがいやだったら、隣の店に行け!」とばかりに、飛び出すジョークが聞きたいからだろう。
おまけに、頃合いを見計らった、揚げたて、熱々の、美味い天丼が食べられるときては、どうしても並びたくなる。
今年の灼熱の夏に行ったときなどは、炎天下、おじさんたちが並んでいる中、OLの女の子だけは可哀想だと、冷房の効いた店内に招き入れ、水は勝手に自分で注げといいながら、女の子のコップに店主自ら水を入れるサービスを欠かさない。
間髪を入れずに「彼女、いくつだい?」と聞く、女の子が「28」ですと答えようものなら、「いくつって、彼氏のサイズだよ、デカイね」などと会話が交わされる。
すると、電話でテイクアウトを頼んでいたお客さんがやってきた。
「2個つくっといたけど、3個にしない?3個にすれば味噌汁サービス、5個なら2リットルのお茶、10個なら若い衆を付けちゃうよ」といい、「この前、10個の注文があって、若い衆をサービスに持ってけといったら、9個と1個に分けて下さいといわれた」とオチを言う。
また、店内に入ってから、何にしようかと迷うお客さんには、「迷ったときは一番高くてうまい黄金丼」とカマをかけ、「天丼」と注文しようものなら、「ハイ、一番安い天丼ご注文」とくる。
ボリュームがあるから致し方ないが、ご飯を食べ残したお客さんには「ご飯を残したらゴミになる、先にご飯の量を言ってくれれば、その分、次のお客さんにサービスできるから、次に来たときは言っておくれ」
とにかく、ポンポンとジョークが出る。
なぜ、この日は無口なんだろう?店内を見回すと、おじさんばかりだった。
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